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「安倍首相は現実主義者だ」 (上)

古谷経衝氏に聞くー安倍政権の支持率が高い理由

川本裕司 朝日新聞記者

 特定秘密保護法や安保法制など、国論が分かれる政策を進めながら、底堅い支持率を維持している第2次安倍政権。ネット右翼などに詳しい著述家の古谷経衡氏に、安倍首相の実像や日本の大衆について持論を語ってもらった(聞き手は川本裕司・朝日新聞記者)。

古谷経衡 ふるや・つねひら 1982年、札幌市まれ。立命館大卒。インターネットや歴史、社会、若者などについて執筆。TOKOYOFM「タイムライン」パーソナリティー。著書に「右翼も左翼もウソばかり」(新潮新書)、「ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか」(コア新書)など多数。

聞き手:川本裕司 かわもと・ひろし 1959年生まれ。学芸部、社会部、編集委員などを経て、オピニオン編集部。

自民党の支持層が変わってきた

古谷経衡さん拡大古谷経衡さん

 ―ー安倍晋三政権になってから3年余り、内閣支持率がおおむね40%を超えて安定しています。理由はどこにあるのでしょうか。

 「安保法制が成立した昨年秋に支持率が下がりましたが、また戻りました。閣僚の失言などで少し下がることがあっても誤差の範囲内です。理由は、自民党の支持層が変わってきたからではないでしょうか。90年代までは、土建、農林水産、運送、郵便といった職能団体に支えられてきたのですが、ゼロ年代以降は大都市部に住む、それまでの職能団体とは無関係の無党派的中産階級から支持を集めるようになっています」

 「例えばそれは、構造改革を訴えた大阪市の橋下徹前市長が好きなような、貧困とは遠い層です。自民党は小泉内閣を経て、明らかに職能団体に依存した地方型の政党から、職能団体とは無縁の都市型の政党になったといえます。小泉元首相は、自民党の有力な集票団体だった特定郵便局長会(全特・当時)を切り捨てても衆院選で大勝しました。職能団体を通じた投票行動は、戦後日本に特有の〝職能を通じた民主主義〟でしたが、その前提を支える終身雇用が崩れ、非正規雇用も増大したために職能団体の権勢が低下し、そういった団体をあてにする必要性も低下したのです」

 「基本的にこの路線を第2次安倍政権も継承していますので、90年代以前の自民党では考えられないような〝TPP(環太平洋経済連携協定)交渉〟なども平然と進めます。農協という職能団体からの票が離れたとしても、自民党は大都市部の無党派・中産階級から支持されると確信があるので、こういった政策にでるわけです。〝打って出る攻めの政策〟〝成長戦略〟〝第三の矢〟、所謂〝既得権〟を持つとされる従来の職能団体からは嫌われますが、〝改革〟を是とする都市部の無党派にはウケます」

中高年層・大都市部在住・中産階級が支持している

――支持基盤が変わってきたという指摘ですが、安倍政権の政策の評価はどうでしょうか。

 「株価が民主党政権時代よりもはるかに高くなっているのは客観的な事実で、失業率も改善されています。これは素直に評価してよいと思います。安倍政権の支持層の中核である都市部の中産階級は、いわゆる『格差社会』や『長期デフレ』でそれほどダメージを受けておらず、消費税が上がっても『自分で頑張れば良い』という自力救済型のポジティブ・シンキングの人々が多いのでしょう」

 「なぜなら彼らは、景気が良かった時代に企業内で地位を築いたり、いまよりもずっと経済環境の良かった時代に起業して成功している人々だからです。よって安倍政権の支持層は、若者ではなく30代なかばから40代以上~70代くらいまでの中高年層・大都市部在住・中産階級が多い。この傾向は『ネット保守(ネット右翼とも)』とも言われる人々の類型とも一部重なります。深刻なデフレ不況の影響を受けている若年層は、学生団体『SEALDs』に代表されるように決して安倍政権に親和的ではないのがその証拠の一つでしょう」

 「貧困や不況とは縁遠い、都市部の裕福な『プチ富裕層』が安倍政権支持者の中枢です。私自身、安倍首相をおおむね支持しておりますが、若い頃から独力で仕事をやってきた、という自負があります。だから、安倍首相や自民党支持者の多くが生活保護や社会的弱者への再分配には厳しい視線を向けます。自分たちは頑張ってきたのに、国家や社会に甘えるとは何事か、という理屈です。実際には時代状況や運、親の資産がそうさせているだけなのに、それが〝自分の実力〟と思っている人も多いことでしょう。貧困や格差から遠いので、そういう発想になります。逆に言えば〝格差社会〟のある種の〝勝ち組〟が安倍首相の支持層、ということもできます」

週刊誌報道に対する〝耐性〟が出来た

――約1年間と短命で終わった第1次政権の教訓を踏まえているのでしょうか。

 「いま思いますと、第1次政権で失速したきっかけは、郵政造反組の復党を認めたことでした。小泉路線を継承しなかったのが失敗だったと受け止められたのです。当時の報道の言葉を借りれば『後退する改革』。そこで第2次政権では、前述したTPPに調印し、農協改革もやる、岩盤規制も突き崩す、といった大都市部の“非職能団体民”に支持される政策をとっています。これは率直に第1次政権の反省という部分もあり、更には小泉から継続されている清和会的な潮流を受け継いでいるとみれば、安倍首相がもともと持っていた性質、という風にも見えます。正社員を既得権益だと言って批判している竹中平蔵氏を実質的ブレーンに迎えているわけですから、“元来の性質”である観は否めません」

――甘利明経済再生担当相があっせん疑惑のスキャンダルで辞任したあと、支持率が上がるという現象が起こりました。

 「甘利さんの人間性やテディベアに似た外見が少し影響したのかもしれません。第1次政権時に辞めた松岡利勝農水相や赤城徳彦農水相のときに比べれば、同情を誘うような辞任会見に映りました。週刊文春のスクープがきっかけでしたが、逆に文春が芸能人や議員の不倫疑惑といったスクープを毎週のように報じて、甘利さんの問題もそのネタの一つという形で相対化され薄まったような印象があります。週刊誌報道により世論が沸騰するというのが、毎週毎月のように続いているので、〝耐性〟が出来てしまったのでしょう。新聞や他の週刊誌が第一報として甘利さんの疑惑を報じていれば、もっとダメージがあったように思います」

--一強多弱といわれ、野党への支持が増えない理由は何でしょうか。

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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞記者

1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員。10年、論説委員兼務。15年3月からオピニオン編集部。著書に『ニューメディア「誤算」の構造』。共著に『テレビ・ジャーナリズムの現在』『被告席のメディア』『新聞をひらく』。