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安倍首相は、安保法制でなぜあんな比喩を使うのか

ネトウヨ的に劣化する議論に抗する学者たちの署名運動

三島憲一

「国賊」も「非=国賊系」も

 安倍安保法制への反対運動が北海道から沖縄までそれぞれの地域で、それぞれの層で、それぞれの職業グループで盛り上がっている。

 われわれのような大学や研究所に席を置く者たちも、定年退職者も含めて、「安全保障関連法案に反対する学者の会」という名称で署名運動を開始したら、あっという間に大学関係者だけで7月23日現在で1万2000人以上になった。一般の方々らの賛同者も2万5000人を越えた。

安保法案に反対し記者会見する約150人の学者ら。最前列右から上野千鶴子・東京大名誉教授、益川敏英・京都大名誉教授、佐藤学・学習院大教授ら=東京都千代田区の学士会館拡大安保法案に反対し記者会見する約150人の学者たち=2015年7月20日、東京都千代田区の学士会館
 発起人にはノーベル物理学賞受賞者の益川敏英氏も入っておられる。活動の中心にあって大活躍されているのは、教育学者として高名な、学習院大学教授の佐藤学氏である。

 公開されている署名者名簿を見ると、最初のうちは文化論や社会論を扱う研究者が多く、文科省が人文社会系の学部をつぶすと息巻いているのもむべなるかな、と思わせるものがあった。

 「国家に有害な不逞の輩」、いや「国賊」が多いということだろう。しかし、時が経つと電子工学や物性論、医学や実験化学のような、「役にたちそうな」分野、「非=国賊系」の方々も非常に多くが署名されている。

 憲法学者や政治学者など専門上当然と思われる方々も多いが、純文科系のなかには研究テーマやこれまでのお仕事から政治的な意思表明には無縁と思われる方々、法律や経済では政府の審議会や委員会で活躍されている方々、どちらかというとセンター・ライトとお見受けする学者も多い。これまでは考えられなかったことである。

 このことは、今回の法案がいかに暴挙のトンデモ法案であるかを示している。少しでも筋道立てて政治や社会について考える研究者ならば、立場を越えて大同団結してしまうほどに、われわれが国家のなかで自由で平等な市民として平和のうちに暮らすための基礎が奪われていることを直感されているのだろう。

安倍政権の政治態度

 ところで運動が広がっている理由のひとつに安倍首相の「国民に理解を得る」ための説明の幼稚さ、稚拙さ、愚鈍さがある。

 分かりやすい比喩で「おじいさんやおばあさん」に納得してもらおうという魂胆なのだろうが、「私が友人の麻生君と道路を歩いていると不良に殴りかかられて」をはじめ、「戸締まりをしようということなのだ」から、「隣の家の火事を消さないで見ていていいのか」、といったさまざまな例が安倍首相ばかりか、自民党の大物からも打ち出されている。

 本当にこんな比喩を信じているのだろうか。家族・友人・近所の隣人関係と国家間の関係はまったく別の法的規制、交際の形式、信頼と不信のあり方を取ることは、およそ政治や社会についての思考の前提ではなかろうか。

 呼びかけ人の一人の法律学者の方は、ご自身のゼミで学生が程度の低い議論をはじめると「それは ・・・続きを読む
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筆者

三島憲一

三島憲一(みしま・けんいち) 大阪大学名誉教授(ドイツ哲学、現代ドイツ政治)

大阪大学名誉教授。博士。1942年生まれ。専攻はドイツ哲学、現代ドイツ政治の思想史的検討。著書に『ニーチェ以後 思想史の呪縛を超えて』『現代ドイツ 統一後の知的軌跡』『戦後ドイツ その知的歴史』、訳書にユルゲン・ハーバーマス『近代未完のプロジェクト』など。1987年、フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞、2001年、オイゲン・ウント・イルゼ・ザイボルト賞受賞。

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