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[3]朴槿恵大統領、辞任表明の背景

「韓国民主主義の申し子」たちの怒りと熱情

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

道を踏み外した大統領

ソウルの大統領府(青瓦台)で会見に臨む朴槿恵大統領=東亜日報提供拡大「任期満了前辞任」会見に臨む朴槿恵大統領=東亜日報提供
 ついに朴槿恵大統領が、任期満了前の辞任を表明した。全国民が押し寄せたとしても、決して下野することはないと言われていた彼女がそうした決断をするに至ったのには、自らが心身を捧げたと思っていた韓国国民からの不信の声があった。

 民主国家においては、たとえ自らが支持する政党あるいは個人が政権を取れなかったとしても、選挙を経たことで、その代表者を国として信任したこととなり、権力が付与される。

 その力は元々保持していた軍事力を背景にしたものであったり、権力者である親から受け継いだものであってはならないとの共通理解があり、選挙という過程を経ているからこそ、代表者は時に世論と異なっていても一貫した政策を押し進めることができる。

 そして、その最終的な判断を行うことに対して、プレッシャーがあったとしても、それを公僕として受け止め、着々と遂行することが国のリーダーには求められる。

 翻って、現在、韓国で問題になっているのは、大統領が自らの親友に官僚などが検討し終えた段階での一級の機密情報を漏らし、最終判断への助言を求めていたという事実である。

 つまり、選挙で選ばれた者でもなく、公務員試験や高度の大学教育を経たわけでもない個人が、大統領との個人的信頼関係によって、重要政策の最終判断すら行っていたことが問題視されているのである。その状況こそが、韓国人の怒りに火を点けた。

 中でも、大統領が漏らしたとされる文書の中には、北朝鮮に対する安全保障政策、あるいは日本や中国との外交に関わるものがあったとされる。それらの問題は、徴兵制や貿易収支の変化に伴う税金の増減といった形で国民の生活や人生に直結する。

 本来、そうした問題は個人では対処できないことから、国が存在し、選挙によって選ばれた代表者が政策を遂行していくのであって、そこに国民が関知しない友人の声が重視されては民主国家の根本は崩れてしまう。

 もちろん、そうした問題と共に、大統領と通じていることを背景に、崔順実(チェ・スンシル)被告が多くの利権や娘の学業等に関わる個人的な優遇措置を画策したことも、国民の怒りを呼んでいる。(1)文化やスポーツに関わる財団を設立し、幽霊会社などを通じて補助金を取得する手法、(2)財団への資金集めに際した大統領の利用、(3)自らの子弟の大学入学や大学生活の優遇等は、多くの一般市民が各種の競争や格差社会の下方に位置づけられながらも、国民としての義務を愚直に果たしている状況との間に大きな齟齬と怒りを生んだ。

 崔被告らは国民により選ばれた大統領の権限を笠に着て、自らの利益を追求した可能性が高い。ただ、そうした汚職は ・・・続きを読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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