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[1]IS掃討でシリアに地上部隊を送る危うさ

実戦経験を持つIS戦士が欧米に拡散。テロは新たな段階へ?

川上泰徳 中東ジャーナリスト

政権軍と反体制派が最後まで戦闘を続けたザブディーヤ地区。空爆とみられる爆撃で建物が激しく崩壊していた=11日午後、アレッポ20170113拡大政権軍と反体制派が最後まで戦闘を続けたシリア・アレッポのザブディーヤ地区=2016年1月11日

 米国のトランプ新政権が発足した。米国にとって中東外交は最重要課題であり、外交経験が皆無のトランプ大統領も否応なく、シリア内戦、過激派組織「イスラム国(IS)」対応、イランの核合意、難民問題、さらにこれまで米国が担ってきた中東和平プロセスなど中東の諸問題に関与せざるを得ない。

 しかし、どのような中東政策をおこなうのだろうか。大統領就任前の様々な発言を聞いても、オバマ大統領の8年間とは全く異なる中東対応になりそうだ。

米国抜きで進むシリア内戦の終結

 まず、トランプ政権はシリア内戦とISについての対応を問われる。二つの問題は表裏一体である。シリア内戦についてトランプ氏はこれまでに「アサド政権よりもISの方が脅威であり、ISとの戦いを優先すべきだ」と、オバマ政権の「アサド敵視」の見直しを示唆してきた。さらにISとの戦いで、ロシアと協力する姿勢も示している。だが、まず問題となるのは、ISとの戦いで地上部隊を出すかどうかである。

 シリア内戦では2016年12月にアサド政権軍が北部の都市アレッポ東部の反政府勢力を排除し、全市を制圧した。その後、ロシアとトルコが仲介して、政府軍と反体制勢力との一時停戦が合意され、国連安保理も停戦を支持する決議を採択した。この間、米国は全く関与していない。シリア政権軍がいきなりアレッポ東部の反体制地域の前線を突破したのは11月下旬であり、同月上旬の米大統領選でのトランプ勝利を見て、米国が身動きがとれなくなるのを見透かして軍を動かしたかのようだった。

 シリア内戦という国際社会にとっての最重要課題が、米国の関与がないまま進んでいる。トランプ政権が発足して、中東政策の方針が決まるまでにはさらに数カ月かかるはずだ。それまでにロシアとトルコ、さらにイランも加わって、米国抜きで内戦終結に向けた政治的な枠組みづくりを進めるという状況である。

 オバマ政権はシリア内戦については迷走気味だったが、この3カ月ほどの間にシリア内戦の対応で大きく遅れをとったことになる。シリア内戦にはサウジアラビアやカタールなどの湾岸諸国、さらにエジプトなどアラブ主要国も絡んでおり、このままロシアとトルコ主導で進んでいくとすれば、中東全体で米国の影響力が大きく失われてしまうことにもなりかねない。

「戦争手段」が柱になる時代へ?

 いくらトランプ大統領がロシアとの関係改善や協調を語っても、まず米国はシリア内戦で政治的な影響力を回復し、さらに中東全体で政治的、軍事的にロシアと対抗する足場を再構築するように動くだろう。その意味では、トランプ新政権がシリア内戦をはじめとした中東問題で、ロシアと激しくしのぎをけずる展開もありうる。

 トランプ政権がロシアに対抗して中東での影響力の強化を手っ取り早く実現するため ・・・続きを読む
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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

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