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ワシントンからNYへ。まさかなあ

11月1日(火) 結局、時差ぼけが出てきて午前2時頃まで起きていて眠ろうとしたら、沖縄タイムスの原稿で問い合わせが来て、書きなおす羽目になった。それで4時過ぎまで起きていた。結局2時間余りしか寝られず。本当に時差調整が下手なのは自業自得か。

 今朝のワシントンポスト、ABCの世論調査では、とうとうトランプが46、クリントンが45と支持率が逆転してしまった。熱狂的にクリントンを支持すると答えた人の率が大きく減ったためだ。これは何かの前触れかもしれない。NYタイムズの方は、FBI長官コミーの果たしている役割が、悪名高いかつてのFBIの親玉フーバーを想起させるとの知識人や歴史家たちの見方を紹介していた。

 最初にトランプを熱狂的に支持するヒスパニックの女性活動家(不動産業などを営むプエルトリコ出身の女性)の自宅を訪ねる。ヴァージニア州の郊外にある瀟洒な家の前にはトランプ支持のサインだらけ。どこの家かがすぐにわかった。話を聞いて頭が痛くなるほどトランプを崇拝していて、聞く耳を持たない人だった。メキシコ国境に巨大な壁を建設する案にも大賛成だと。なぜならトランプの言うとおり、違法な移民には強姦犯をはじめ犯罪者が多いからだと。国境の壁は家の周りに塀をつくるのと同じでしょと。

 その後、元USTR(米国通商代表部)代表のカーラ・ヒルズ氏。生粋の共和党政治家だが、今回は何とヒラリー支持を表明した。真っ赤なスーツ姿で現れたヒルズ氏の言葉には説得力があった。つまり、トランプが外交にせよ、貿易にせよあまりにも酷すぎて、こんなのが大統領になったらアメリカは世界の恥さらしになると。TPPなどについても率直に聞いた。彼女はTPPの考え方には賛成だが、今後どうなるかは予断を許さないという見方で、2国間で修正が必要だとも。応接室には、日本の水墨画が飾られていた。その後も「ヒラリーを支持する共和党女性たち」という組織の創設者たちのインタビュー。3つ連続で疲れたが手ごたえがあったな。

 DC支局で素材送りや構成相談。マイケル・ムーアがMSNBCに出ていた。録画かな。髪が随分のびている。新作『マイケル・ムーア・イン・トランプランド』でトランプ現象を扱っている。見ていないので何とも言えないが、どうやら褒め殺しの手法らしい。

 チャイナタウンそばの大衆的なバーベキュー屋さんでスタッフと腹を満たす。長い一日だった。NYのカーネギーホールで今夜スティーブ・ライヒのコンサートがあったらしい。残念。悔しい。見たかったな。韓国の大統領をめぐる動向が慌ただしい。

11月2日(水) またしても時差調整に失敗して午前5時に起床。まいったなあ。まあ、二度寝はあきらめて、風呂に入りパッキング、チェックアウト。午前10時から『アトランティック』誌のスコット・ストッセル編集長のインタビュー。これが実に面白かった。47歳。同誌が創刊以来159年の歴史の中で3人目の大統領候補支持表明をしたのだ。一人目は1860年のエイブラハム・リンカーン、2人目は1964年のリンドン・ジョンソン、そして2016年の今回、3人目としてヒラリー・クリントンを支持すると。理由はトランプなんかがなったらアメリカはおしまいだ、と直截だ。彼はアメリカ大統領には全く不適任で、建国以来のアメリカの精神に反しているとバッサリ。過去の人物ならイタリアのベルルスコーニが似ているけれども、トランプよりひどいとしたら、ドゥテルテ比大統領くらいだと断じていた。トランプ不支持、ヒラリー支持の方針を決めるのに数カ月の討論を要したという。

 DC支局からホワイトハウス前でリポート。正面前の道路と公園部分が工事中で柵が設けられ入れない。大回りしてアイゼンハワー棟側からリポート。温かい夏のような日和だ。午後にトランプ陣営の外交アドバイザーにインタビュー。トランプは聴く耳をもっていると。DCのチャイナタウンを通ると「馬利奥特」と書かれた建物があった。よく見たら何だ、マリオットホテルではないか。

