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ポピュリズムの寿命は長くはないのではないか

「大衆の反乱」をいかに民主主義的な勢力のほうに取り込んでいけるかが問われている

渡邊啓貴 東京外国語大学大学院教授、国際関係研究所所長(ヨーロッパ政治外交、国際関係論)

トランプ次期大統領の選出の背景

原稿を読まずに、感情のままに人を批判したり、虚偽の発言をしたりすることでおなじみのトランプ氏。でも、共和党の正式な大統領候補となり、党全国大会を締めくくる最後の演説ではプロンプターできちんと原稿を読んでいる様子がうかがえた=2016年7月、オハイオ州クリーブランド、ランハム裕子撮影 拡大原稿を読まずに、感情のままに人を批判したり、虚偽の発言をしたりすることでおなじみのトランプ氏。でも、共和党の正式な大統領候補となり、党全国大会を締めくくる最後の演説ではプロンプターできちんと原稿を読んでいる様子がうかがえた=2016年7月、オハイオ州クリーブランド、ランハム裕子撮影

 2016年後半、世界の論調は米国トランプ次期大統領誕生でにぎわった。おそらく2017年も米国新政権の政策を中心に世界は一喜一憂することになる。その中心的関心はどこにいくのか。その余波はどこにまで及ぶのか。

 一般にトランプ氏の政治スタイルをポピュリズムと呼ぶが、そうであるのなら始まってみないと本当のところその方向性はわからない。ポピュリズムの主張とはもともと機会主義的かつご都合主義的であるからだ。

 しかし、オバマ的なものを根底から否定して選出されたトランプ次期大統領のスタンスと主張は、内外でその指導力が問われるアメリカの権威に対するアメリカ的な回答ではないだろうか。世界はアメリカの後退によって、不安定化している。世界は強い指導力を必要としている。その責任と任務はアメリカにしか果たすことはできない。まずは「アメリカ第一主義」でいこうではないか。それは世界のためだ、という論理ではなかろうか。

 これはGWブッシュ政権がイラク戦争でたどった失敗の出発点の議論だった。

 しかし一般庶民にとっては、アメリカと世界の位置関係に対する客観的判断はできない。自らの社会生活基盤が苦しいのは、アメリカ自体が弱体化しているからであり、それはエリートの失敗だからである。しかし同時に、外からの圧力や干渉に左右されたくはない。これは自分たちの問題である。まして外国人に職を奪われて自分で自分の首を絞めるような事態になってはならない。反エリートと排外主義の主張はそのような形で結びついた。

 「強いアメリカ」こそ再生への道である。彼らは情緒的にそう考える。文字通り「大衆の反逆」だ。それは「内向きの逆転の発想」である。しかしそこには冷静な判断基準と論理はない。ポピュリズムの危険はまさにそこにある。そしてその背景にあるのが、様々な形態と次元での「格差」の連鎖である。それは先進社会の国内事情から国際社会の構造問題にまで及ぶ。

格差社会のポピュリズムの拡大

 この「格差」の表れは欧州で燎原(りょうげん)の火のように拡大しているかに見えるポピュリズムにもみられる。トランプ米国大統領の当選をはじめとして、BREXIT(イギリスのEU離脱)支持派や、2017年大統領選挙で大躍進が予測されるフランスの極右「国民戦線(FN)」の台頭には共通点がある。2016年はポピュリズム隆盛の年であった。

 ポピュリズム(大衆迎合主義)の詳細な定義はここではしないが、社会不満を極端かつ直接的な形で表明するスタイルと、「弱者」をスケープゴートにする論理に基づく政治活動である点は共通している。

 なかでもBREXITの国民投票での承認は、単にイギリス国内にとどまらず、EUの根幹を揺るがす国際的な影響力を持つに至った。BREXIT支持派の多くは、EU統合の発展によって自分たちの生活が脅かされており、イギリスがEUから離脱することによって生活が改善されると考えた人々であった。

 EUは自分たちに恩恵を与えない。むしろ被害者意識が先行した選択だった。そこにはEUの大義名分や本質に対する理解は不十分で、自分の生活苦に対する不満の原因をEUという、直接的な反動が小さい「外の世界」に押しつけただけだった。あるいは「外の世界」を知らないからこそ、責任を他者に押しつける論理である。

 ヨーロッパを代表する極右勢力、フランスの「国民戦線(FN)」はその典型である。

 もともと反ユダヤ・西欧白人主義の主張をもつ諸派が野合して1972年に組織されたのがFNだった。その代表となったのがジャン・マリ・ルペンという青年だった。実は、ルペンは50年代反税制運動「プジャード派」に見込まれて史上最年少の国会議員に当選して政治の世界に足を踏み入れた人物だ。この運動は時を経ずして、人種差別主義の傾向を強め、極右の政党として勢力を拡大した。

 このプジャード運動は、経済発展に遅れ、経済成長に取り残された地域における手工業者・小商店主らの不満分子の運動だった。反イスラム極右運動として有名なFNであるが、もともとは「大衆運動」としてのルーツを持っている。そして今日この勢力が拡大している地域は、そうした産業近代化に取り残された過疎地域などである。
こうしたポピュリストたちの多くは「反EU」、「反グローバリズム」をスローガンとして掲げる。ヨーロッパや世界をリードする「エリート」に対する大衆の反逆の意味がそこに込められる。

ポピュリズムにはいずれ賞味期限が来る

 しかしポピュリズムには、それが弱者の救済を出発点としながら、人種差別や反EU・反グローバル主義のような極端な主張を中に含む限り、いずれ限界が来る。もともと普遍的な説得力を持つものではないからだ。また弱者(排外主義、反移民)であれ、権力(反EU官僚・反グローバリゼーション)であれ、不満のはけ口としてのスケープゴートを立てることだけではいずれ賞味期限がくる。それだけでは実効性のある政策に結びつかないからである。 ・・・続きを読む
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筆者

渡邊啓貴

渡邊啓貴(わたなべ・ひろたか) 東京外国語大学大学院教授、国際関係研究所所長(ヨーロッパ政治外交、国際関係論)

1954年生。東京外国語大学卒業、慶応義塾大学・パリ第1大学大学院博士課程修了、高等研究大学院客員教授(パリ)、リヨン高等師範大学校、ジョージ・ワシントン大学シグール研究センター客員教授、在仏日本国大使館公使、雑誌『外交』『Cahiers du Japon』編集委員長などをへて現職。『ミッテラン時代のフランス』芦書房、『ポスト帝国』駿河台出版、『米欧同盟の協調と対立』有斐閣、『フランスの文化外交戦略に学ぶ』大修館、『シャルル・ドゴール』慶応大学出版会、『現代フランス』岩波書店など。

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