生前退位問題で論じられるべき最大の問題とは
2016年10月25日
天皇陛下の生前退位問題について「天皇の公務負担軽減等に関する有識者会議」の初会合が10月17日に開かれた。今後、憲法や歴史、皇室制度などの専門家十数人からヒアリングを行い、来春に提言を行うという。
ヒアリングのテーマとして「(1)天皇の役割、(2)天皇の公務のあり方、(3)公務軽減の方法、(4)摂政、(5)国事行為の委任、(6)生前退位、(7)退位をみとめる場合、恒久制度とするか、(8)退位した後の天皇の身分や活動」という8項目が決められた。女性・女系天皇の可否は論点からはずされている。
政府としては2018年をめどに退位を想定し、今上天皇に限って生前退位を可能にする特例法を軸に来年の通常国会で法制化することを考えていると報道されている。
このような会議では、政府が望むような意見を持つ人が選ばれることが多い。実際、この中で御厨氏と山内氏は生前退位や特例法を容認する考えを表明している(朝日新聞10月14日付)。
他方でこの問題に密接に関わる憲法や神道・皇室制度の専門家はいない。日本会議や神道政治連盟を考えればわかるように、神道や皇室問題に詳しい論客は安倍政権を支持していることが多い。なぜこれらの専門家が選ばれなかったのだろうか。
神社界は戦前への回帰を目指しているのか?――改憲を求める宗教的理由(WEBRONZA)
私は「『平成の玉音放送』と二つの天皇像――生前退位反対論へのメッセージ」(WEBRONZA)で、天皇陛下のこのメッセージは昭和天皇の人間天皇宣言に続く重要な意味を持っていることを指摘した。今上天皇ご自身が生前退位の希望を事実上述べられ、NHKの初めの報道以降に現れた右派の生前退位反対論や摂政案に対する反対をも暗に表明された。天皇陛下御自身と右派との間には「天皇像」をめぐる対立が存在する、と論じたのである。
この対立は、その後も続いて現れている。右派の論客たちにはあいかわらず摂政や臨時代行を主張する意見が少なくない。たとえば右派雑誌の『正論』や『Voice』の10月号では、摂政や皇族の臨時代行が最善という主張(八木秀次氏や渡部昇一氏)や、仮に「譲位」を認めるにしても今回は(短期的には)皇室典範は改正すべきではなく特例法によるべきであるという議論(竹田恒泰氏、櫻井よし子氏)がなされている。
その論拠は何だろうか(*以下、上記の雑誌と朝日新聞、9月10日、「男系維持派 困惑」を中心にまとめた) 。
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