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「メイド・イン・ジャーマニー」への信頼感

 フォルクスワーゲン(VW)による大規模な排ガス不正は、多くの市民に「VWのような有名企業で、このようなことが起きていたとは」という驚きを与えた。現在ドイツの政界や産業界が最も懸念していることは、今回の事件によってドイツのディーゼル技術、ひいては高品質の代名詞だった「メイド・イン・ジャーマニー」に対する信頼感が揺らぐことである。

 ジグマー・ガブリエル経済大臣や、ドイツ自動車工業会(VDA)のマティアス・ヴィスマン会長は、VWの不正を糾弾しながらも、「VWの全ての社員、そして自動車業界全体を疑惑の目で見ることがあってはならない」と強調している。特にヴィスマン会長は、「地球温暖化防止という目標を達成するためには、有害物質の排出量が相対的に少ないディーゼル技術は不可欠」という見方を打ち出している。

 ドイツの自動車業界にとって気になるのは、環境保護団体の動向だ。この国の環境団体は、数年前から「ドイツの自動車の中には、窒素酸化物の実測値が規制値を大幅に上回る物がある」と主張してきた。

 ベルリンの環境団体「ドイツ環境援助機関(Deutsche Umwelthilfe=DUH)のユルゲン・レッシュ代表は、9月24日に発表した声明の中で、「VWグループだけでなく、他の自動車メーカーでも試験場での窒素酸化物の排出量と、路上での走行時の排出量の間に、食い違いがあることを示すデータがある」と述べ、自動車メーカーに対して「9月25日の午後3時までに、試験時に窒素酸化物が低くなるように工作されている車のリストを公開せよ」と要求した。

 これに対して自動車メーカーは、「当社では排ガスデータ捏造の事実は一切ない」と疑惑を全面的に否定。「DUHが、当社でもデータの捏造が行われているかのような印象を与える情報を公開し続ける場合には、法的措置も辞さない」という声明を発表している。

 DUHは、すでに半年前に、自動車メーカーが排ガス規制を実際に守っているかどうかを点検するよう連邦政府に要求していた。DUHのレッシュ代表は、「フォルクスワーゲンの不正は氷山の一角にすぎない。ドイツの行政当局は、走行時の有害物質の排出量が、車検などの検査時の排出量を大幅に上回っているということを、知っていたはずだ」と主張している。

 DUHは、自動車メーカーの社員に対し、走行時の窒素酸化物の排出量と車検時の排出量の違いについて、内部告発を行うよう呼びかけている。環境政党・緑の党のオリバー・クリシャー議員も、「ドイツ政府は、この問題を知っていた」と主張している。かつて連邦環境庁の課長で、現在は環境NGOで働くアクセル・フリードリッヒも、「有害物質の排出量に関する、メーカーの技術的な不正は、日常茶飯事だ」と主張する。

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筆者

熊谷徹

熊谷徹(くまがい・とおる) 在独ジャーナリスト

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「なぜメルケルは『転向』したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実」、「ドイツ中興の祖・ゲアハルト・シュレーダー」(日経BP)、「脱原発を決めたドイツの挑戦」(角川SSC新書)など多数。「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。
WebSite:http://www.tkumagai.de
Facebook:https://www.facebook.com/toru.kumagai.92
Twitter:https://twitter.com/ToruKumagai

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