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東京都の豊洲問題は無責任な日本政治の縮図だ

「もんじゅ」、長期金利……なぜ「失敗」が続くのか

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

東京都政の無責任体制と石原氏の「虚言」

 猪瀬直樹知事、舛添要一知事と続いて東京都知事は任期途中で不祥事によって辞任に追い込まれ、小池百合子都知事が誕生した。小池知事が築地市場の豊洲への移転を延期したところ、主な建物5棟の地下に盛り土がなく空間があったことが発覚したために、共産党などが批判していた豊洲問題が大騒動になっている。

 調査に対して5人の市場長が、盛り土をしないという設計変更を知らなかったと述べていることについて小池知事は「無責任体制と言わざるを得ない」と批判し、さらに9月中に報告をまとめる方針を示した。この言葉は至言であり、問題の本質を示している。しかもこれは東京都政だけにあてはまることではない。実は今の日本政治全体を象徴する言葉なのだ。

石原慎太郎氏拡大築地市場の移転問題で謝罪文書を出した石原慎太郎元東京都知事
 石原慎太郎元知事は当初、「僕はだまされたんですね」「都の役人は腐敗していると思った」と述べた。

 ところが2008年5月の記者会見で、地下にコンクリートの箱を埋めるという案を石原知事(当時)が紹介したことが報じられた。

 すると、豊洲移転の件は浜渦武生副知事に任せていたとして「僕はね、横田(基地)とか、大江戸線とか、尖閣諸島を守ることに必死だったから」と弁明した(『週刊文春』9月29日号)。

 そしてついに、まもなく84歳になるから個別の問い合わせには答えられないとしつつ、「責任を痛感している」という謝罪文書を出さざるをえなくなった。

 「僕はだまされたんですね」という当初の発言は「虚言」であり、「都の役人は腐敗している」というのは責任転嫁だったとしか言いようがない。ここから明らかになった東京都政や日本政治の問題を考えてみよう。

膨大な損害と責任の所在

 もともと築地市場は築地での再整備が決まっていたのに、1999年に石原慎太郎氏が都知事になった時から豊洲への移転が一気に進んだ。築地市場の跡地を民間に売却し赤字削減を進めるという狙いがあったという。

 石原氏は腹心の浜渦副知事に豊洲の土地所有者である東京ガスとの交渉を行わせ、都は1859億円もの代金を今までに支払っている。ところがこの土地はベンゼンやシアンなどの有害物質がある土地だった。

 そこで2008年12月に専門家会議が敷地全体に盛り土を実施すべきだと提案した。ところが、実際にはいつの間にか地下に空間が設けられており、公明党などの調査でも、基準値以下ではあるものの有害物質が検出された。

 石原氏は、自分は素人だから下から報告を受けてコンクリートの箱を埋める案を記者会見で話しただけと説明している。しかし当時の市場長によれば、知事の指示で検討したが、採用しなかったという。それにもかかわらず、なぜか2011年6月の基本設計においては地下空間が設けられていて、当時の市場長も石原都知事も知らなかったというのだ。

 この空間を技術系職員は認識していたにもかかわらず、都はその後も一貫して全体に盛り土を行っていたという説明をし続けていた。さらにこの豊洲の工事に関しては、自民党都議会の「ドン」と言われる内田茂氏や都庁幹部などに関わる落札の便宜や談合の疑惑が報じられている。

 今後、豊洲で新たな対策を行うにしても、豊洲移転をやめて築地市場の再整備を考えるにしても、巨額の損害が発生することは疑いようもない。すでに総事業費は今年2月に約5900億円になっており、移転を延期しているだけで毎日維持費が約700万円もかかるのだという。今後の費用を考えると少なくとも1兆円にはなるだろうと推定されている。築地再整備費用は1996年ごろの再試算でも3400億円だったのだから、それよりも安くするための豊洲移転によって、逆に2倍から3倍以上になってしまったわけだ。

 この問題には確かに都議会や都庁などの様々な「闇」が存在するだろう。地方自治体では首長は直接選ばれているから、議会との間には緊張関係がある。これは二元代表制と言われる。ところが東京都においては知事が「ドン」などの議会政治家と相互依存関係になったので、このような事態が生まれたのだろう。いわば石原知事と内田氏とを親分として、癒着する業者との間に親分―子分関係(恩顧主義)が生まれてしまったわけである。

 この膨大な損害について石原氏自身の責任は疑いようがない。もちろん石原氏には全体の監督責任があった。地下空間の建設については技術的に擁護する声もあるが、市場長や石原氏がそれを知らなかったと責任回避を行うことは許されない。さらに豊洲への移転の決定自体について石原氏には責任がある。

 これらの責任はどのように負うのだろうか。石原氏はすでに政治家を引退しているから、辞任を迫ることもできない。小池知事がどのような道を選ぶにしても、それは最終的には都民が負担するしかないのである。

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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