メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

[2]核合意を破棄、イラン敵視の対テロ戦へ?

外交から軍事優先に後戻り。「最悪のシナリオ」の危機

川上泰徳 中東ジャーナリスト

エルサレムでイスラエルのトランプ陣営の集会が開かれ、支持を呼びかける幹部(中央)=10月26日、ジブ・ハレビ撮影拡大米大統領選期間中、エルサレムでトランプ陣営の集会が開かれ、幹部が支持を呼びかけた(中央)=2016年10月26日、ジブ・ハレビ撮影

 トランプ米大統領の就任演説は「米国第一」を唱える内向きの内容だったが、外交・安全保障では「イスラム過激派のテロの撲滅」を強調した。新政権の対外政策は「テロとの戦い」が軸となり、その意味では9・11米同時多発テロ以後のブッシュ政権がおこなった政策の再来となる可能性が強い。

 トランプ氏がみなす「イスラム過激派」は、過激派組織「イスラム国(IS)」だけではなく、イランを強く意識したものであり、選挙運動中は、オバマ政権で達成したイランとの「核合意」の破棄を繰り返し主張してきた。

 トランプ氏は昨年(2016年)8月の選挙演説の中で「テロとの戦い」について集中的に語ったことがある。「オバマ―クリントンの外交政策が中東を不安定化し、ISIS(イラク・シリア・イスラム国)を解き放った。さらに『米国に死を』と叫ぶイランを中東地域で支配的な地位とした」と、民主党政権のイラン対応を批判した。

 「テロとの戦い」の敵については「ISと、アルカイダ、さらにイランの資金援助を得ている(パレスチナの)ハマスと(レバノンのシーア派組織)ヒズボラ」と列挙した。「テロとの戦い」の味方については、「我々の偉大な同盟国であるイスラエルと、ヨルダンのアブドラ国王やエジプトのシーシ大統領と協力する」とした。

イラン敵視の政策に戻るのか

 安全保障に関するこのような見方はイスラエルと同じであり、外交経験もなく、国際問題に精通しているわけでもないトランプ氏の政策決定で、イスラエルを支援する人物または組織が強い影響力を持っていることが想像できる。そこから駐イスラエルの米大使館を現在のテルアビブから、「イスラエルの首都」としては国際的には承認されていないエルサレムに移転するという発想が出てくるのだろう。

 トランプ大統領は就任後、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、2月にネタニヤフ氏をホワイトハウスに招いて首脳会談を行うことが発表された。ネタニヤフ首相はトランプ就任演説の翌日1月21日、イラン国民に対して、英文でペルシャ語字幕付き、2分20秒のビデオメッセージを公表した。「私はトランプ大統領と、イスラエルの破壊を主張するイラン体制の脅威にどのように対抗するかを話し合う。しかし、イラン国民と体制は区別している。国民は宗教者体制に縛られている。私たち両国民は自由と平和のために一緒に働こう」と語った。

 ネタニヤフ首相は、トランプ政権の発足がイランの勢力拡張を止め、封じ込めに入る転回点になると考えているのだろう。トランプ氏はイランについて「核合意はイスラム過激派テロに対する第一の支援国家であるイランを核兵器保有に向かわせている」と批判してきた。

 さらにBBCによると、ジェイムズ・マティス国防長官は「イランこそ中東の安定と平和を脅かす最大の脅威」と避難してきた人物である。トランプ政権は、オバマ政権が進めたイランとの核合意や制裁緩和を破棄し、敵視する政策に戻るのだろうか。しかし、そうなれば、 ・・・続きを読む
(残り:約2656文字/本文:約3900文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

川上泰徳の新着記事

もっと見る