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[2]表現の自由を特別に規制する自民党改憲草案

「公益および公共の秩序」による制限盛り込む

阪口正二郎 一橋大学大学院法学研究科・教授

注)この立憲デモクラシー講座の原稿は、4月22日に立教大学で行われたものをベースに、講演者が加筆修正したものです。

立憲デモクラシーの会ホームページ

http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/

講演する阪口正二郎教授拡大講演する阪口正二郎教授

書き加えられた「21条2項」

 ここから今度は、「新憲法草案」の中の「表現の自由」についてです。

 草案の「表現の自由」には二つの特徴があります。一つは、新たに足している部分があります。21条の2という条文が足されている。これにはこう書いてあります。「国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う」。これは要するに今はやっているアカウンタビリティです。国はいろんなことを行うに当たって、ちゃんと国民に説明しろというわけです。

 だけど、こんなのは別に、しかも「責務」というふうに書いてあるだけですから、書いても書かなくてもほとんど意味はないと思います。今だって法律によっていろんな情報公開等々、アカウンタビリティは義務づけられている。この21条の2は単純に「いやいや、この草案、悪くないでしょ?」と言いたいだけの、ごまかし、「幻惑」だと思います。

 怖いのは、特徴のもう一つのほうです。それは21条第2項という条文です。これは現在の「表現の自由」にはない条項を、これもまた加えているんです。こう書いてあります。「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」と書いてあります。

 これはかなり曲者で、たとえば新憲法草案にも「思想良心の自由」とか「信教の自由」とか書いてあります。けれども、その条文にはこういう制限規定はついていないのです。21条にだけつけてあるんです。それだけつまり「表現の自由」を特別に規制するぞ、ということだろうと思います。

「公益及び公の秩序」

 それからもう一つは、現在の憲法では、特に経済的自由権については、格差社会を生まないように経済活動については制約しますよ、という意味で、「公共の福祉」という制限用の文言がついているんですが、それはそっくり、今回の新憲法草案では外されています。つまり経済的自由は今よりもっと自由にしよう、もっと市場に任せようというわけです。

 他方、「表現の自由」は今のようなものではだめだ、もっと規制しようということです。

 しかもこれには、「公益及び公の秩序」と書いてある。「公益」だけなら、まだ「社会的利益」ということですから、そういうことによって権利が制約を受けるというのはわからないわけではありません。でも、もう一つ別に、「公の秩序」というものがある。これはダイレクトに社会的な利益とかそういうものではなくて、「国家の秩序」そのものだと思います。これはまさに、国家に反することは許さないということとして、あえて怖いものが放り込まれているということだと思います。

 「公益及び公の秩序」をなぜ「表現の自由」にだけ制限規定としてわざわざ設けるのか。

 現在の日本国憲法は、公共の福祉による制限というのをわざわざ22条と29条に書いています。22、29条というのは、両方とも経済的自由権です。これは要するに経済的自由権を制約して、福祉国家を実現させようという、その目的のために書いている。しかしこの新憲法草案では、そこが、財産権のほうは取れていませんが、職業選択の自由のほうは取れていて、経済活動をもっと自由にする。そして「表現の自由」は逆に、特別に規制するぞ、という意思表示をしている。

予防的に規制する

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 それからもう一つは、「公益」と「公の秩序」はいま言ったように、少し違うのではないか。公益だけならまだわからない話ではないが、公の秩序まで入ると、国家の秩序に反する行為は全部、社会的利益を侵害していなくても規制するぞという話になるのではないか。

 またもう一つ、条文の中には、たとえば、こう書いてあります。「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」、それから「それを目的とした結社」と書いてあります。もちろん「表現の自由」を保障するといろんな弊害があって、場合によって規制を受けなければならないことがあるかもしれません。しかしそれは当該表現行為の結果に基づくことです。結果と関係なく、「公益及び公の秩序を害すること」を目的としたら、その時点でもう規制するというのは、相当危ない話です。

 「公の秩序」を害することを目的とした集団があったからといって、それがそういう行動をするとは限らないわけです。そういう活動をしたら規制をするというのは当たり前だと思いますが、 ・・・続きを読む
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筆者

阪口正二郎

阪口正二郎(さかぐち・しょうじろう) 一橋大学大学院法学研究科・教授

1960年兵庫県西宮市生まれ。 1989年3月 早稲田大学大学院法学研究科単位取得退学。 東京大学社会科学研究所助手、同助教授、一橋大学大学院法学研究科助教授を経て、 2001年4月より一橋大学大学院法学研究科教授。 専攻は、憲法学、比較憲法学。 主要な著作として、『立憲主義と民主主義』(日本評論社、2001年)、『ケースブック憲法』(弘文堂、2004年)、『改憲は必要か』(岩波新書、2004年)、『神の法vs.人の法』(日本評論社、2007年)、『岩波講座憲法5 グローバル化と憲法』(岩波書店、2007年)、『自由への問い3 公共性』(岩波書店、2010年)、『新基本法コンメンタール憲法』(日本評論社、2011年)などがある。

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