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[2]中道の立場としての国立韓国近現代史博物館

ケネス・ルオフ ポートランド州立大学教授

 近現代史博物館は李明博(1941―、在位2008―2013)大統領の公約にもとづいて発足した。大統領が韓国の近現代史を扱う博物館を建設すると演説したのは2008年8月15日の解放記念日のことである。中道右派とみられていた李大統領が博物館建設を表明したときから、さまざまな支持者が、博物館は何をどう盛りこむべきか決めようと(あるいは、ただちにそれをはねつけようと)してきた。

 計画から4年をへて、博物館は2012年12月26日に開館する。博物館は評判を呼び、2013年には105万人の来館者、2014年には101万5000人の来館者を数えた。2015年にも来館者数はほぼ同じになりそうだったが、韓国ではその春、中東呼吸器症候群(MERS)の流行によって、人びとが外出を控えたため、来館者は多少減っている。

「気詰まりな自主性」

 政治学の教育を受けたキム・ワンシク氏(博士、ミズーリ大学)は、館外で唯一の理事を務めている。博物館の理事を引き受ける前は、梨花(イファ)女子大学で教えていた。

 キム氏はガイドブックのなかで博物館の目的をあらまし次のように説明している。

 「われわれの使命は、これまで試練や艱難の重荷を乗り越え、それを将来の世代に伝えようとしている韓国の歴史を記録することである。こうした努力を通じて、われわれは韓国国民の誇りを鼓舞し、国の発展の底力となっている、すべての人に開かれた社会をつくりだしたいと希望している」

 キム氏が博物館の役割を愛国心の鼓舞にあると強調しているのは、さほど驚くべきことではない。というのも、この博物館は、自国の歴史を世界のどこよりもイデオロギー的に扱いうる存在である国の予算に全面的に依拠している(博物館は文化体育観光部に属している)からである。

 しかし、筆者がインタビューしたところ、キム博士は「気詰まりな自主性」ということばを使って、

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