機雷掃海よりも現実味がある人質事件
2015年09月02日
「北朝鮮に連れ去られた拉致被害者を奪還せよ」
自衛隊の特殊部隊にこんな命令が下されたら、部隊はどんな作戦計画を立てるのだろうか。本物の特殊部隊出身の元幹部自衛官たちが今年2月末、安全保障法制をめぐる見直し論議に一石を投じようと、東京・永田町の衆院議員会館であったシンポジウムで具体的な奪還シナリオを紹介した。
主催した「予備役ブルーリボンの会」代表の荒木和博拓殖大教授は冒頭、「連れ去られた拉致被害者を政府が取り返すのは当然ではないか。それには様々な障害があり、それを理解してもらいたい」と意義を強調した。会場には国会議員や拉致被害者の家族の姿もあった。
会議室の壁には、まず投入される艦艇や航空機や作戦内容が映し出された。海上自衛隊の大型ヘリ搭載護衛艦「ひゅうが」、イージス艦、陸上自衛隊の複数の攻撃ヘリや大型輸送ヘリ……。
北朝鮮沿岸部の都市・清津と京都・舞鶴が一直線で結ばれ、それぞれの部隊配置が図解される。しだいに護衛艦に積んだヘリを使って特殊部隊員を送り込み、拉致被害者を連れ帰るという大がかりな作戦であることがわかってきた――。
作戦計画を練り、シミュレーションしたのは「予備役ブルーリボンの会(RBRA)」の有志。同会は、拉致問題の早期解決をめざす約100人の元自衛官や予備自衛官たちの集まりだ。
会場での説明には、陸上自衛隊特殊作戦群の初代群長、荒谷卓氏と海上自衛隊特別警備隊先任小隊長だった伊藤祐靖氏があたった。いずれも陸自と海自の特殊部隊で、実際に部隊を率いた経験をもつ元幹部たちだ。
奪還作戦のシナリオは、北朝鮮が内乱によって無政府状態に陥り、在留外国人の安全確保を求める国連決議が出されたとの想定で組み立てられていた。
日本政府は、大型護衛艦に積んだ輸送ヘリコプター数機と数十人の自衛隊特殊部隊からなる救出チームを北朝鮮沿岸に派遣し、沿岸部の収容施設から10人の拉致被害者と家族を助け出すという筋書きだ。清津という地名を挙げたのは、かつて拉致被害者の1人がそこに収容されていたとの報道をもとにしたという。
ただしシナリオは、いかに奪還するかという戦術面に焦点をあてたものではない。荒谷氏は「いかに作戦を遂行するかではなく、作戦によってどんな問題が生じるかを検証した」と話す。
結論を先取りすると、浮かび上がったのは、それまでほとんど議論されてこなかった「政治的なリスク」の重みだった。
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください