メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

首相は真珠湾で過去の政策への反省を語ってほしい

半藤一利氏に聞く 日本は世界に平和を呼びかけるのにふさわしい国だ

竪場勝司

 安倍晋三首相が12月26、27の両日、真珠湾を訪問する。今回の訪問の意味や、安倍首相はどんなメッセージを発信すべきなのかを、作家で昭和史研究家の半藤一利さん(86)に聞いた。(聞き手は竪場勝司・WEBRONZA編集部員)

日米関係のためにいいこと、安倍さんはよく決断してくれた

拡大半藤一利さん=吉永考宏撮影
――12月5日の夜に安倍首相が真珠湾を訪問するというニュースが流れましたが、ニュースを聞いた時に、驚きはありましたか。

半藤 驚きませんでした。私の友人で元共同通信ワシントン支局長の松尾文夫さんが、以前から「アメリカ大統領が広島へ、日本の総理大臣がハワイへ。それが新しい日米の友好の道を開く」と唱えていました。私とよくその話をしていたのですが、私は「日本の総理大臣がハワイへ行くということはあり得ても、向こうから広島へ来るはずないよ」と言っていたのです。そうしたら、オバマさんが広島へ来ましたよね。あれを目の当たりにしましたので、その返礼というか、こちらから日本の首相がハワイに行くということはそれほど問題にならないな、と感じていました。たぶん行くことになるのではないかと思っていました。そういう意味では、安倍さんはよく決断してくれたと思う。

――今回の訪問に関する安倍首相の狙いはどんなところにあるのでしょうか。

半藤 トランプさんに代わって、日米関係がぎくしゃくするのではないかと想像していたのですが、安倍さんが行くことによって、トランプさんの気持ちも変わるのではないか。(真珠湾訪問は)日米友好関係のためには非常にいいことだと思っていましたから。

――日ロ首脳会談での成果の見通しが難しくなってきたことで、真珠湾訪問で外交的な得点を稼いで選挙を有利に闘うため、といった見方がありますが、どう思われますか。

半藤 政治家というのは、いつだって選挙対策なんでしょうから。日ロの方は安倍さんの見込みでは、ある程度道筋がつくと思ったんじゃないですか。道筋がついた場合に、選挙に打って出るにはもってこいですよね。その時に日米関係はどうなんだと言わせないために、ハワイへ行くことにした、という言い方はできる。私は日ロ関係がそんなにすんなり行くとは思っていませんでした。だから、今回の訪問が選挙のチャンスを狙うためだとはあまり思っていません。

昭和初期と同じ状況、世界が自国第一主義になるのが心配だ

拡大半藤一利さん=吉永考宏撮影
――昭和史を見つめ続けてきた立場から、今回の真珠湾訪問の意味合いをどう考えますか。

半藤 昭和史の中で、アメリカという国が世界秩序のリーダーとして、世界平和のために先頭を切って進んでいた時代がありました。第1次世界大戦が終わってから、ウィルソン大統領が国際連盟を提唱します。あそこから始まってアメリカは大戦後の新しい秩序をつくるために、平和主義で世界をリードしました。さらに不戦条約を提唱し、列強に締結をさせたり(昭和3年)しました。ところが、昭和4年のウォール街の没落があって、翌年からアメリカはガーッと下がってしまう。共和党のフーバー大統領になって、経済も国防もアメリカ第一主義になって、理想主義から後退するのです。第1次世界大戦後にアメリカが世界をリードした時代というのはだいたい8年間です。オバマさんが「核なき世界」を唱えてトップを走ってきたのも、8年なんです。今度トランプさんが出て、フーバー大統領とそっくり同じことを言うわけです。

 昭和4年の大恐慌以降に、アメリカが下がっただけではなくて、ヨーロッパの国々もみんな自国第一主義になるのです。そこでヒトラーが出てくる。日本の陸軍の軍国主義も出てくる。フーバー大統領が下がって世界が全体的に後退気味になった時に、日本の陸軍が満州にちょっかいを出して世界平和を乱す、ということが歴史的事実としてある。あの事実を見ていると、今度トランプさんがやろうとしていることは、あまりにもフーバー大統領がやった自国第一主義に似ています。同時にヨーロッパの国々も、トランプ氏のような人が出てきている。ああいう姿を見ていると昭和4年から10年ぐらいまでの、おかしな歴史を再現する可能性があるのではないかと、憂えていたのです。人間というものはあまり変わりません。歴史は人間がつくるものですから、そういう意味では、日本という国は国際的に非常にやりづらくなる時代が来るのではないかと思います。

 ただ、あの時代と今の時代では、交通が違います。経済的な交通ももちろんありますが、人間的交通もかなりあります。そう簡単にあの時代のように、世界の国々が孤立主義になるとは思いませんが、傾向としては危ない。そうすると、チャンスとばかりに他の国にちょっかいを出してくる国があるのではないかと考えられます。日本は憲法9条を掲げて平和主義に立ってやってきました。そういう時に世界の国に呼びかけるのに一番適当な国だと思うのです。世界における日本の役割を自覚して、世界秩序を穏やかなものにするように努力すべきです。いろいろな国と友好関係をもっと深めていくことが大事です。そういう意味では、安倍さんがハワイに行ってアメリカ人と友好を深めて未来志向になるということは、いいことだし、評価しています。

――いわゆるポピュリズム的なものが世界全体を覆ってきている感じがするのですが、どう思われますか。

半藤 それは感じています。昭和の初期の世界がガーッと引っ込んでいく歴史を見ていると、日本が満州に出て行って満州国をつくった時も、本来なら、世界の国からものすごくたたかれるはずです。経済封鎖を受けて日本は干上がってしまう。ところが、 ・・・続きを読む
(残り:約2407文字/本文:約4714文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


関連記事

レコメンドシステムによる自動選択

筆者

竪場勝司

竪場勝司(たてば・かつじ) WEBRONZA編集部員

1982年、朝日新聞入社。名古屋社会部次長、岐阜総局長、ゼネラルマネジャー補佐、デジタル担当補佐などを経て、2016年3月からWEBRONZA編集部員。