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トランプ米政権の動きを注視する中国

日本を取り巻く情勢は「開戦前夜」とも言える様相を呈してきている

近藤大介 講談社『週刊現代』特別編集委員

習近平政権は「船」、トランプ政権は「海水」

全人代の開幕日、人民大会堂から退席する際に言葉を交わす習近平国家主席(左)と李克強首相=3月5日、中国・北京拡大全人代の開幕日、人民大会堂から退席する際に言葉を交わす習近平国家主席(左)と李克強首相=3月5日、中国・北京

 3月5日から、中国で全国人民代表大会(国会)が始まった。今年後半に行われる共産党大会まで、中国の長い政治の季節の到来である。

 習近平政権にとって、5年に一度の党大会の年は、本来なら内政に集中したいところだ。EU28ヵ国の2倍以上の国土と、人口を擁する中国を率いる習近平主席の面前には、幹部人事から経済問題まで難問山積だからだ。

 ところが今年に限っては、内政に集中とばかりは言っていられない。この先、中国を揺るがしかねない巨大なハリケーンが、太平洋の向こうに発生したからだ。ドナルド・トランプ政権の発足である。

 私が昨年11月、トランプ候補の大統領選勝利を受けて、北京を訪問した時、「中南海」の人々は歓迎ムードだった。ある外交関係者は、「中国百年不遇的大機会」(中国にとって百年に一度の大きなチャンス)と述べていた。その根拠は、以下の通りである。

 ① 中国が「経済的中国包囲網」と捉えているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱してくれる。

 ② 自由・民主・人権といった中国とは相いれない理念よりも実利を重んじる「商人大統領」である。

 ③ オバマ前政権以上に「内向き志向」の政権となるため、アジアは中国のフリーハンドになる。

 ④ トランプ大統領誕生でアメリカの混乱と自壊が始まり、それは世界ナンバー2の中国の地位を相対的に押し上げる。

 それから3ヵ月余り経過して、今年2月下旬に来日した旧知の中国共産党関係者に、習近平政権のいまの「トランプ大統領観」について問うてみた。すると、やや黙考した後で、「水能載舟、亦能覆舟」と、中国の古い諺(ことわざ)を口にした。「海水は船を進ませもするが、ひっくり返しもする」――習近平政権が船で、トランプ政権が海水というわけだ。「百年に一度のチャンス」からいく分、後退していた。

中国の嫉妬心をあおるための「ディール」だった?

米連邦議会で演説をするトランプ大統領=2月28日、ワシントン、ランハム裕子撮影拡大米連邦議会で演説をするトランプ大統領=2月28日、ワシントン、ランハム裕子撮影

 その間、トランプ大統領は、まだ就任前の12月2日、中国に向けて最初のジャブを放った。台湾の蔡英文総統の大統領選勝利を祝福する電話を受けたのだ。続いて同月11日には、FOXテレビのインタビューで、「『一つの中国』を認めるかどうかは中国次第だ」と発言した。

 さらに、アジアで唯一、習近平政権に対して対抗意識を燃やす日本の安倍政権を優遇してみせた。安倍首相は昨年11月17日、トランプ氏が大統領選勝利後に最初に握手した外国首脳となった。さらに大統領就任後、2月10日から12日まで、トランプ大統領のフロリダの別荘に招待され、27ホールもゴルフを共にするという厚遇を受けた。

 「いまにして思えば、こうしたトランプ大統領の台湾及び日本への優遇は、『アジアの本命』であるわが国の嫉妬心を煽るための『ディール』だったのさ」

 前出の中国共産党関係者は、こうささやいた。ビジネスの世界でよくあるように、本命の会社と交渉する前に、その会社のライバル会社の門をまず叩いて、本命の会社の気を引くのが「トランプ戦術」というわけだ。

米中間のトゲとなっている交渉が進展する機運

 米中の関係について、一つ興味深いことがある。それは、米中間の経済貿易関係のトゲになっているBIT(米中投資協定)交渉が進展する気運が出てきたことである。

 BIT交渉は、ブッシュJr.時代末期の2008年から、先の大統領選直前の昨年11月初旬まで、計31回も交渉しているが、いまだ平行線のままである。途中からネガティブ・リスト方式に、交渉の仕方を変えたが、それでも動かない。

 なぜ膠(こう)着状態にあるかと言えば、簡述すると、アメリカ市場については、アメリカ政府が中国企業を、「中国共産党や人民解放軍と密接な関係がある」とみなして、先端技術分野などへの投資を認めないからである。

 一方、中国市場については、中国政府が、第一に中国の国有企業、第二に中国の民営企業、第三に外資系企業という優先順位をつけて、外資に「カベ」を築いているからである。

 ところがトランプ大統領は、理念よりも雇用優先主義なので、中国企業の投資規制を緩和する可能性がある。同時に、この4年間、進捗(しんちょく)がはかばかしくなかった中国国内の国有企業改革も、トランプ政権誕生によって、一気呵成(かせい)に進む可能性が出てきたのである。昨年末、習近平政権は31の地方自治体に、国有企業改革のプランを至急出すよう迫ったからだ。

 国有企業改革は、減速する中国経済がこの先、復活できるかどうかの最重要ポイントである。それがアメリカとのBIT交渉の進捗に引きつられるように、進捗するかもしれないのだ。いずれにしてもBIT交渉は、今後の注目点である。

中国が本当に恐れたのは「米ロ蜜月」

 米中関係について、中国のホンネを言えば、本当に恐れたのは、「米台蜜月」や「日米蜜月」ではなく、「米ロ蜜月」、すなわちトランプ大統領とプーチン大統領が早期に首脳会談を行うことだった。

 中国には前世紀の1972年に、「前科」がある。世界がアッと驚く米中和解を演出し、ニクソン大統領が訪中した、いわゆる「ニクソン・ショック」である。

 当時、米中和解に一番ショックを受けたのは、社会主義陣営での中国の「兄貴分」ソ連だった。1991年のソ連崩壊の遠因には、この米中和解があったという見方もあるほどだ。

 そのため、中国としては早期の米ロ和解だけは避けたかった。もしそれが、どうしても避けられないのであれば、せめてプーチン大統領が訪米する以前に、習近平主席が多少無理してでも訪米する――そんなシナリオを中国は描いていた。

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筆者

近藤大介

近藤大介(こんどう・だいすけ) 講談社『週刊現代』特別編集委員

1965年生まれ。東京大学教育学部卒業後、講談社に入社。95年から96年まで北京大学留学。2009年から12年まで講談社(北京)文化有限公司副社長。11年以降、中国最大の経済紙「経済観察報」と、中国最大のニュース週刊誌「看天下」にそれぞれ連載コラムを持つ。著書に『「中国模式」の衝撃 チャイニーズ・スタンダードを読み解く』(平凡社新書)、『対中戦略無益な戦争を回避するために』(講談社)、『パックス・チャイナ 中華帝国の野望』(講談社現代新書)、新著に『活中論 巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』(講談社)。