メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

メディア不信の新時代に突入

丁寧な説明と対話が必要

津山恵子 ニューヨーク在住ジャーナリスト

 2017年1月20日、不動産王でテレビ番組ホストのドナルド・トランプ氏が、アメリカ合衆国大統領に就任した。この日、米国、世界だけでなく、メディア業界は、「地図にない(uncharted)」領域に突入した。トランプ氏が選挙戦中に植えつけた「メディア不信」の影響は、ニュースとの接し方を変えてしまった。「post truth」や「fake news」「alternative fact」と、メディアに挑戦をたたきつけるようなイディオムも、次々に登場している。市民は、どんな方法で、事実とフェイク・ニュースを見分けるのか。メディアは、どうしたら、真実を伝えていると市民に信頼されるようになれるのか、探ってみたい。

大統領報道官が「噓」の情報を流す

拡大ホワイトハウスで記者会見をするトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影
 大統領就任式の翌21日は、ホワイトハウス大統領報道官が、「嘘(うそ)」の情報を流すという前代未聞の事態で、「トランプ劇場」の幕が開けた。米メディアによると、その情報を発表するように強いたのは、大統領自身だ。Post Truthと言われた選挙結果で生まれた政権だけに、あまりに象徴的な出来事だ。

 事の経緯はこうだ。トランプ氏に反対する市民が集まった「ウィメンズ・マーチ」が就任式の翌21日、ワシントンほか全米各地で開かれた。ワシントンの目抜き通り、ペンシルベニア・アベニューは、前日の就任パレードの際は、空席や空間が目立った。ところが翌日は、そこを約50万人が行進し、人の波に埋め尽くされた。米紙ワシントン・ポストによると、 これをテレビの映像で見たトランプ大統領は、激怒した。ショーン・スパイシー大統領報道官が難色を示したが、大統領就任式に「過去最高」の参加者がいたという「嘘」の声明を記者会見室の報道陣の前で読み上げさせた。大統領の側近も、「(参加者の人数など)政治とは関係ない」という理由で声明に反対したが、大統領を止められる者がいなかったという。

 なぜ「嘘」だったかというと、過去最高の参加者を得たのは、2009年のバラク・オバマ氏の就任式で、約180万人だった。しかし、トランプ氏のそれは、約30万人に止まった。その違いを分かりやすく示そうと、米メディアは、就任宣誓を行う連邦議会議事堂の正面に広がるナショナル・モール公園の混雑具合について、09年と今年を比較するロイター通信の写真を流した。09年は、公園を人が埋め尽くしているが、今年は、空間がかなり目立つ。

 その写真への反応が、まさにPost Truth時代におけるメディア消費の特徴を示した。トランプ氏の支持者とみられるユーザーがツイッターなどで、写真は「主要メディアがフォトショップしたもの」「今年の写真は、人がまだ集まっていない早朝に撮影したもの」と批判し始めたからだ。トランプ大統領自身も「100万から150万人はいた」とスピーチで話している。

 主要メディアは、瞬く間に、写真の信ぴょう性を証明するための記事を流し始めた。USAトゥデーは、ワシントン首都交通局の1時間ごとのデータなどを使った「ファクトチェック:トランプ氏就任式、群衆のサイズをめぐる論争」という記事を掲載した。また、ロイター通信の写真デスク、ジム・ブルグ氏は、フェイスブックでこう説明した。

 「群衆の写真について、多くの不正確な議論や主張が見られるが、それらは『事実』から出たものではない。今年撮影した写真は、カメラマン、ルーカス・ジャクソンが(大統領が就任宣誓をする)午後0時01分18秒に撮影し、多くの人が主張する早い時間ではない」

「事実」であることの説明を強いられるメディア

 Post Truthだ、fake newsだと騒ぐ前であれば、通信社や新聞社、テレビ局が報道した映像や事実が、「嘘だ」と疑われ、それをメディア側が弁護しなければならないことはなかったはずだ。しかし、今やメディアは、「私たちが報道していることは、事実だ」と、いちいち説明しなくてはならない。これが、トランプ大統領が選挙戦を通して、作り上げた、「メディア不信」の新時代だ。

 筆者は、取材したトランプ氏の集会で毎回、以下のシーンを見てゾッとした。トランプ氏が舞台から、 ・・・続きを読む
(残り:約1838文字/本文:約3561文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

津山恵子

津山恵子(つやま・けいこ) ニューヨーク在住ジャーナリスト

「アエラ」「ハフィントン・ポスト」などに執筆。2016年大統領選挙では、中西部・南西部をロードトリップし、トランプ支持者の姿を追った。「アエラ」においては、Facebook最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏を単独インタビューした。「論座」では、環境活動家レスター・ブラウン氏のインタビューを執筆したことがある。元共同通信社記者。