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[1]安倍政権は立憲主義を破壊しようとしている

(WEBRONZA×朝日カルチャーセンター連携講座)

長谷部恭男 早稲田大学教授(憲法学)

 WEBRONZAは朝日カルチャーセンターの協力を得て連携講座を設け、ご契約者の方々をご招待するとともに、その内容を随時、連載記事としてWEBRONZAで紹介しています。

 今回は早稲田大学の長谷部恭男教授による「憲法と安全保障」です。

 集団的自衛権を行使できるようにする安全保障法が2015年9月19日未明、参院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決され、成立しました。その日の午後、東京・新宿の朝日カルチャーセンター新宿教室で開かれた講座をもとに、長谷部さんに加筆修正いただいた内容を、3回の連載でお届けします。

 長谷部恭男(はせべ・やすお)さんの略歴は次の通りです。1956年生まれ。東京大学法学部卒業。学習院大学教授、東京大学教授を経て早稲田大学教授。主な著書に「憲法学のフロンティア」(岩波書店)、「比較不能な価値の迷路ーーリベラル・デモクラシーの憲法理論」「憲法の理性」(東京大学出版会)、「憲法とは何か」(岩波書店)、「憲法と平和を問いなおす」(ちくま新書)、「法とは何か」(河出ブックス)、編著に「検証・安保法制 どこが憲法違反か」など。

「何かおかしい」 国民の間に広がっていた疑念

 6月4日、衆院憲法審査会に出かけまして、その時はまだ安保法案といわれていましたが、少なくともその核心部分、つまり集団的自衛権を行使するという点については「違憲である」と申し上げました。一緒に出席した小林節さん(慶応大学名誉教授)、笹田栄司さんも(早稲田大学教授)もそろって違憲であると発言しました。その結果、社会に大きな動きが生じて来たということはご存じの通りです。

衆院憲法審査会に参考人として呼ばれて意見を述べる(奥から)長谷部恭男・早稲田大学教授、小林節・慶応大学名誉教授、笹田栄司・早稲田大学教授=2015年6月4日拡大衆院憲法審査会に参考人として呼ばれて意見を述べる(奥から)長谷部恭男・早稲田大学教授、小林節・慶応大学名誉教授、笹田栄司・早稲田大学教授=2015年6月4日

 ちょっと内情のことを申し上げておきますと、あの時は「衆院憲法審査会に自民党推薦として出席したにもかかわらず、違憲と発言した」とかって言われました。

 私はこれまでに何度か、会議も含めて国会に呼ばれて参考人として発言をするという機会がございましたが、「何党からの推薦である」とあらかじめ言われたことは実は一度もございません。

 ですから翌日の朝刊を見て、自分は「ああ自民党推薦だったんだ」と知ったわけでございまして、別に何党推薦だから答えが変わるというものではないと思うんですが、まあ、そういう次第です。

 こういう形で大きな社会の動きというのが生じてきたというのは、それまでの間に、国民の皆さんの間に「何か変だ」「どこかおかしいんじゃないか」っていう疑念と疑問が大きく膨らんできていたからでしょう。ですから、私ども3名の発言というのは本当に単なるきっかけだったのだろうと私は思っています。

 あの時の話というのは実は海外でもかなり広く報道されております。そのためにアメリカの私の友人の憲法学者からメールをもらいまして、「憲法学者でさえ社会の動きに影響を与えられることを示してくれて、ありがとう」と書かれていました。これはどう受け止めればいいのかなと思ったんですが。

9条について発言する憲法学者は一握りなのに

 その後はこれまた皆さんご存じの通り、この法案が違憲か合憲かをめぐり、報道機関各社が憲法学者にアンケートをしたところ、大部分の憲法学者が「違憲である」、あるいは「少なくとも違憲の疑いが強い」という答えを出してきた。これも実は、正直に申しますと、私にとっては驚くべきことでした。

長谷部恭男さん拡大長谷部恭男さん

 というのは、皆さんは憲法学者というといつも「9条、9条」と叫んでいる人々だと思っていらっしゃるかもしれませんが、憲法学界の中で、憲法9条について1本でも論文を書いたことのある人というのは実は本当に一握りしかいないんです。

 憲法学者というのは、「9条って何かややこしそうだから、ちょっと触らんでおこう」と思っている人が大部分でして、むしろ表現の自由の話とか、適正手続きの話とか、生存権や教育権の話を一生懸命勉強する。あるいは政治制度の問題、例えば「適切な選挙制度はどうあるべきか」といったことを研究している人たちが大部分なのです。

