問題はPKO日報だけではない。「文書を捨てる組織」のあり方が根底から問われている
2017年03月06日
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されている陸上自衛隊の日報をめぐる問題は、さまざまな課題を提起している。
ジャーナリストの布施祐仁さんが、防衛省に対して2016年7月11、12日分の日報を情報公開請求したのは、9月のこと。12月初めに不存在決定がされ、それを同月14日に神奈川新聞が報じている。
その後、自民党行政改革推進本部が日報の管理の改善を求め、また河野太郎衆議院議員が、廃棄した日報について、防衛省に対し「電子データを復活させて提出するよう求め」(12月28日「南スーダンPKO日報廃棄問題 防衛省が改善策」神奈川新聞)ていた。そして、2月6日に防衛省から河野議員に日報があったことが報告され、それがSNSで拡散されたことで、問題の所在が鮮明になった。
この問題は、仮に自民党行政改革推進本部や河野議員が日報の不存在を問題にしなければ、事実は明らかにならなかったのではないだろうか。野党ではなく、与党が動いたことで、結果的に問題の本質が明らかなったことは否定できないし、ある意味、今回は「幸運」だった。いつもなら、廃棄して不存在と決定されると、「日報のような重要な文書がないのはおかしい」とは言えても、その存在を認めさせるのは容易ではないからだ。
公文書管理法は、文書の保存期間を、文書の種類や内容に応じて1年未満、1年、3年、5年、10年、30年とするとしている。このうち、1年以上の保存期間となる行政文書は、「行政文書ファイル管理簿」に記録されて公表されるとともに、廃棄した場合もこの管理簿に記録される仕組みになっている。また、1年以上の場合は、廃棄にあたり内閣総理大臣の同意が必要であり、実際には内閣府公文書管理課が審査を行っている。
1年以上の保存期間文書は、明確な管理の対象となる一方で、1年未満の保存文書はそうなっていない。管理簿に記録されることもないので、廃棄されたか否かを客観的に確認する方法がない。
そのため、1年未満の保存期間と規則上され、情報公開請求を受けて探した範囲が特に不当とは言えず、行政機関の説明に矛盾がなければ、存否を争ってもまず請求者側は勝てない。不存在という行政機関の判断が通ってしまうのが現状だ。PKO日報のように重要であると言えそうな文書であっても、「重要だ」ということだけでは存在することの証明にはならないからだ。
少し視点を変えてみると、本来、1年未満の保存期間文書とは軽微なものでないとおかしい。だから、公文書管理法での管理を要しない文書となっているというべきだが、日報問題といい、その後の森友学園への国有地売却問題での交渉経過文書が、1年未満保存文書であるとしてすでに廃棄とされたことといい、1年未満という保存期間の区分が、行政にとって都合のよいものとして使われているといわざるを得ない。
結局、今は1年未満保存という区分は、都合のいいブラックボックスになっている。これは単に制度の問題だけでなく、組織のあり方や組織で培ってきた文化の問題でもある。
PKO日報は、陸上自衛隊の「指揮システム」にある掲示板にアップロードされて、掲示板へのアクセス権限があれば誰でもダウンロードできるものだったことがわかっている。ここから日報の電子データを統合幕僚監部がダウンロードしており、今回見つかったのはこの統幕で保管していた日報だ。
この日報は、南スーダンに派遣されている陸自のものなので、陸自の作成している情報ということになるだろう。行政文書の保存期間は、本来は、陸自として文書に設定されるものだ。
そうすると、陸自に本当に日報がないのかは外から確認のしようがないが、日報がないならば、原本を持っているべき陸自は、短期間で予定通り粛々と日報を廃棄(削除)していたことになる。統幕で保存されていたのは、日報という文書の性質上、統幕が必要だったからに過ぎないので、単なる偶然ともいえる(もっとも、統幕に南スーダン派遣以降の5年分の日報が残っていたようであるので、この件に関しては偶然とは言い難い)。
この状況が示しているのは、そもそも日報とは一体何なのかという根本的な問題だ。
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