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対中国「先制攻撃」を可能にする安保法制

7・15事件は、平成の「日中事変」の導火線か?

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

戦前と戦後の政治循環

 安保法制の強行採決は憲法クーデターであり、戦前の政党内閣期が5・15事件で終止符を打たれたように、今の日本は平成デモクラシーの終焉の危機に瀕している(「平成の7・15事件=憲法クーデターとの戦い――安保法案強行採決は『憲政』の転覆行為」WEBRONZA、2015年7月24日)。

 私は、1994年に「政治改革」という名の選挙制度改革が行われた頃から、過去20年以上にわたって、このような危険性を危惧してきた。戦前に大正デモクラシーによって二大政党による政党内閣の成立と崩壊があったように、選挙制度改革によって二大政党化が進み、その後の日本の政党制の崩壊が来るのではないかと恐れたのである。

 これを私は日本政党制の「戦前循環」と「戦後循環」と呼んで、1993年に論文を書いてから、ことある度にこのような危険性を指摘してきた。

 この戦後循環における衰退の局面が進行し始めてから、私は真のデモクラシーの崩壊と(準)右翼的体制変革の危険性について警鐘を鳴らした。これがいよいよ決定的な形になったのが、平成の7・15事件なのである。

参院審議が明らかにした政府の真の狙い

安保関連法案の参院特別委で答弁する安倍晋三首相=29日20150729安保関連法案の参院特別委で答弁する安倍晋三首相=2015年7月29日
 参議院の審議は冒頭から真実に肉薄し、衆院審議では政府が隠していた真の狙いを明らかにした。

 政府は集団的自衛権行使容認の理由を、当初は、北朝鮮の攻撃に際して日本人を脱出させる米艦の防護の例で説明し、さらにイランによるホルムズ海峡の機雷の掃海などで説明してきた。

 ところが、いずれもその非現実性が明らかになってきた。

 前者については、そもそも軍事的には実際に起きる可能性がなく技術的に米艦防護は不可能であり、法的にも個別的自衛権で対応可能である、という反論がなされた。

 後者についてはアメリカとイランとの間で核協議が合意され、イランの駐日大使が海上封鎖の可能性を否定したので、日本政府も「特定の国が機雷を敷設することを想定していない」と答弁を修正せざるを得なくなったのである。

 そこで、参院審議を前にして外務省は中国の東シナ海のガス田開発の写真を公開し、参院審議では安倍晋三首相が初日(7月27日)に「東シナ海においては中国が公船による領海侵入を繰り返しています」「南シナ海においては、中国が活動を活発化し、大規模かつ急速な埋め立てや施設の建設を一方的に強行しています」と述べた。

 つまり、中国の脅威を安保法制の理由としてあげるようになり、南シナ海で機雷掃海を行う可能性を、以前は否定していたのに一転して認めたのである。

 私は、当初から、集団的自衛権行使を可能にする目的は、中東ではイスラム国に対する多国籍軍の攻撃や、東アジアでは中国との戦争に対して日本が参加ないし後方支援を行うことであると考えて、これらの事例について述べてきた。対イスラム国戦争に日本が加わることを考えているといえば、さらに安保法案の危険性が明確になり、内閣支持率が激減するに違いない。

 そこで、内閣は中国の脅威に

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