メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

自称「神道小学校」瑞穂の國記念小學院の謎を解く

「日本初」国家神道モデルの教育施設がもたらす衝撃波

小林正弥 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

森友学園への売却地では4月に開校予定の小学校が建設されている=7日、大阪府豊中市拡大森友学園への売却地で建設中の「瑞穂の國記念小學院」=大阪府豊中市

森友学園をめぐる疑惑

 森友学園の問題が国会やメディアで追及され、政治的な大論点になりつつある。その焦点となっている「瑞穂の國記念小學院」(平成29年4月開校予定、大阪府豊中市)は、そのサイトで「日本で初めてで唯一の神道の小学校」とされている。何ゆえにここに政治的大問題が起こるのだろうか?

 拙著『神社と政治』(角川新書、2016年)で説明したように、神道には多様な考え方があり、政治との間にも様々なかかわり方がある。だから神道を理念としているからといって必ずしもこのような問題が起こるとは限らない。結論から言うと、この小学校が戦前の国家神道をモデルとしているからこそ、なのだ。

 まずは森友学園が、評価額(9億5600万円)のおよそ10分の1という安値(1億3400万円)でこの用地を購入したことが問題化した。当初はなぜかこの件だけ金額非開示になっていた。しかも10年間の分割払いで、その後に校舎・体育館の木造化による補助金6200万円が国交省から出されることが決まり、土壌汚染や埋設物撤去費用が国から1億3200万円払われることになったので、結果的には200万円だけで土地を取得することになったという。ただ同然と言われるゆえんである。

 ここには政治的な力が働いているのではないかという疑惑が浮上した。安倍晋三首相の昭恵夫人が名誉校長となっており(2月24日に辞任したことを首相が表明)、「安倍晋三記念小学校」として寄付金を一時は募っていたことが明るみに出た。

 籠池泰典理事長は安倍氏とも面識があり総裁選に出馬する前にはこの名称に内諾を得ていたと述べていたのに対し、安倍首相は個人的関係や内諾の事実を否定し、国有地売却への夫婦の関与を否定している。ただ財務省の理財局長は担当者が売却前に理事長と面会していたことを認めたので、財務省の関与が明確になった。

 学校の認可については大阪府私学審議会でなお審議中だが、この学園だけの要請に基づき大阪府(維新・松井一郎知事)が2012年の4月に私立小学校の認可要件を緩和して道を開いたことが明らかになった。

 誰か政治家が関与していたら、巨大な疑獄事件に発展する可能性がある。ロッキード事件は田中角栄首相への5億円の資金提供問題だったのだから、この規模は深刻だ。しかも8億円余りの割引がなされたのは土地の地下のゴミ処理費用のためとされていたが、学園側はその費用は1億円くらいと証言しており、実際にはきちんと処理していなかったのではないかという疑惑も浮上して、豊中市が廃棄物処理法に基づき現地調査を実施した。

今日の政治的大問題が凝縮

教育勅語を唱和する園児たち拡大教育勅語を唱和する塚本幼稚園の園児たち=2006年
 この学園が経営する塚本幼稚園(大阪市)は毎朝の朝礼で教育勅語を朗唱し、五箇条の御誓文を暗唱させ、君が代を斉唱し、年長組は伊勢神宮参拝・宿泊をする。

 海上自衛隊の行事に園児が頻繁に参加しているので、籠池理事長には稲田朋美防衛相が「防衛大臣感謝状」を贈っており(2016年10月22日)、稲田大臣は感謝状の取り消しを検討する考えを示した(2017年2月23日)。

 安倍夫人も講演では教育方針について「大変、主人も素晴らしいと思っている」と語っていたし、安倍首相も確かに当初は理事長について「いわば私の考え方に非常に共鳴している方」「妻から(籠池)先生の教育に対する熱意は素晴らしいと聞いている」(衆院予算委員会、2月17日)と述べていた。

 この幼稚園は「よこしまな考え方を持った在日韓国人・支那人」という文書を保護者に配ったとされている。また子供が職員から「犬臭い」と言われたり、強制的に退園させられたりしたという理由で、元園児の保護者たちが学園側を提訴している。

 園児が2015年秋の運動会の選手宣誓で「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心改め、歴史教科書でうそを教えないように、お願いします。安倍首相がんばれ、安倍首相がんばれ。安保法制国家通過よかったです」と言っているビデオが明らかになり、テレビでも放映されて多くの人々に衝撃を与えた。このような教育は教育基本法や憲法に違反しているという批判や、幼児虐待という疑惑すらも現れている。

 このように、政治的便宜供与、右派的教育、ヘイトスピーチ、安保法はじめ日本の軍事化といった今日の政治的大問題がここに凝縮して現れている。

 理事長の籠池泰典氏の経歴はさほど明らかになっていないが、教師をはじめ教育者の経歴は知られておらず、主として学校経営者であるという。他方で日本会議大阪の運営委員であり、「園長の部屋」というコラムを見ても右派的な政治的主張がストレートになされている。「安倍晋三内閣総理大臣のように身近な人をモデルにし、偉人を手本にすることです」(平成28年1学期)として「教育勅語的精神に基づく教育」を記念小学校開校の理念としている(平成26年2学期)。改憲署名の署名活動も保護者向けに行われていたという。

 森友学園の教育には、この理事長など経営陣の右派的思想が大きな影響を与えていることは疑いない。それでは神道を理念として掲げている小学校だから、このような問題が生じたのだろうか?

神道小学校というよりも国家神道小学校 ・・・続きを読む
(残り:約2612文字/本文:約4829文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

小林正弥の新着記事

もっと見る