震災に便乗した「緊急事態条項」
2015年05月27日
朝日新聞世論調査によれば、「憲法9条を変えやすくするために、まず国民の賛成が多い条項を変えて、国民に憲法を変える手続きに慣れてもらう」という考え方について尋ねたところ、「評価する」は32%で、「評価しない」が60%に達した。自民支持層でさえ、「評価しない」が49%で、「評価する」の43%を上回ったという(以上、『朝日新聞』2015年5月2日付)。
「安倍氏は首相に返り咲くと、過半数の賛成で改憲案を発議できるようにする96条改正を唱えた。ところが、内容より先に改正手続きを緩めるのは『裏口入学』との批判が強まった。……9条改正を背後に隠した『お試し改憲』もまた、形を変えた裏口入学ではないか」(『朝日新聞』5月3日付社説)と。
ところで、この「形を変えた裏口入学」の手段に緊急事態条項が選ばれたことに、憲法研究者として大変驚かされた。
憲法改正推進本部の政治家たちは、緊急事態条項が「合意を得やすい」と本気で思っているのだろうか。
緊急事態条項の背後には、「国家緊急権」という憲法学における重厚長大な難問が控えている。
国家緊急権とは、戦争や内乱、大規模災害など、国家の維持・存続を脅かす重大事態において、平常時の立憲主義的統治機構のままではこれに有効に対処しえないという場合に、執行権に特別の権限を付与または委任して特別の緊急措置をとれるようにする例外的な権能のことをいう(拙著『現代軍事法制の研究――脱軍事化への道程』日本評論社、1995年)。
これが難問である所以は、緊急事態条項は、強大な例外的権能が執行権に与えられるため副作用や反作用が大きく、どこの国でもその誤用・濫用、悪用、逆用の悩ましい過去の一つや二つは持っているからである。
だから、それぞれの国の憲法には、濫用などを防ぐための「安全装置」がさまざまにセットされている(以下は、拙稿「緊急事態条項」奥平康弘他編『改憲の何が問題か』岩波書店、2013年参照)。
もし、日本に緊急事態法を本気で導入しようとしたならば、相当な議論が必要になるはずである。
実は、自民党改憲草案では98条と99条の2カ条が緊急事態条項なのだが、これがとんでもない代物なのである。
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