その核心を否定しつつある有識者会議と政府
2017年01月06日
昨年(2016年)3回のヒアリングが終了し、天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議は議論の取りまとめに入った。特例法を軸にして今の天皇陛下に限って退位を可能にするように政府に求める方針を固めたという。
そして元日、特例法について政府は、前文か第1条に「今上天皇固有の事情」を書き込むという異例の構成を検討していると報じられた(朝日新聞)。陛下が「お務め」として重視してきた公的行為が高齢で困難になったというような経緯をストーリーとして明記し、将来の天皇の先例にしないようにするというのだ。
これは、昨年8月、天皇が発表したメッセージ(象徴としてのお務めについての天皇陛下のお言葉)に正面から反している。陛下は「これからも皇室がどのような時にも国民と共に」あることを願って、「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました」と言われたからだ。
特例法についての政府の方針は、生前退位という結果だけは実現するものの、「象徴としてのお務め」というメッセージの核心を否定するものだ。この「お言葉」はあくまでも今上天皇固有の考え方で、将来の天皇にあてはまるものではないと法律で宣言するに等しいからだ。
さらに、昨年の天皇誕生日の記者会見(12月20日)での質問は一つだけであり、恒例の年頭所感は今年から中止された。負担軽減のためという名目のもとで、天皇陛下の発言の機会は最小限にされている。ここにも政治的な思惑が働いている可能性があるが、それだけにメッセージそのものの内容をしっかりと踏まえて考えることが必要だろう。
「右派論客や憲法学者が有識者会議にいない理由――生前退位問題で論じられるべき最大の問題とは」で論じたように、有識者会議自体には憲法と神道・皇室の専門家が入っていない。そこでこれらの人々に対してヒアリングが行われた。
はじめの2回では神道・皇室や日本史の専門家が登場し、3回目には憲法や法律の専門家の意見が述べられた。ただその意見は専門分野だけではなく立場によって影響されている。
特に日本会議や神道政治連盟に関わる人々がだいたい半分くらいであり、その中心的論客たちは生前退位そのものに反対か慎重な姿勢を示した。その主な議論は、天皇はただ存在するか祈るだけでよいから退位する必要はないというものである(平川祐弘氏、大原康男氏、渡部昇一氏、櫻井よしこ氏、八木秀次氏)。彼らはそこで摂政を主張したり(平川氏、大原氏、渡部氏、櫻井氏)、それにも反対した(八木氏)。
これらの意見は天皇陛下ご自身の希望に明確に反している。特に平川氏はヒアリング後に記者団に「ご自身で定義された天皇の役割、拡大された役割を絶対的条件にして、それを果たせないから退位したいというのは、ちょっとおかしいのではないか」と疑問を呈したと報じられ、話題となった。「御名御璽」や「承詔必謹」というように天皇の名前・印鑑や言葉を敬い尊重するという尊皇の伝統を今でも奉じる人たちからは、違和感があるからだ。
他方でそれ以外の歴史家や憲法学者にも、天皇のご意向に反する意見が目立った。歴史家は、前天皇と新天皇が共存する歴史的な二重権威の問題を指摘した。立憲主義を研究した憲法学者(高橋和之氏)は、メッセージで「象徴的行為」と言われている公的行為(巡幸など)は憲法上では規定がないからそれが果たせなくなることは退位する理由にはならないとした。この点では、右派と立憲主義的憲法学者の意見が奇妙な一致を見せたのである。
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