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[11]高江の不条理、いかがわしさの「同心円」

金平茂紀

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12月06日(火) 街中に師走気分が出てきた。定例会議でもろもろあり、気が滅入るのをこらえてランチを食べに外に出たら、昼間っから会食で酒が入っているグループ多数。14時から中東取材の打ち合わせ。砂を噛むような感覚。

 17時、飯田橋。角川文化振興財団が運営する文学・学術研究3賞授賞式。第3回城山三郎賞に辺見庸さんの『増補版 1★9★3★7』が選ばれたので行ってみることにした。ひとりでビデオカメラを回す。5人の受賞者の中で、辺見さんは最後に受賞の所感を述べた。おおよそ受賞の挨拶としては「まことにふさわしくない」(辺見氏本人の弁)その言葉はしかし、静かでかつ激越なものだった。武田泰淳の短編小説のある光景について辺見さんは触れた。戦時中、中国のある農村で日本軍の兵士が大きな円陣を組んでいる。その真ん中には捉えられた中国の農民母子がいた。日本軍がその母子に円陣の真ん中の公衆の面前で性交を強いる。それをしたならば命は助けてやると命じる。むごい風景である。同心円の中心にいるのはこの母子であって、結局、最後にはこの母子は灯油をかけられて焼殺される。時空を超えて、実はこの同心円の拡がりのなかに私たちの今があるのではないか。私たちは今もこの同心円から脱することができないでいる。この授賞式も実はその同心円の中に含まれている。いかがわしいものといかがわしくないものとの間の境目がなくなった現在のなかに私たちはいるのだと。記憶に基づいて僕は今これを記しているが、おおよそ以上のような挨拶を辺見さんは行った。確信犯である。少しだけ辺見さんご本人と言葉を交わした。

 同じ授賞式参加者で、角川財団学芸賞を受賞した山本聡美さんという方の『九相図をよむ――朽ちてゆく死体の美術史』という本が読みたくなった。撰者の山折哲雄氏のベタ褒めぶりを聞いたからだ。松井冬子のことを思い出した。斎藤美奈子さんや魚住昭氏、鵜飼哲氏らの姿あり。夜、神保町Uさん。

文明のかなしみよ…

12月07日(水) 高江ヘリパッド工事差し止め仮処分裁判、却下。もともと今の司法に期待などしてもいないのだが、司法までもが沖縄に対する「いじめ」の尖兵になっている現実に絶望を通り越した思いをもつ。とりわけ沖縄の安全保障関連ではどうしようもない行政の下僕になり下がっている。まるで植民地の傀儡司法のような。

 朝からテレ朝のワイドショーで、韓国のパククネ・スキャンダルをこれでもかと延々と放送しているのをみて、どこの国の放送局かと。日本のテレビなんかそんなもんだ、とは思いたくないのだが。真珠湾に行きたいが、別の場所の取材で叶わず。今回の真珠湾訪問は実にプラグマティックな打算によって成立したとのAyako Mie記者のJapan Timesのトップ記事は的確だ。

 午後4時半から慶応大学で講義。とても大人しい学生さんたちだった。夜の便で那覇へ。気温差が激しい。暑い。県庁前のビジネスホテルに投宿。投宿客には中国人が多い。

米軍のヘリパット建設工事が進むやんばるの森。ヘリパッド建設が進む(左下N-1、その右上H、右は高江の集落、手前が新川ダム)=沖縄県国頭村、本社機から20161024拡大米軍のヘリパット建設工事が進むやんばるの森=2016年10月24日、沖縄県国頭村、朝日新聞本社機から
12月08日(木) 高江ヘリパッド建設状況を上空から見るために、那覇空港へ。4人乗りヘリに搭乗。N1地区、G地区、H地区で建設中のヘリパッドをみた。やんばるの豊かな森に、表現は悪いのだが、何だか神経性の禿げができたように、ポッカリとあいた円形のヘリパッド建設現場。茶色の地肌の上に慌てて芝生を張っている作業がみてとれる。突貫工事が行われているのだ。

 それ以外の緑のやんばるの森は実に豊かな自然をたたえていた。こんなところにヘリパッドをつくっている文明のかなしみよ。N1ヘリパッドはほぼ完成。Hが一番遅れているのがわかる。将来、揚陸艇が上陸するかもしれない宇嘉川河口からGヘリパッドに至る歩行訓練ルートもくっきりと見てとれる。

 那覇市内に戻って翁長雄志県知事のインタビューを試みようとしたら、県議会開催中で不可能との返答だった。ところが県政記者クラブに行ってみたら、ぶら下がり取材が設定されていた。1階のロビーにカメラが並び始めている。18時過ぎになって県の広報が報道陣の前に降りてきて「質問は、さとうきびと税制の2つに限らせていただきます」と勝手にアナウンスしている。はあ? 驚いたことにそこに居合わせた記者たちは誰も文句を言わないのだった。

