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連邦議会議事堂近くの緑地帯「ナショナル・モール」に集まった人々=ロイター拡大ワシントンの連邦議会議事堂近くで、トランプ氏の大統領就任を祝う人々=2017年1月20日、ロイター

8年前との相違

 2017年1月20日、アメリカのトランプ大統領が就任の日を迎えた。1年前には全くといって良いほど予測できなかった事態である。しかし、現実に彼は共和党の選挙戦を勝ち抜き、世論調査で常に先行していたヒラリー・クリントン氏を破り当選を果たした。

 当選直後の演説では落ち着いた振る舞いを見せてはいたが、その後の会見やTwitterでの言動を見ると、やはりアメリカの大統領としての資質に疑問符を持たざるを得ない。ワンマン経営者のテレビ向けのパフォーマンスであれば笑って済ませられても、現在は全世界が発言に注目し、就任式の様子が世界に同時中継される超大国のリーダーであることを、彼はどれほど意識しているのであろうか。

 私は2009年1月、当時ワシントンD.C.の大学に勤務していた折、オバマ大統領の就任式に招待された経験がある。そこには各国のメディアやアメリカ市民が集まり、音楽番組も就任式を特集するほどの盛り上がりを見せていた。式典で周りを見渡すと、私をはじめアジア系、ヒスパニック、黒人等のマイノリティの姿も目立ち、就任式に際して批判のデモを起こそうとする動きもなかった。狂信的な人種主義者によるテロの危険は語られていたものの、アメリカ社会全体がオバマ大統領の就任を受け入れていたように思う。

 その記憶と比べると、今回の就任式は白人の参加者が目立ち、当日に暴徒化したデモすら起きるなど、その状況は余りに隔たりが大きいものであった。ある意味、世界はそのギャップに嘆息し、自分たちがどこに向かうのかという不安の中にある。そこで、本稿では、そうした反発にもかかわらずトランプ氏を大統領に押し上げたものが何であり、それに基づいて動くアメリカに対し日本や韓国などの国々はどのような方針を取るべきなのかを検討していく。

ねじれた怒り

 トランプ大統領の選挙時での発言がそのまま実現するとは考え難いものの、彼を大統領に押し上げたものが、その言動だったことは明らかであろう。そこで、彼の発言の中でも、とりわけ注目を集める移民についての発言を手がかりとして、問題の所在を明らかにする。

 トランプ大統領のヒスパニック系移民に対する偏見の中で語られるメキシコとの国境に壁を作るという主張、あるいは、イスラム教徒をテロの危険が無くなるまで入国禁止にすることなどは代表的なものとして知られている。これらは国際社会において是非が語られるほどのことも無い発言であるが、それはアメリカ国内で一部の強い支持を生んだ。

 また、そうした発言から、アメリカに移民してきた知人たちは当然ヒラリー氏に投票したと筆者は考えていた。しかし、選挙結果を受けて、彼らに連絡をとってみると意外にもトランプ氏に投票した人が多く、驚かされた。彼らは ・・・続きを読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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