日本が間口の広い「リベラル」を目指すのであれば、防衛安保はリアルになるべきだ
2016年02月26日
米国研究者にとって「リベラリズム」と「リベラル」は似て非なる概念である。
「リベラリズム」とは「自由主義」を指し、大英帝国の専制君主に反旗を翻して独立を勝ち取った米国にとって、まさに国の根幹となる思想である。
それは欧州の政治的伝統を織りなしてきた三つの思想のうち、「貴族主義」と「社会主義」の二つを否定することを意味する。すなわち、特権階級や巨大政府による支配のいずれをも拒み、政治的・経済的に独立した自由な市民(デモス)による統治を重んじるということである。
そして、その自由主義の枠のなかで、より強固な自由を求めるのが米国流の「保守」であり、政府による一定の介入を求めるのが米国流の「リベラル」ということになる。
具体的には、「保守」とは、
① 自由な市場競争を重んじること(=規制緩和、減税、民営化、自由貿易の促進など)
② 地域や教会を中心とした自治の伝統を重んじること(=政府主導による制度や規範の形成を拒むこと)
③ 国際社会における自国の行動の自由を重んじること(=国際機関や他国によって米国の利益を左右されないこと)の三つを意味する。
順に、①経済保守、②社会保守、③安保保守とも称され、ティーパーティー(茶会)、エヴァンジェリカル(福音派)、ネオコンなどは、①〜③の中の強硬派として日本でもよく知られている。
逆に「保守」の合わせ鏡である「リベラル」とは、
① 政府による一定の市場介入を是とすること(=規制・監査・監督、累進課税、公共事業、社会福祉、環境保護、保護貿易への指向性が高いこと)
② 社会的な少数派や弱者の権利・支援を是とすること(=積極的な差別是正措置の推進など)
③ 国際社会や他国との協調を是とすること(=対話や交渉を重んじること)の三つを意味する。
繰り返すが、これらの違いは、欧州の政治的伝統からすれば、あくまで「自由主義」の枠のなかでの「右」と「左」の違い、いわば「コーク」か「ペプシ」の違いに過ぎない。
「リベラル」の根底にあるのは、「自由は尊いが、自由放任主義は人々をかえって不自由にしてしまう。それゆえに公権力による一定の介入は認められる」とする考え方である。それは「保守」の側からすれば「そうした介入は公権力の肥大化を助長し、人々を不自由に陥れる。まさに社会主義であり、極めて非・米国的だ」ということになる。
実際には、こうした図式に綺麗に整理できない事例や政治家が多いのは確かだが、この対立軸を基本に考えてゆけば、それなりに理解可能だ。米国政治の現実には幻滅する面も多々あるが、「自由主義」という共通の土俵の上で、「保守」と「リベラル」がいかに言説を支配してゆくかというゲームそのものは、さながら生きた哲学の教材に触れているようで面白い。
このような米国の政治文化に接していると、日本の<リベラル>はおそらく米国の「リベラル」のなかの「左」、いわゆる「リベラル左派」の立場に近いのではという印象を受ける。
米国にも米国共産党(CPA)や米国社会党(SPA)は存在するが、規模の点では「政党」というより「サークル」に近く、政治的影響力は皆無に等しい。それゆえ、社会主義的な指向の持ち主は、むしろ民主党に所属し、その中で発言力や影響力を高めようとする。その割合は民主党内の約三分の一である。
今回の米大統領選の民主党候補の一人、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)は自らを「民主社会主義者」(democratic socialist)と公言しており、党内の「リベラル左派」からの支持を集めている。党内の大本命は「リベラル中道派」のヒラリー・クリントン元国務長官だが、党内ではサンダース氏の支持率は軒並み三十%を超えている。それゆえ、クリントン氏としても「リベラル左派」の声は無視するわけにいかず、逆に「リベラル左派」にとっては自らの存在感を示す格好の機会となっている。
日本の<リベラル>の大きな特徴の一つは、憲法九条に象徴される反戦・平和主義を重視している点だが、サンダース氏は反戦主義者としても知られる。同氏はまた、巨大金融機関解体や富裕層への大幅増税、選挙資金制度改革、公立大学無償化、脱原発、反TPPの立場を明確にしている。ちなみにユダヤ系ではあるが、宗教的には不可知論者(神の存在は立証も否定もできないとする者で、全米の約4%を占める)である。
こうした米国の「リベラル」を念頭に置いた場合、日本の<リベラル>が自問自答すべき点は二つあると思われる。
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