 その後アムトラックに乗ってNYへ。4人で移動するので、荷物多し。リアル・クリア・ポリティクスというWEBサイトは日々刻々と両陣営の支持率調査の平均値(さまざまな調査機関を集計しての)を報じているが、クリントン/トランプの差がきわどくなってきている。一体どうなるんだろうか。まさかなあ。NYで投宿したホテルの部屋が大通りに面していてすごくうるさい。耳栓を持ってきてよかった。

マイケル・ムーアの新作『トランプランド』をみる

11月3日(木) とてもつらい夢をみて目が覚めた。筑紫(哲也)さんが出てきた。彼は夢の中でもキャスターで、周りにいる人たちはおそらく旧(NEWS)23の人々なのだろう。その中で、僕は仕切り役をしているのだが、「段取りが悪い」と言ってやたらと筑紫さんが僕にあたってくるのだった。もちろん夢である。だがそのことが非常に苦しくて、夢にもかかわらず妙にリアリティをともなっているのだった。「どうなってるんだ」とか怒りをあらわにしているのだった。気がつくとぐっしょり汗をかいていた。つらい夢だった。

 朝9時からコロンビア大学のジェラルド・カーティス名誉教授にインタビュー。非常に面白かった。2008年から10年にかけて自分がそこにいた場所。コロンビア大学の東アジア研究所。何だか感傷的な気持ちになってしまった。帰り際に、元「報道特集」で仕事をご一緒した久保田智子さんが顔を出された。彼女はいまNY在住で、ここに籍を置いているのだ。活躍を祈るばかりだ。

『マイケル・ムーア・イン・トランプランド』拡大『マイケル・ムーア・イン・トランプランド』の公式予告編 Michael Moore in TrumpLand OFFICIAL TRAILER=YouTubeより
 その後、リンカーン・シネマでマイケル・ムーアの新作『マイケル・ムーア・イン・トランプランド』をみる。観客に反応を聞く。とても戦術的な作品だ。サンダース支持だったムーアがよくこの作品をつくったものだ。

 ホテルに戻ってちょっとだけ横になったらそのまま寝込んでしまった。自分は本当に時差調整が下手だ。深夜になってから東京と若干の情報交換。CSや大学関係。

11月4日(金) 衆議院の特別委でTPP強行採決の報。次の大統領がクリントンになろうがトランプになろうが、アメリカ議会でのTPP批准が成り立ちにくい状況の中で、ポチ国家の方向違いの暴走か。

 泊まっているホテルの使い勝手の悪さに辟易。とにかくエレベーターが来ないのだ。5分以上待っても来ない。14時からNY支局で中継打ち合わせ。NY支局には、この大統領選挙期間中に何と35人もの人員が(もちろん僕らのチームも含めて)日本から取材に来ているとのこと。なかにはNYが初めてという人もいて、アテンドする側も大変だろうなあと思う。

 夕方、久しぶりに青木富貴子さんとお会いしてお話をする。お互いに現在のアメリカの状況を憂うるばかり。この選挙のうんざり具合の後に何がやって来るのかが怖いのだ。

日本と似ていなくもないトランプ旋風

11月5日(土) 深夜午前1時45分にホテルを出てNY支局の入っているCBSへ。リハーサルの後、「報道特集」の本番。DC支局の緒方誠支局長と。前半の韓国大統領スキャンダルの動きがあまりにも激しく、気押された。日下部正樹キャスターが頑張っていた。でも、韓国もアメリカも社会が腐敗や不満に懸命に対応しようとしている。僕らの国はどうなんだろう? 演説草稿を丸投げしているのは、僕らの国のトップの方がひどいんじゃないのか? まあ、いずれにしても彼女の退陣は時間の問題だろう。

