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民主主義はドラマ一辺倒でないようにお願いしたい

五百旗頭真氏に聞く(下)

豊秀一 朝日新聞編集委員

「民主主義をつくる」は、①巻頭論文+②「自由って何だ? SEALDsとの対話」(4回)+③五百旗頭真・熊本県立大理事長インタビュー(3回)の三つで構成しています。
五百旗頭真 いおきべ・まこと 1943年生まれ。熊本県立大理事長、ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長。専門は日本政治外交史。神戸大教授、防衛大学校長を歴任。著書に「米国の日本占領政策」「占領期 首相たちの新日本」など。
聞き手:豊秀一 ゆたか・しゅういち 1965年生まれ。論説委員、東京本社社会部次長などを経て、朝日新聞編集委員として憲法・メディア、司法などを担当。

野党は自分たちの本筋は何かを考えてほしい

五百旗頭真氏拡大五百旗頭真氏

――今後の政治に望むところでおうかがいします。自民党と野党の関係が「一強多弱」と言われ、強い保守の一方でリベラルが衰退している。今後の日本の政治はどう進んでいくべきでしょうか。

 「戦後間もないころのように、保守の地盤があり、革新の組合もしっかりしていれば、風がどう吹こうと、あんまり変わらない。そういう長期持続安定した状態が55年体制だったわけでしょう。ところが、根っこのかたい地盤はなくなり、風が吹くと揺れ動くわけです。自民党=安倍政権はいま、野党が掲げるべきものも全部取っていっていますね。地方創成だとか、女性を大事にするとか」

 「安倍政権が『安保法制だ』『憲法改正だ』『アベノミクスで国民経済をよくする』と保守らしい課題をあげていますが、そこから漏れ落ちたところは全部、野党がくみ上げて、厳しく政府を批判していくべきなのです。ところが、やるべきところを安倍さんのほうが自分で食っちゃっているので、何に反対したらいいかわからない。けちつけるほかないという状況になっているのが、非常に残念なところです」

 「攻めるところを見つけがたいと思っているのかもしれないけど、そういうときほどしっかりとして、自分たちの本筋は何なのかを考えてほしい。配分の問題があり、格差があり、非正規雇用の問題がある。少子化で子供たちが増えないことを嘆いているにしては、教育を含めて子供たちの支援をどうするのかということについては、十分じゃない。少なくともヨーロッパと比べると非常に貧しい」

政権は野党が倒すのではなく、自分で転ぶときに転ぶ

 「そういうことをしっかりと、自分たちの目標にすえて、『我々はこうするんだ』と打ち出してほしい。もっとも、外交安保は政権が変わったからといって右から左に振ったらいいような問題ではない。国際関係の積み重ねと地政学的な関係から規定されているものですから、そういうことについては不用意な対応はしないということを民主党も3年間の統治経験で学んだはずです」

 「他方、国民が本当に必要とすることについて感度良く対応する。そういう政治をやるという筋さえ押さえて立場を明らかにしておけば、必ず、機会は来る。与党が何か失政をやり、国民の怒りを買って、政権交代のチャンスが回ってくるわけです。安倍官邸の悪口を言わなくてもいい。足払いを食らわせなくてもよい。政権は野党が倒すのではなく、自分で転ぶときには転ぶんですから。『自分たちはこうするんだ、こうあるべきだ、日本の社会、政治はこうあるべきだ』という、持続できる正論をしっかり言うことが大事です。相手が転んだとき、必ず風が吹き始めます。一強多弱で負けっぱなしなんて思わないで、自信を持つべきです」

――自民党に対し、どういう対立軸を打ち出すべきですか。

「安倍さんの安全保障問題を敵視し、対抗しても勝ち目はないでしょう。なぜなら、国際的な政治環境が実際に厳しいし、日本の存立はやっぱり大事なことですからね。そうではなく、例えば、所得の再配分をどう考えるか。安倍さんは、アベノミクスで全体としての経済を大きくし、パイがいずれ国民に戻ることを狙っています。法人税の減税はしていますが、ほかは増税でしょう。それでは、格差が広がり、非正規雇用者の喪失感は大きくなるばかりです。社会保障全般の中で救いますという自民党に対抗し、彼女や彼らを大事にするという政策を打ち出せば必ずその層からは支持を受けるわけです。それをしっかり野党は考えるべきだと思います。これからの世界を担う若い世代の支持を増やす工夫をしないといけない」

メディアは立場の違い以上に質の高さが非常に大事

――いまのメディアのあり方をどう考えますか。安保法などでは、例えば朝日、毎日と読売、産経などで報じ方や論調が二極化している状況が生まれています。NHKは、籾井勝人さんが会長になり、政府への批判的なトーンが弱くなった印象を受けます。今の日本のメディアの課題をどう考えていますか。

 「私は学者ですから、トーリー党でもホイッグ党でもよい、政友会でも民政党でもよい、各党派には強味と弱味がある。どの党派でも国益と国民の必要のためになることをやれば評価する。メディアについても、どちらの立場を取るにせよ、クオリティー、質を高めるという基本を失ってほしくないと考えています。

 総理の記者会見を見ていても、かつては侍的記者がいて、その人たちがある意味で総理と対等に論を交えるみたいな場面もあった。ところが、そうではなく、ただ質疑を記録し、本社に伝えるというタイプの記者ばかりになっている。もちろん、それは容易なことではないけれども、しかしそれぞれの記者の勉強ぶりが見え、深く考えているんだなと感じたこともあった。立場が産経的であるか、読売的であるか、朝日的であるか以上に、そういう質の高さが、非常に大事だと思います」

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筆者

豊秀一

豊秀一(ゆたか・しゅういち) 朝日新聞編集委員

1965年生まれ。論説委員、東京本社社会部次長などを経て、朝日新聞編集委員として憲法・メディア、司法などを担当。