メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

[5]世界に広がる保守革命の動き

路上で直接民主主義から問い直そう

石田英敬 東京大学教授

注)この立憲デモクラシー講座の原稿は、2016年6月3日に立教大学で行われたものをベースに、講演者が加筆修正したものです。

立憲デモクラシーの会ホームページ

http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/

拡大講演する石英敬教授

上からのファシズムと下からのファシズムが出合う保守革命

 で、これからどうすべきなのか。こうしたメディアの地殻変動と政治の世界の動きも連動しますので、これまでのメディア基盤で主張していた政治家たちが、新しいメディアで醸成されてくる政治の主張を取り入れようとする新しい政治家たちに、追い落とされるということが起こります。これが保守勢力の中での保守革命です。

 「新しい保守」あるいは「非伝統的保守」と呼ばれる人たちが、ネットのポピュリズムとシンクロしやすいようなテーマに対応していくことをもっとも盛んにやっている。例えば日本でも、安倍第二期政権にいたる過程で、「安倍ちゃんはネットに強いよね」といったところがありましたね。ニコ動に出たりとかですね。そういうことをやっている政治家が安倍首相なので、下からのファシズムに、上からのおぼっちゃまのファシズムがネトウヨのファシズムを迎えに行くという、上からのファシズムと下からのファシズムが出合うという、コンビネーションが起こっている。これが安倍のメディア政治だと、私は思います。これがネット時代の保守革命です。これはいま勢いづいている世界の潮流で、たとえば安倍がダメになれば同じ回路からもっと悪いのが出てくる可能性さえあります。

 それは日本だけで起こっているエキゾチックな光景ではなくて、世界中で起こっています。フランスの「国民戦線」のマリーヌ・ルペンもそうだし。アメリカだと「オルト・ライト」(「オルタナティブ・ライト」の略)と呼ばれるひとたちが、極右のサイトを創設して、トランプの進出を後押ししてきたということがありましたね。そういういろいろな人たちが、下からのファシズムと呼応する保守革命を先導しようとしているというのが、いまの世界の政治状況だと思いませんか? 思いますよね(笑)。

 そして、それらの勢力がじっさいに政治権力を奪取し始めた。イギリスのブレグジッド(EU離脱)、アメリカの大統領選挙と続き、2017年のフランス大統領選挙で極右の「国民戦線」が勝つなどとなれば、もう世界はまったくちがった地図のなかに入ることになってしまいます。ほんとうに大変な時代になってきました。

 こんなことは20世紀の前半のファシズムの台頭の時代以来なかったことです。とくに、繰り返しになりますが、私のようなメディア研究者からみると、映画やレコードやラジオといった新しいメディアを基盤に台頭してきたファシズムと、ネットを基盤に勢いをましてきた新しいポピュリズムがほぼ一世紀をへて、歴史を繰り返しているように見えてしまいます。

 ナチスの宣伝相のゲッペルスは「嘘も百回繰り返せば真実になる」と言ったとされています(正確には、チャーチルのイギリスを指してのゲッペルスの言葉が単純化されて伝えられ記憶されたもの)。ヒトラーは『わが闘争』のなかで、ユダヤ人排撃にかこつけて「嘘が大きければ信じてもらえる一定の要素がつねに存在するというまったく正しい原則」があると述べています。そして、いま「ポスト真実」ということが言われ、じっさいに自分たちの嘘をはばかりなく「オルタナティブ・ファクト」などといって、公然と既存のニュース・メディアを攻撃する攻撃的な政治がアメリカのような民主主義国にまで登場してきたのです。まったく同じような状況が、現実の政治として再び姿を現してきているわけです。

 それで、このような時代の動きとどう向き合いどう闘うか。この映像はカリフォルニアの空に書かれた「Tramp is disgusting」という飛行雲のキャンペーンですが、トランプと闘うためにチャーターし、飛行機雲で「Tramp is disgusting」と描いてくれた人がいる(笑)。そういうようなことをやったけれど結局トランプになってしまった。

 これから我々はどうすべきかという問いに、答えられないという状況は打開しないといけません。

消費社会を突き抜けるポピュラーカルチャー

拡大講演する石田英敬教授
 フランスでは昨年春、「Nuit Debout」、「夜、立ち上がれ」という運動が盛んに起こっています。日本も一昨年の安保関連法案の反対の運動以来そうですが、路上で直接民主主義から問い直そうという動きが非常に盛んになってきている。

 一方ではいまいったように保守革命が起こってきていますが、同時に路上も盛んになってきたので、まだ希望があると思います。特に若い人たちが2015年から2016年8月まで活動したSEALDsみたいに、どっぷりと浸かった消費社会の中から自分たちのポピュラーカルチャーというものを取り返す、とらえ返すという、すごいことをやってくれたことがあるわけです。これは消費社会を突き抜けるポピュラーカルチャーというものが登場してきたということであって、こういう動きが進んでいくと、状況は変わっていくと思います。

新しい群集とネット環境

 トランプの大統領就任式の翌日にはアメリカでは巨大なウィメンズ・マーチのデモが出たことも皆さんご存じのとおりです。

 ある意味では、路上でデモに出るしかないというほどに追い詰められているということではありますが、もう一度、まず草の根から民主主義を取り戻そう、作り直そうという動きも盛んだということですね。

 じっさい、昨年末、私はソウルに学会で出張していましたが、ソウルでは朴大統領のスキャンダルが明るみに出て以来巨大なデモが出るようになって、170万人の人たちが街頭に出る光景を目の当たりにしました。ここ数年の世界の動きをみると新しいタイプの群衆がかつてない規模で集まってデモをおこなうという現象が広がっています。このことにも注目する必要があります。じつは19世紀末から20世紀初頭にも ・・・続きを読む
(残り:約5876文字/本文:約8371文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

石田英敬

石田英敬(いしだ・ひでたか) 東京大学教授

東京大学教授。同大学院情報学環・学環長、東京大学附属図書館副館長など歴任、2012年より同大学院総合文化研究科教授・同情報学環教授(兼担)、その間、パリ第7大学、パリ第8大学客員教授、パリ哲学コレージュ・プログラムディレクターなども務める。 専門は、記号学、メディア論。とくに19世紀以後のメディア・テクノロジーの発達と人間文明との関係を研究するメディア記号論の分野で日本を代表する研究者。情報技術を活用した人文学的研究としてテレビ記号論や情報記号論の研究展開を主導してきた。近年は人文知の閉塞状況を批判しメディア時代に応えうる新しい人文学として「新しい〈記号の学〉」を提唱している。 主な著書に『現代思想の教科書』(筑摩書房)、『大人のためのメディア論講義』(筑摩書房)、主な編著書に、『デジタル・スタディーズ』全3巻(東京大学出版会)、『ミシェル・フーコー思考集成』 全10巻(筑摩書房)、『フーコー・コレクション』全6巻(筑摩書房)など、他多数。時事的なメディア問題に関しても、新聞、総合誌、テレビなどで多数の発言を行っている。

石田英敬の新着記事

もっと見る