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予備選の混乱とアメリカ民主主義の行方

金権選挙とメディアの癒着、冷ややかな若者や無党派層

冷泉彰彦 作家、ジャーナリスト

新しい予備選日程に込められた意図

 大統領選の年が明けた。

 今回の選挙に関しては民主・共和両党ともに全体スケジュールを修正している。まず、予備選・党員集会の日程のスタートを1月初旬から2月スタートに繰り下げた。また、大統領候補指名を行う両党の党大会は8月末から7月に繰り上げることになっている。これは、予備選の内容を充実させる一方で、両党の統一候補による「本選の一騎打ち」に十分な時間を取ることを目的としている。

 また、予備選の前半に関しては、2012年までは3月初旬までに主要な州で結果が出ていた。そのために各州での選挙戦の意義が「薄まって」しまい、州の独自性のアピールができなくなっていた。そこで、今回は代議員数の多い州の予備選を分散して6月初旬まで全体日程を引っ張ることにしている。そのような改訂を通じて、民意との対話を充実しつつ、長期の論戦で候補を大統領職に耐えうるよう鍛えていくという予備選の原点、アメリカの民主主義の原点に戻る、そんな選挙が期待されていた。

異常な選挙戦となった共和党

米テキサス州ダラスの集会で話すドナルド・トランプ氏=Reuters米テキサス州ダラスの集会で話すドナルド・トランプ氏=Reuters

 だが、現時点での展開は、こうした期待を裏切るようなコースを取りつつある。

 まず共和党の予備選だが、ドナルド・トランプ候補というポピュリストに「荒らされて」いる中、迷走状態が続いている。現時点での選挙戦では、民主党がヒラリー候補に一本化しつつある一方で、トランプ候補を中心とした共和党の予備選は社会的な注目を集めている。常識的には共和党に有利な展開、つまり「長期化したほうが注目されて有利」ということとなるはずだった。

 だが、実際はそれとは反対の現象が起きている。非常識な暴言を繰り返すトランプ候補に関しては「嫌悪感を伴った好奇心」が集まっているからだ。

 確かに共和党支持者の中には、トランプ候補に共感している部分はある。けれども、無党派層と民主党支持層を含めた、全国のレベルでは全く違う。実際の世論調査はそれを裏付けるものだ。

 例えば、2015年12月22日に公表されたクイニピアック大学による全国世論調査(調査対象1140名)では、「ヒラリー対トランプ」の組み合わせでの支持率は「47%対40%」という大差でヒラリー有利となっている。更に、支持政党を問わない全体の中で、50%が「トランプを大統領とするのは恥ずべきこと・困ったこと(embarrassed)」だとしている。

 こうなると、トランプ候補を中心とした「共和党内の混乱」にメディアが注目すればするほど、ヒラリーの優位は固まっていくことになる。

 党内には深刻な危機感が広がっている。というのは、本選で「勝てないトランプ」を統一候補にしたくないということに加えて、大統領選と同時に行われる上下両院選挙が影響を受ける危険があるからだ。多くの選挙区で「トランプとの共倒れ」が起きるようでは、議会共和党の勢力が崩れる危険もある。

 こうした危機感を受けて、共和党内には「トランプ降ろし」の動きがある。それは、このままトランプ候補が「過半数の代議員獲得ができない」まま党大会に突入するというシナリオだ。党大会での投票で過半数の勝利者が出ない場合には、その瞬間に州によっては「党の代議員が予備選結果の拘束から解放される」こととなる。つまり実際の党大会の場で、代議員の自由な投票が可能となるのだ。そうなった場合に多くの「常識のある代議員」が「より本格的な候補」に投票してトランプを敗北させることは可能だ。

 だが、このシナリオにも難点がある。それは怒ったトランプが「無所属出馬」するという可能性だ。そうなれば「保守分裂」となりヒラリーの勝利は確実なものとなるだろう。共和党全国委員会は、トランプに対して「無所属出馬をしない」という誓約書にサインさせているが、憲法で保障されている被選挙権は、そうした私的な誓約では消せないこともあって疑念は消えていない。

 それ以前の問題として、各州の予備選結果を「覆す」可能性が語られるというのは、共和党の党内民主主義の異常事態と言わねばならない。

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