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[2]隊員への「心のケア」が抱える危うさ

高原耕平

家族に与えるダメージ

 「(息子が)『ジープの上で銃をかまえて、どこから何が飛んでくるかおっかなかった、恐かった、神経をつかった』って。夜は交代で警備をしていたようで、『交代しても寝れない状態だ』と言っていた」

イラク・サマワの陸上自衛隊宿営地拡大イラク・サマワの陸上自衛隊宿営地で=2004年2月
 これは、イラクから帰国後に自殺した当時20代の隊員の、母親のことばである(NHKクローズアップ現代「イラク派遣 10年の真実」2014年4月16日放映)。

 自衛隊員に何が起きているのだろうか。わからないことが多い。たとえば、56名という数字は「在職中」に自死を選んだ隊員の数であり、退官した元隊員の状況については知ることができない。さらに、ことばでは簡単に受け止められない何かを、皮膚の裏側にひそませて帰国し、生きている隊員が、この56名という数字の背後にさらに多くいるのではないか。

 加えて、自殺した隊員の遺族や、海外派遣任務から帰還した隊員の家族の実情についても、ほとんどわからない。自殺者の数やパーセンテージについての議論だけが一人歩きする一方で、その背後にあるはずのさまざまな事情はほとんど明らかにされていない。

 とくに、隊員の家族の問題が重大ではないかとおもう。それは、隊員のストレスをもっとも間近でまともに受け止めることになるのが家族であると想像されるからだ。多くの場合、精神的なダメージを負ったひとを、もっとも身近に支えることができるのは家族である。しかしそれは、二次的・三次的な「連動ダメージ」を家族がもろに受け止めてしまう、ということでもある。

 派遣隊員の家族の様子を伝える資料は少ない。福浦厚子氏(滋賀大学・教授)による、隊員の妻に対する聞き取り調査はその貴重なひとつである(福浦厚子「配偶者の語り ―暴力をめぐる想像と記憶―」『国際安全保障』第35巻3号、2007年)。これによると、ある隊員の妻は、夫のPKO派遣前つぎのような心境にあったという。

 「家族が反対すれば、自衛隊も聞き入れてくれるみたいでしたが、 ・・・続きを読む
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筆者

高原耕平

高原耕平(たかはら・こうへい) 大阪大学文学部博士後期課程

大阪大学文学部博士後期課程(臨床哲学専攻)。大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラム所属。1983年、神戸生まれ。大谷大学文学部哲学科卒。研究テーマは、トラウマに関する精神医学史、ドイツ哲学、阪神淡路大震災。最近の論文として、「反復する竹灯篭と延焼 阪神・淡路大震災における〈復興/風化〉と追悼の関係」(『未来共生学ジャーナル』3号、2016年)など。