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アパホテル問題でアベノミクスを破壊する排外主義

日中友好デモに対する在特会関係者の発言は国益を損ねる失点だ

五野井郁夫

 「わたしは、日本の平和を愛好する人民がこの歴史的教訓を汲み取り、日本が再度軍国主義化し再度対外侵略をするようなことを許さず、もって日本が再び過去および現在に比べより大きな災難を蒙るようなことを避けさせるであろうと信じています」(周恩来「日中関係に関する周恩来中国首相の大山郁夫教授に対する談話」、外務省アジア局中国課監修『日中関係基本資料集 1949-1969』霞山会、1970年、50頁)

 2月5日、外国人観光客で溢れる日曜午後の東京・新宿で、日本在住の中国人らが、南京大虐殺を否定する書籍を客室に置いているアパホテルに抗議するサイレント・デモを行った。約100人が参加したが、在日特権を許さない市民の会(在特会)の桜井誠前会長ら同デモに反対する者たちが「アパホテル前で南京デモを行う支那人に断固抗議を!」と呼びかけて並走した。そこではチベットやウイグルの人権問題を訴える声もわずかにあったが、残念なことにきわめて差別的な発言も数多く飛び交った。

 冒頭に引用した一節は、1953年、周恩来総理(当時)が政治学者の大山郁夫に対して述べたものである。「この歴史的教訓」とは、冒頭の引用箇所の直前にある「日本の軍国主義者の対外侵略の罪悪行為」を指す。日中関係の歴史とは、中国政府とその人民にとって建国当初から現在まで、最重要なテーマでありつづけており、今日でも日中両国の政府と市民による歩み寄りの努力が必要とされている。

飛び交った「不当な差別的言動」

 奇しくもこのデモの前日、法務省がヘイトスピーチ対策法の基本的な解釈をまとめ、同法で許されないとした「不当な差別的言動」の具体例を、要望があった23都道府県の約70自治体に提示したことが報じられた。具体例では「〇〇人は殺せ」といった脅迫的言動、ゴキブリなどの昆虫や動物に例える著しい侮辱、「町から出て行け」などの排除をあおる文言が当てはまるとし、また「〇〇人は日本を敵視している」などのように、差別的な主張の根拠を示す文言についても、排斥の意図が明確であれば該当するとの明示がなされた。

 今回のデモはサイレント・デモだったので日中友好を掲げる日本在住中国人の抗議者らは「平和を大切に」という横断幕や「日中友好」というカードを掲げて新宿中央公園から新宿2丁目のアパホテル付近までの2.5キロあまりの道のりを、50分ほどかけて黙々と歩きつづけた。それに並走して歩道で抗議した人びとからは、「中国に帰れ」「日本から出て行け」などの、法務省が具体例としてあげた「不当な差別的言動」に当たる発言が数多く飛び交い、デモに突入しようとした右派の抗議者がたびたび警察官に取り押さえられる事態となった。

 デモへの抗議者等に対して警察は指揮車から再三にわたって「不当な差別的言動をやめましょう」とヘイトスピーチ対策法に基づいた注意をしたものの、抗議者等の発言はおさまるどころか悪化していった。デモ解散場所の手前で警察にブロックされた抗議者らは中国人たちのデモであるにもかかわらず、なぜか「反日朝鮮人は、日本から出て行け!」という発言を繰り返した(映像1)。

【映像1】 撮影・五野井郁夫

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筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

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