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日本周辺での中国軍の動向、実態公表の基準は何か

周到に準備された「海」、歯切れの悪い「空」

谷田邦一

 尖閣諸島など東シナ海の周辺で、中国の艦艇や航空機による活動が活発化している。6月にはフリゲート艦が尖閣沖の接続水域に初めて進入したほか、情報収集艦が鹿児島県のトカラ海峡で領海に侵入。東シナ海上空でも日中の戦闘機同士が一触即発の危険な状態にあることがわかり始めている。

 しかし日本政府が公表する「中国軍の活発化」は、果たしてどこまで実態を正確に伝えているのか。

尖閣諸島の久場島2013拡大接続水域に中国フリゲート艦が進入した尖閣諸島・久場島=2013年
 そんな疑問を差し挟みたくなるようなほころびが最近、見え隠れする。

 中国艦艇の挑発では即座に抗議を連発し、手厚く広報したのに対し、戦闘機同士の接近戦では情報を出し渋ってかえってぎくしゃくを招いた。

 なぜこうした対応の違いが生じてしまうのか。

進入の1時間前から動いた日本政府

 「手際がよすぎたと思いませんか」

 尖閣沖での接続水域進入について最近、防衛省のある幹部からこんな示唆を受けた。作戦の全般について知りうる立場にある職員の1人である。

 おさらいすると、こんな流れだった。6月9日、尖閣諸島沖で中国とロシアの艦艇が同時に日本の接続水域を横切り、その6日後の15日には鹿児島のトカラ海峡で中国の情報収集艦がインドの艦艇を追うようにして日本領海に侵入した。岸田文雄外相は「状況をエスカレートさせている最近の中国軍の動きを懸念する」と述べ、日本周辺で挑発を繰り返す中国軍への警戒感をあらわにした。

 むろん中国の艦艇が日本の接続水域や領海に誤って迷い込んだということはありえない。何らかの意図があったのだろう。しかし「日本側にも何かシナリオがあるかのようだった」と、この幹部は漏らす。

 その理由は、尖閣沖で起きた接続水域進入をめぐる日本政府の動きを時系列で見れば、おぼろげに浮かび上がる。次のクロノロジーは、発生直前の8日深夜から9日未明にかけて日本政府がどんな形で中国政府に抗議を申し入れたかをまとめた流れである。

6月8日午後11時45分 外務省アジア大洋州局長 → 在日中国大使館次席に事実確認
6月9日午前0時40分 外務省アジア大洋州局長 → 在日中国大使館次席に抗議
0時45分 在中国大使館公使 → 中国外務省参事官に抗議
同 在中国大使館防衛駐在官 → 中国国防省副局長に抗議
午前0時50分 中国フリゲート艦が尖閣諸島の久場島北東の接続水域に進入/首相官邸に情報連絡室を設置
1時15分 外務省アジア大洋州局長 → 在日中国大使次席に抗議
2時 外務省事務次官 → 在日中国大使(程永華氏)に抗議
3時10分 尖閣沖の接続水域から退出

 外務省は、接続水域への進入が始まる1時間近く前から、東京の中国大使館に事実確認を求めていた。最初の返答は「承知していない」だった。進入の5分前には北京の日本大使館から外務省と国防省の双方に抗議。進入から25分後には再び、東京で外務省から中国大使館への抗議を重ね、未明の午前2時には程永華中国大使を同省に呼び出した。異例の呼び出しの席上、斎木昭隆事務次官は程大使に「一方的に緊張を高める行為だ」として同水域から出るよう厳重抗議した。

 日本側は中国艦艇の動きをリアルタイムで把握し、2時間あまりの間に東京と北京で6回の抗議と事実確認を中国側に浴びせたことになる。

 早い段階から中国艦が接続水域に入ることを見越して、日本政府がいかに周到に準備していたかがうかがえる。当夜、安倍首相は私邸に帰らず公邸にとどまり、外務・防衛両省の主要幹部は総掛かりで徹夜作業にあたった。係争中の尖閣水域に中国艦が初めて入ることをいかに重大視していたかを裏付けるものだが、同時に日本側の入念さに別の意図を感じた政府職員もいたようだ。 ・・・続きを読む
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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

1959年生まれ。1990年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て2013年4月から社会部専門記者(防衛問題担当)。主要国の防衛政策から最新兵器、軍用技術まで軍事全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識が、現実の紛争地でどのくらい役立つのか検証取材するのが夢。

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