 18時半から会見が始まった。広報の要請を無視して、22日の北部訓練場返還式典への招待状は来ているのか、参加する意志はあるのかを聞いた。外の県庁前広場で集会が開かれていて、それを妨害する右翼の街宣車が複数、大音量でがなりたてている。その音が県庁ロビーにまで届き、県知事の声が聞こえづらい。

 会見後にその集会場所に行ってみたらとんでもないことになっていた。沖縄平和運動センターの山城博治議長の逮捕や家宅捜索に抗議する集会だった。「安倍政権による不当な市民弾圧を許さない緊急県民集会」というのが正式名称だ。右翼の街宣車の音量が半端ではない。それ自体が違法なのになぜ沖縄県警は取り締まらないのだろう。以前、コロンビア大学にいた時に、日本の左翼運動を研究していた女性から質問されたことがあった。なぜあのような騒音が放置されているのかと。どこかで僕らは慣れっこになっていて感覚が麻痺しているのだ。街宣車はうるさいものだと。夜、沖縄の旧知Oさん、O記者らと歓談。

12月9日(金) 早朝、東村高江のN1ゲート前着。抗議運動の人々20人以下。その数倍もの警備会社ガードマンと機動隊員。座り込みの強制排除もあっという間に終わってしまった。もはやシステマチックな運搬作業という感じ。人間扱いされていないのだ。午前9時以降、砂利を積載したダンプカーが3~5分間隔でゲートにひっきりなしに出入りする。ダンプは4台編成で前後に警察車両がエスコートしている。㈲北勝重機運輸、㈲東栄運輸、㈲大宜味産業、㈲山宮運送、㈲親田運送。

 午後、東村村長インタビュー。その後、突貫工事のずさんな実態などを取材。県庁の環境保全課の立場などを知る。最終便で東京に戻る。QAB(琉球朝日放送)の大矢英代記者の『テロリストは僕だった~沖縄・基地建設反対に立ち上がった元米兵たち』(1時間版)をみる。さらにRBC(琉球放送)で12月3日に放映された原義和さんの『Born Again~画家 正子・R・サマーズの人生』(90分版)をみる。貧困のため4歳の時に那覇の遊郭に売られてジュリ(「尾類」と書いてジュリと読む)となって生きた、そして戦後は「戦争花嫁」として渡米し、アリゾナの地で画家として懸命に生きた正子さん。その気高い品格ある生き方に感動した。遊郭のジュリの時代に心をひかれた海軍将校と隠れて聴いた「トロイメライ」の話なども心に刻印される。こういう作品をつくって頑張っている人たちがいるのだ。原作品は、この5年くらいの間にみたTVドキュメンタリーの中で最も優れたものだと思う。

 韓国でパククネ大統領の弾劾が可決された。NHKのBSでマーティン・スコセッシのボブ・ディラン伝記ドキュメンタリー『No Direction Home』を二夜にわたってやっている。濃いなあ。すごいや。

何という幸運!

12月10日(土) 早起きして米ドキュメンタリー『In The Family』をみる。遺伝性がんがテーマだが、遺伝性がんを告知された時に生まれる家族や人間関係の変転をめぐるロードムービーみたいな作品でもある。局で今日放送分の「報道特集」プレビュー。本番終了後にスタジオで年賀状用の写真撮影。夜、S大兄と新宿。

12月11日(日) 「沖縄タイムス」の今年最後の原稿。局に着いてから財布がないことに気づいて慌てる。どこを探しても見つからない。またやってしまったか? 昨夜、新宿からタクシーで局に戻った際の支払いの時まではあったのだから、落としたとすればそれ以降だ。何やってんだか。激しい自己嫌悪に陥る。確かに少し飲み過ぎていた。八方手を尽くしたがみつからない。現金も入っていたからなあ。証明書の類も少し入っていたので、局近くの交番に紛失届けを出した。本当に自分のだらしなさに嫌気が増す一方で落ち込む。ところが19時前になって、TBSのK記者から電話が入った。「金平さん、何か探してるでしょ?」「うん、うん」「会社の防災センターにですね、タクシーの運転手さんがお探しのものを届けにきてくれましたよ」「えっ!」「お財布ですよ」。何という幸運だろうか。こういうこともあるんだ。夜、その新宿で、以前から約束のO氏、Yさん、Kとのミニ忘年会。財布が戻ってきた嬉しさのあまり、何を話したか忘れてしまった。少し飲み過ぎた。

12月12日(月) 日露首脳会談の準備など。午後、早稲田。韓国のパククネ大統領の弾劾をめぐっての考察。ゼミで故・吉永春子さんのドキュメンタリー作品2本をみる。『街に出よう~福祉への反逆・青い芝の会』『青春反歌 歌手・友川かずき』。この2作品とも1977年の「カメラルポルタージュ」での放映だ。2ヶ月のあいだに立て続けにこの2本が放送されたのだから、吉永さんにエネルギーが満ち溢れていた時期なのかもしれない。「調査情報」の原稿に手間取る。夜、RKBのNさん、NHKのAさん。多少、頭のなかがオーバーフロー気味だ。消火栓から水を飲んでいる感じ。


筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

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