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民主主義より日米同盟に価値を見い出す国(下)

問われているのは本土側の私たちだ

渡辺豪 ジャーナリスト

沖縄の米軍基地負担の核心、海兵隊

 沖縄の米軍基地負担の核心は、基地面積で7割強、兵員数で6割近くを占める海兵隊だ。しかも、沖縄の海兵隊の主力部隊はグアムへ移転する方針がすでに決まっている。

 元防衛相で軍事専門家の森本敏氏も繰り返し認めているように、アメリカの海兵隊は沖縄でなくとも機能する、というのは軍事的には常識だ。

 米軍再編で沖縄に駐留する海兵隊1万8000人のうち、半数がグアムのほか、ハワイやオーストラリアに分散される。沖縄に残るのは司令部と、第31海兵遠征隊(MEU)の2000人だ。このMEU部隊は揚陸艦がなければ移動できないが、その母港は長崎県の佐世保基地に置かれている。山口県の岩国基地には、普天間飛行場の空中給油部隊が既に移転を完了している。

 普天間飛行場に所属する、垂直離着陸機オスプレイを含む航空部隊は地上部隊とともに揚陸艦で移動する。訓練も空地一体で運用する必要があるため、訓練場所と航空部隊、地上部隊は近接する必要があるというのが米軍側の論理だ。

 しかし現状は、消防隊は沖縄にいて、消防車は長崎県佐世保に、移動式ガソリンスタンドは山口県の岩国基地に配置されているようなものだ。九州には自衛隊の広大な実弾演習の訓練地もある。どうせなら、消防隊も日本本土に移転したほうが即応能力は増すはずだ。

 アメリカ側からも沖縄の「地理的優位性」という固定観念を根底から覆す警告が発せられている。ジョセフ・ナイ元米国務次官補は「中国の弾道ミサイルの能力向上に伴い、固定化された基地の脆弱性が出てきた」と述べ、米軍基地が沖縄に集中するリスクを指摘している。米軍再編にともなう海兵隊の分散移転は、こうしたリスクを回避する狙いもうかがえる。

主体性を回復していくための新たな一歩

 このように、普天間飛行場の移設先が同じ沖縄の名護市辺野古でなければならない合理的な理由は軍事では説明がつかない。沖縄にとどめておきたい、という政治力学が作用しなければ有り得ない論理であり、重要なのはそのことに沖縄県民の大半は気づいている、ということだ。

記者会見で、名護市辺野古の埋め立て承認の取り消しを発表した翁長雄志知事=2015年10月13日、那覇市の沖縄県庁拡大記者会見で、名護市辺野古の埋め立て承認の取り消しを発表した翁長雄志知事=2015年10月13日、那覇市の沖縄県庁

 辺野古の新基地建設は沖縄の民意に沿うかたちで白紙に戻し、普天間飛行場の返還を実現することができれば、日本がアメリカに対して従属する体制にあっても主体性を回復していく、新たな一歩につながるのではないか。

 過度な対米従属で思考停止のまま日本がこれ以上、国内の民主主義のシステムを毀損するのを防ぐためにも、沖縄との信頼関係を損なうことによる安保の脆弱性をカバーする上でも、日本社会全体にとってプラスに働くはずだ。

 筆者は過度な対米追従からは脱すべきではないか、と唱えているに過ぎない。アメリカ政府との関係を絶て、とまで言うつもりはまったくない。イラク戦争のときに、ドイツやフランスがアメリカの開戦ありきの姿勢に堂々と最後まで異を唱えたように、同盟国であっても是々非々の態度をとればいいではないか、と思うのだ。普天間問題への新たな提言一つもできないようでは、「アメリカの戦争」に是々非々で臨むことなど不可能だろう。

 安保法制では、集団的自衛権を行使する前提になる存立危機事態について「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」などと定義されている。表現があいまいで拡大解釈される懸念はぬぐえない。それでも、憲法9条という「歯止め」があったからこそ、こうした制約が付されたとも考えられる。

 これが解除され、自衛隊の海外での活動にさらに制約要因がなくなれば、日本はどういう進路をたどるだろうか。憲法で認められているから、とアメリカに求められるまま世界各地で軍事協力に応じざるを得なくなるのではないか。その結果、海外に派兵された自衛隊の犠牲者が膨らめば、一転して「アメリカ憎し」に世論は急変するかもしれない。

 アメリカと日本は対等ではない。アメリカからの要求に無為に応じないで済むように、「政治の狡知」として9条のカードを失うべきではないと思う。

無自覚な対米従属から無謀な自主路線へ向かうリスク

 一方で、本当に恐ろしいのは対米従属そのものではなく、無自覚のまま過度な対米従属にはしる政府や国民は、今度はそれに抗おうとして極端で無謀な自主路線に向かうリスクを抱えている、ということだと筆者は思う。戦後日本が過度な対米従属から脱却できず、民主主義の根幹も毀損してきたのは、自分たちの内部の精神性の問題だと認識しておく必要がある。「アメリカのせい」ではない。

 現状の過度な対米従属から脱しなければ、沖縄の過重な米軍基地負担は解消しない。しかし、「従属」か「自主」かという二元論では、沖縄を軍事のかなめとする思考に何ら変化は生じないだろう。外交よりも軍事に傾注した「自主」に傾けば、日本政府の判断で沖縄は中国に対する盾と位置づけられ、国防軍化した自衛隊によって軍事的な緊張にさらされ続けるのではないか。

 中国との関係改善は、沖縄の軍事負担軽減には不可欠の課題だ。

 沖縄では今、有史以来はじめて日米の新基地建設がおこなわれている。沖縄本島北部の辺野古では米海兵隊、八重山諸島の日本最西端に位置する与那国島では陸自施設の建設が同時並行で進む。ほかにも複数の離島で自衛隊配備が予定されている。

 沖縄での辺野古新基地建設や自衛隊強化政策に、世論の一定の理解を得ている背景にも「中国の脅威」がある。中国がやっかいなのは否めない。軍事的野心とみられる動きについては、逐一事実を報じないわけにはいかないのも理解できる。しかし、メディアが国内で「中国の脅威」をあおることで防衛強化政策を後押しし、日中間の「安保のジレンマ」を招く、という負のスパイラルに一役買ってしまう面に、メディア関係者はもっと自覚的であるべきだと思う。

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筆者

渡辺豪

渡辺豪(わたなべ・つよし) ジャーナリスト

1968年兵庫県生まれ。関西大学工学部卒。1992~98年毎日新聞社記者。1998年~2015年3月沖縄タイムス社記者。現在は都内在住。主な著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(沖縄タイムス)、『国策のまちおこし~嘉手納からの報告~』(凱風社)、『私たちの教室からは米軍基地が見えます』(ボーダーインク)、共著に『この国はどこで間違えたのか~沖縄と福島から見えた日本~』(徳間書店)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(旬報社)、近著に『日本はなぜ米軍をもてなすのか』(旬報社)。