 もちろん憲法研究者ですから、9条のことももちろん勉強するわけで、その結果9条についてはそれぞれ意見を持っているとは思いますけれど、まあ、9条について何か表向き発言をするという憲法学者は憲法学界の全体から見ればほんの一握りなんですね。

 ところがアンケートをしてみると本当に大部分の憲法学者が「おかしい」「憲法違反である」という回答が出てきてまして、私は大変驚きました。やはりそれほどこの安保法制は問題のあるものだということを示しているのだろうと思います。

 また、学者だけではなくて、その後は歴代の元内閣法制局長官とか、元最高裁判事の方、さらには元最高裁長官、すなわち山口繁さんというエリート中のエリートが「少なくとも集団的自衛権の行使を認める立法は違憲だといわざるをえない」と朝日新聞の取材に答えました。

 私の知る限り、山口元長官というのは長官在任中は、少なくとも憲法に関しては名前を明らかにして個別に意見を書くということはなかった人なんです。ところがその方が「これは憲法違反である」ということをおっしゃるわけですから、よほどの危機意識を持っておられたのだろうと思います。

「学者が結論を出すわけではない」ー政府与党の反応

 それに対する政府や与党の方々からの反応がこれまた非常に興味深いものでして、要するに相手にしたくない、学者というのは何か字面にこだわっているとか、最後は、最高裁が結論を出す、学者が結論を出すわけではないとおっしゃるんですね。

 まあ要するに、多くの学者たちがいくら違憲だと言ったからといって聞かないでくださいと言ってるわけですね、議論したくないんですということです。要するに反論しようと思っても反論できないもんですから、なかったことにしてもらいたいということのようです。

 だいたいこの問題に関する政府与党の側の態度は、国会の審議を見ていてもよく分かります。何か疑問とか批判とかがあっても、まともに理屈でもって答えようとはしない。ただ単に、何か結論を断言するだけです。そんなことは決してありませんとか、絶対にそんなことはないんです、と。なぜそうなのかという理由はまったく分からない。

 で、これはいろいろの点から切り込んでいくことができると思うんです。

 まずは民主主義という観点から見てみます。衆院憲法審査会で一緒に発言された小林節さんが、安倍内閣のやってることや態度は、これはもう独裁政治だということをおっしゃっていました。

 独裁と言っても、独裁政治の典型というのは、隣の大きな国が独裁政治の典型ですが、日本はそれとはやっぱり違うわけです。日本は、表現の自由も保障されているし、少数派の、思想信条の自由も保障されている。まあ、選挙だってちゃんとした自由な選挙を曲がりなりにもやっているわけで、制度として見れば、今の日本が独裁政治だということはなかなか言えないと思うんです。

 ただ、小林先生がおっしゃっているのは、安倍政権の態度、物腰ですね。要するに、自分たちを支持する人間に対してだけ顔を向けて、そこに向けて話をしようとする。反対に、自分たちに何か疑問を向けたり、批判をしたりするという人に対しては、とにかくまともに相手にしようとしない。結論だけ断言してそれでおしまい。そうした態度のことを、たぶん小林先生は「独裁」とおっしゃっているのではないか。そういう意味で申しますと、確かに独裁的なところはあるのではないかというふうに私も思います。

自分たちを縛っている憲法の意味を自ら変えてしまおうとする人々

 それからもう1つは、立憲主義という問題です。立憲主義という言葉もいろいろな意味合いで使われる言葉ですが、ただ最低限この意味だけは入っているはずだという、そういう最低限の意味合いがあります。

 それは、憲法によって政治権力を縛る、政治権力を拘束するということ。これが少なくとも立憲主義である以上最低限必ず入っているはずの意味合いです。

 ところが、安倍政権は、今政権の座にある自分たちの判断で、自分たちを縛っているはずの憲法の意味を、自分たちで変えてしまおうというわけですから、これは今申し上げました最低限の意味合いでの立憲主義を破壊しようという人々である、ということは明らかなような気がいたします。 


筆者

長谷部恭男

長谷部恭男(はせべ・やすお) 早稲田大学教授(憲法学)

1956年広島市生まれ。79年東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授を経て現職。主な著書に「比較不能な価値の迷路」「憲法の理性」(以上、東京大学出版会)、「憲法の理性」「憲法のimagination」(以上、羽鳥書店)、「憲法の円環」(岩波書店)、「憲法と平和を問いなおす」(ちくま新書)等。

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