メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

[4]トランプの「第5の敵」はムスリム同胞団

政府に抑えられた民衆を敵に回すのか

川上泰徳 中東ジャーナリスト

カイロ東部ナスルシティーでデモを続けるムルシ氏支持者やムスリム同胞団員ら2013年8月拡大軍のクーデター後、エジプト・カイロ東部ナスルシティーでデモをするムスリム同胞団員たち=2013年8月

 トランプ大統領は就任演説で「イスラム過激派テロの根絶」を強調した。就任後にエジプトのシーシ大統領に電話し、テロとの戦いで共闘することを伝え、ワシントンに招き首脳会談を行うことを約束したという。シーシ氏は「アラブの春」後に民主的選挙で選ばれたイスラム系のムルシ大統領をクーデターで排除した時の軍総司令官。中東の主要国であるエジプトは親米国家であるが、オバマ大統領はシーシ氏をワシントンに迎えることはなかった。

 トランプ氏が選挙戦の中で「イスラム・テロ」根絶のため、過激派組織「『イスラム国(IS)』とアルカイダ、さらにイランの資金援助を得ている(パレスチナの)ハマスと(レバノンのシーア派組織)ヒズボラ」と4つの敵を名指ししたことは、前々回に書いた。

[2]核合意を破棄、イラン敵視の対テロ戦へ?――外交から軍事優先に後戻り。「最悪のシナリオ」の危機

 その4つの敵と戦う「協力者」として、エジプトのシーシ大統領の名前を挙げたところを見ると、米国が敵視する「第5の敵」が見えてくる。それは「アラブの春」の後、チュニジアやエジプトなどで民主化を担ったイスラム穏健派組織「ムスリム同胞団」である。

民主化を担ったムスリム同胞団

 ムスリム同胞団はエジプトで1928年に創設されたイスラム政治組織で、貧困対策、孤児支援などイスラム的慈善活動を行い、ほとんどのアラブ諸国で地元の組織を持つ。ヨルダンの主要野党勢力「イスラム行動戦線」も、パレスチナのイスラム組織「ハマス」も同胞団系組織である。

 2011年に始まった「アラブの春」で、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンでは強権体制が倒れた。その後民主的選挙が行われたが、チュニジアの議会選挙で第1党になった「ナハダ運動」や、エジプト議会で第1党になった「自由公正党」は、それぞれの国のムスリム同胞団が創設した政党だった。

 リビアでカダフィ体制が倒れた後の議会選挙で第2党になった「公正建設党」はリビアの同胞団系政党で、シリア内戦が始まった後に反体制組織が合流してできたシリア国民評議会の主力勢力も「シリア・ムスリム同胞団」だった。

 チュニジア、エジプト、リビア、シリアなどの同胞団はいずれも非合法化されていたが、オバマ政権はエジプトの同胞団やチュニジアのナハダ運動が民主的な選挙で勝利した後、同胞団を政治勢力として受け入れた。エジプトでは議会選挙の後、米国大使がムスリム同胞団の団長と会談した。

エジプトのクーデターで暗転

 エジプトでは2013年7月にシーシ国防相(現大統領)が率いる軍のクーデターが起こり、同胞団出身のムルシ大統領が排除された後、オバマ政権は1年8カ月間、軍事援助を凍結するなどの制裁的措置をとった。成立したシーシ政権は同胞団を「テロ組織」として弾圧し、米議会でも同胞団を「テロ組織」として指定する法案が出たが、オバマ政権は受け入れなかった。オバマ政権はIS対策のために援助を再開したが、シーシ政権による同胞団関係者を含む政府批判勢力の逮捕、弾圧を人権侵害として批判し、政治改革を求めた。

挫折した中東民主化構想 ・・・続きを読む
(残り:約1951文字/本文:約3244文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、最新刊に『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)。

川上泰徳の新着記事

もっと見る