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安保法制(新法)の課題と問題点

日本は国連を活用して対米偏重を改め、自立した未来志向の国家戦略を築け

川端清隆 福岡女学院大学国際キャリア学部教授

 政府が推し進めた一連の安保関連法が参院本会議で自公両党などの賛成多数で可決され、成立した。集団的自衛権の行使に道を開く新法は、「専守防衛」を柱とする日本の安保政策を見直し、ひいては国のあり方を変容させる転機となるかもしれない。

趣旨や方向性、国際社会の反応は良好

 戦後日本の節目となる立法であるが、その趣旨や方向性について、国際社会の反応は概ね良好といえる。これは、アジアをはじめとする世界の国々が、国連憲章がすべての加盟国に認める集団的自衛権の行使に、特段の違和感を抱かないためであろう。

 また、国連の視点で見ると、国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊の武器使用基準が緩和され、駆け付け警護や治安活動が可能となったことは評価できる。主要加盟国である日本がPKO協力を拡充すれば、国連の集団安全保障のすそ野が広がり、国家の利害を超えた地球的な秩序の実現に一歩近づけるためだ。

 しかし、当初の良好な反応は必ずしも、新法の無批判な受け入れを意味しない。立法に至る過程や、今後の新法の運用に、懸念を禁じ得ないためである。

違憲か合憲か「入り口論」に終始した国会

 国家の根幹に関わる安保法制の健全な運用のためには、広範囲の国民の理解と支援が必須である。ところが、この春から連綿と続いた国会審議は表層的な抽象論に終始して、安全保障をめぐる国民的な議論が深まることはなかった。

安保関連法案の参院特別委で答弁する安倍晋三首相拡大安保関連法案の参院特別委で答弁する安倍晋三首相

 本来、今回のような戦争と平和に関わる問題を、冷静に議論することは容易ではない。これは平時において一般国民が、政府の言うところの「安全保障環境の変化」を、身近な問題として具体的にイメージし難いためだ。

 戦争を知らない大多数の日本人にとって、目に見えぬ将来の脅威を予測し、多岐にわたる対処法の是非を判断することは、至難の業である。

 むしろ議論では、他国の戦争に巻き込まれる危険や自衛隊員が負うリスクの増大など、容易に感知できる安全保障の負の側面のみが注目されがちとなる。

 実際、野党から「戦争法案反対」や「徴兵制阻止」など情緒的な主張がなされ、国会審議の深化を妨げた。政府の答弁の中でも、「存立危機事態」や「重要影響事態」など国内でしか通用しない造語が飛び交い、審議の難解さに拍車をかけた。

 表面的な議論の最たるものは、憲法解釈に関わるやり取りであった。確かに、いかなる安保関連法案も、憲法9条との整合性なしに議論されるべきではない。

 しかし、国会での議論のほとんどは、違憲か合憲かの「入り口論」に終始してしまった。

法と政治の結節点を探求する論議が欠落

 問われるべきは、今日の国際情勢に照らして、現行のままで日本の平和を守れるか否かという、安全保障の核となる議論ではなかったか。

 とりわけ惜しまれるのは、憲法の法的安定性を維持する法律上の要請と、国際環境の変化に適応する政治上の要請との間で、両者のバランスを如何に保つかという論議がほとんどなかったことである。

 安全保障においては、法的要請と政治的要請は双方とも必要不可欠な要件であり、どちらか一方が絶対ということではない。

 国会審議に欠けていたものは、変わらぬ法の原則と常に変化する国際政治の現実という、異質な二つの要件の調和を目指す「国権の最高機関」の名に恥じぬ成熟した議論あろう。法と政治の結節点を探求せずして、真剣な安保論議を行ったとは言いがたい。

安保法案の廃案を求める国会前デモ拡大安保法案の廃案を求める国会前デモ

 国民理解の欠如は、新法の抑制的な運用を阻害するかもしれない。

 平時と違い戦時においては、国民世論は極端から極端へと大きく揺れ動くことが多々ある。侵略や虐殺など「今そこにある危険」に直面したとき、国家や国民は目先の利害や煽情的な議論に影響され易いためである。

 時の政権による濫用を防ぐため、広く国民を巻き込んだ継続的な議論と、改善に向けたたゆまぬ努力が望まれよう。安保法制の成立は、議論の終わりではなく、国を挙げた新たな議論の幕開きに過ぎないはずである。

懸念される国連と日米同盟の関係

 新法の運用において懸念されるのは、国連と日米同盟の関係である。

 今回の安保法制では、集団的自衛権の限定的行使や有志連合に対する後方支援の拡大など、日米同盟を強化する狙いばかりが目に付いた。

 安倍晋三首相は、集団的自衛権を使えるようにして同盟の双務性を高めれば、有事の際に米国を巻き込めると考えているように見受けられる。

 しかし、双務性の高まりは一方で、米国の世界戦略に深く組み込まれることを意味し、日本は対米依存を強めてしまう。

 米国の戦争に「ノー」と言える余地を、自らの手で狭めてしまうのである。

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筆者

川端清隆

川端清隆(かわばた・きよたか) 福岡女学院大学国際キャリア学部教授

大阪府出身。通信社を経て1988年より25年にわたり国連本部政治局で政務官として勤務。アフガン和平交渉やイラク戦争の戦後処理に関わった後、2004年以降は安保理担当として第二次核危機以降の北朝鮮の核ミサイル問題に関する審議に関わる。2013年より現職。著書に「アフガニスタン 国連和平活動と地域紛争」(みすず書房)や「イラク危機はなぜ防げなかったのか 国連外交の六百日」(岩波書店)。共著に「PKO新時代 安保理からの証言」(岩波書店)。

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