「もんじゅ」、長期金利……なぜ「失敗」が続くのか
2016年09月28日
猪瀬直樹知事、舛添要一知事と続いて東京都知事は任期途中で不祥事によって辞任に追い込まれ、小池百合子都知事が誕生した。小池知事が築地市場の豊洲への移転を延期したところ、主な建物5棟の地下に盛り土がなく空間があったことが発覚したために、共産党などが批判していた豊洲問題が大騒動になっている。
調査に対して5人の市場長が、盛り土をしないという設計変更を知らなかったと述べていることについて小池知事は「無責任体制と言わざるを得ない」と批判し、さらに9月中に報告をまとめる方針を示した。この言葉は至言であり、問題の本質を示している。しかもこれは東京都政だけにあてはまることではない。実は今の日本政治全体を象徴する言葉なのだ。
ところが2008年5月の記者会見で、地下にコンクリートの箱を埋めるという案を石原知事(当時)が紹介したことが報じられた。
すると、豊洲移転の件は浜渦武生副知事に任せていたとして「僕はね、横田(基地)とか、大江戸線とか、尖閣諸島を守ることに必死だったから」と弁明した(『週刊文春』9月29日号)。
そしてついに、まもなく84歳になるから個別の問い合わせには答えられないとしつつ、「責任を痛感している」という謝罪文書を出さざるをえなくなった。
「僕はだまされたんですね」という当初の発言は「虚言」であり、「都の役人は腐敗している」というのは責任転嫁だったとしか言いようがない。ここから明らかになった東京都政や日本政治の問題を考えてみよう。
もともと築地市場は築地での再整備が決まっていたのに、1999年に石原慎太郎氏が都知事になった時から豊洲への移転が一気に進んだ。築地市場の跡地を民間に売却し赤字削減を進めるという狙いがあったという。
石原氏は腹心の浜渦副知事に豊洲の土地所有者である東京ガスとの交渉を行わせ、都は1859億円もの代金を今までに支払っている。ところがこの土地はベンゼンやシアンなどの有害物質がある土地だった。
そこで2008年12月に専門家会議が敷地全体に盛り土を実施すべきだと提案した。ところが、実際にはいつの間にか地下に空間が設けられており、公明党などの調査でも、基準値以下ではあるものの有害物質が検出された。
石原氏は、自分は素人だから下から報告を受けてコンクリートの箱を埋める案を記者会見で話しただけと説明している。しかし当時の市場長によれば、知事の指示で検討したが、採用しなかったという。それにもかかわらず、なぜか2011年6月の基本設計においては地下空間が設けられていて、当時の市場長も石原都知事も知らなかったというのだ。
この空間を技術系職員は認識していたにもかかわらず、都はその後も一貫して全体に盛り土を行っていたという説明をし続けていた。さらにこの豊洲の工事に関しては、自民党都議会の「ドン」と言われる内田茂氏や都庁幹部などに関わる落札の便宜や談合の疑惑が報じられている。
今後、豊洲で新たな対策を行うにしても、豊洲移転をやめて築地市場の再整備を考えるにしても、巨額の損害が発生することは疑いようもない。すでに総事業費は今年2月に約5900億円になっており、移転を延期しているだけで毎日維持費が約700万円もかかるのだという。今後の費用を考えると少なくとも1兆円にはなるだろうと推定されている。築地再整備費用は1996年ごろの再試算でも3400億円だったのだから、それよりも安くするための豊洲移転によって、逆に2倍から3倍以上になってしまったわけだ。
この問題には確かに都議会や都庁などの様々な「闇」が存在するだろう。地方自治体では首長は直接選ばれているから、議会との間には緊張関係がある。これは二元代表制と言われる。ところが東京都においては知事が「ドン」などの議会政治家と相互依存関係になったので、このような事態が生まれたのだろう。いわば石原知事と内田氏とを親分として、癒着する業者との間に親分―子分関係(恩顧主義)が生まれてしまったわけである。
この膨大な損害について石原氏自身の責任は疑いようがない。もちろん石原氏には全体の監督責任があった。地下空間の建設については技術的に擁護する声もあるが、市場長や石原氏がそれを知らなかったと責任回避を行うことは許されない。さらに豊洲への移転の決定自体について石原氏には責任がある。
これらの責任はどのように負うのだろうか。石原氏はすでに政治家を引退しているから、辞任を迫ることもできない。小池知事がどのような道を選ぶにしても、それは最終的には都民が負担するしかないのである。
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