 さて、僕は何だか今回のアメリカ大統領選挙結果にいやな予感がしているのだが、どうなるのかな。今日の放送の解説部分では次のように言っておいた。<取材をして感じたのは、有権者の間に、不平等感や不満、怒りといったネガティブな感情が広く共有されていて、それが既成の政治家に対する非常に強い反発となって、トランプ旋風を支えていると感じました。と同時に「反知性主義」というか、理性や分別よりも、ちからだ、行動力だ、という非常に短絡的な見方が、メディアの後押しもあって拡がっていると実感しました。このあたり、日本と似ていなくもない。ですから、選挙結果で何が起きてもおかしくないと>。

 NY支局の人たちには本当にお世話になった。ありがたいことだ。ホテルで午後まで仮眠。今日で滞在先がNY支局近くのホリデイ・インにうつる。午後、MOMA(ニューヨーク近代美術館)でナン・ゴールディング展 The Ballad of Sexual Dependency 。人間というのは何となまなましい生き物なのか。女と男と境界と。彼女の写真にはストーリーが横溢している。おそらくナン自身が性行為をした後、撮られたであろうベッドにうつ伏せに横たわっている男の裸の姿に僕らは何をみるか。沖縄の写真家・石川真生が港湾労働者と一緒に暮らしていた頃に撮られた一連の写真を思い出した。

 夜、CNNで放送されていたトランプの一代記みたいな番組を見ていて、ある意味でこういう男がアメリカをつくってきたのかも、と思ってしまった。マッチョイズムそのもの。権力欲と性欲が絶倫。結婚と離婚を繰り返し、富を得るための無限の欲望。勝者と敗者の世界。アングロサクソン的世界観そのものの人生じゃないか。

11月6日(日) 朝5時半に目が覚めて、ホテルの外に出たら、何とホテルから続々とランナー姿の人々が出てくる。今日はニューヨーク・マラソンの日なのだ。多くの日本人の姿がある。『越境広場』の原稿を書いていたらお昼になってしまった。選挙に関する情報収集。FBI長官が結局、Eメール問題でヒラリー・クリントン氏を訴追しないことを公表。またもやこのタイミング。もうクリントン陣営には追い風にはなるまい。

 夜、ブルーノートでチック・コリア。75歳のお祝いの連続ライブ。店内は立錐の余地もないほど混み合っていた。若いや。深夜、早稲田の授業をSKYPEで。アメリカ大統領選挙投票まであと2日の直前情勢について。

11月7日(月) NY時間の朝7時からCSのTBSニュースバードで大統領選挙直前情勢の収録。これがやっていてとても面白かった。青木富貴子さんにニューヨーク支局においでいただいた。コロンビア大学名誉教授のジェラルド・カーティスさんのインタビューをふんだんに使いながら、青木さんとの対話。時間も1時間20分あまり。これくらいの時間を使えればかなりのことがやれると実感。お昼すぎ、坂本龍一さんとランチ。ノースダコタとアイスランドの話が強く印象に残った。

 その後、ホイットニー美術館に立ち寄る。ここの展示はいつも刺激的だ。なかでも、水爆実験のキノコ雲の実写フィルムで構成された35分の作品にくぎ付けになった。

 さて、直前の情勢分析では、支持率はクリントンが4ポイントから6ポイントのリードと伝えられているが、まだまだわからない。選挙は本当にわからないのだ。あしたが投票本番。スタッフで最終打ち合わせ。あした朝はトランプタワー。その後の投票所の取材場所は3か所。スタテンアイランドとチェルシー、アッパーウエスト。候補者の投票風景は支局とCBSに任せよう。

 あとは、クリントンの祝勝会場Javits Centerのなか。ここのメディア記者証を受け取りに行く。これがないと建物の中に入れない。民主党ヒラリー陣営の金権体質に腹が立つ。メディアのクレデンシャルでいちいち金をとるのだ。いろいろなエリアに入るのにそれぞれ別料金がかかる。会場全体が見渡せるひな壇のパスがひとり150ドル。ファイリングセンターの記者席を確保するのにひとり200ドル。ふざけんな、と言いたいところだ。さて、泣いても笑ってもあしたの真夜中には次の大統領が決まる。眠ろうとするがなかなか寝付けず。


筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

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