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日本が学ぶべきスウェーデンの非攻撃的防衛戦略

女性も対象に徴兵制を復活、武装中立主義を貫く

児玉克哉 社会貢献推進国際機構理事長、インドSSI大学国際平和創造研究センター所長

 スウェーデンほど平和主義国としてのイメージを内外に徹底しえた国は少ない。ヨーロッパの北の端の小国でありながら、国連への積極的な取り組み、非同盟中立運動への参加、 核廃絶運動の推進、積極的な対外援助、ストックホルム国際平和研究所の設立など、世界へのアピール度は高い。また、ノーベル平和賞受賞者アルバ・ミュルダール女史や、凶弾に倒れたオロフ・パルメ首相などは、国際的なオピニオン・リーダーとして「平和主義国スウェーデン」のイメージを世界に広めた。しかし、スウェーデンは徴兵制や民間防衛にみられるように、一般国民が参加の防衛を計画してきた国である。

 ただ2010年に徴兵制は廃止されたものの、スウェーデンの人口は1000万に満たない小国であり、兵士の確保が難しくなっていた。ロシア・プーチン大統領の攻撃的な外交・軍事戦略などもあり北欧にも緊張感が漂ってきた。2014年のロシアによるウクライナ領クリミアの併合はスウェーデンに衝撃であった。こうしたことから徴兵制が復活することになったのだ。人口の少ない工業国スウェーデンは、志願兵だけで防衛政策を作るのが難しいのである。

ハリネズミ防衛戦略

 徴兵制に国民からの大きな異論なく一般兵役義務、民防義務に服してきた国である。非同盟中立の立場をとりつつ防衛のための強力な軍隊・兵器を組織している武装の国家だ。軍事予算がGDPに占める割合はかなり落ちてきたが、それでも小国としてはかなりの軍事力を保有しており、日本人の平和国イメージとは異なっている。「こちらからは攻撃しないが、攻撃者には手痛い目に合わせる」というハリネズミ防衛戦略をとっている。これは非攻撃的防衛戦略とも称されるもので、軍事的視点から攻撃力を極力抑える防衛戦略である。日本の専守防衛とは似ているが、かなり違う発想だ。かつての日本では非武装中立をうたう政党もあったが、スウェーデンは、武装中立(非同盟)主義である。これは永世中立国スイスにも当てはまり、民間防衛も含めた武装防衛戦略がある。

 日本を取り巻く国際環境もきな臭くなってきている。日本の今後の防衛のあり方を考える上でもスウェーデンの非攻撃的防衛戦略は大いに参考になると考えられる。概観してみよう。

 スウェーデンの中立主義や非核政策を強調すると、スウェーデンには軍隊が存在しないか、また存在してもとるに足らないほどの脆弱なものであろうと誤解されがちである。しかし、二つの世界大戦で、直接には戦争に参加しなかったものの、隣国の惨劇を垣間見たスウェーデンは、防衛に熱心に取り組んできており、国民にも一般兵役義務や民防義務を課し、軍事費も決して少なくない。スウェーデンの「理想主義」は合理的現実主義に基づいている。

近代的な軍装備を保有

 コンピューター・テクノロジーを始めとして多くの分野で先端技術を有するスウェーデンは、最新鋭の兵器、軍艦、軍事用車両、航空機などの量産を行い、他の西欧諸国と比較しても引けを取らないほどの近代的な軍装備を保有している。スウェーデンが内外に明言している戦時における非同盟・中立の立場は、周辺国から畏敬の念を持って尊重されるべきものではあるが、これは国際条約や規約によって保障されているものではない。中立の立場を戦時の非常時にも、軍事力を含めた「総合的防衛政策」によって守って行こうというのが、スウェーデンの基本的な防衛方針である。非武装中立という発想ではなく、武装中立路線なのだ。

 だが、この「武装防衛」には厳しい北欧の国際政治に裏打ちされた独特の現実主義と平和主義が入り込んでいる。

 スウェーデンの防衛政策は非挑発的防衛とか非攻撃的防衛と呼ばれるものだ。この非挑発(攻撃)的防衛とは、一言でいうならば、 精密な対空防御システム、反撃ネットワークの形成、対戦車兵器の装備などによって、防御のみに徹し、仮想敵国を決して挑発させたり、脅かしたりすることのない軍事防衛のことである。つまり、ハイレベル・テクノロジーなどの駆使によるハード面の発展 や民間防衛システムの整備などによるソフト面の充実によって、防御力を飛躍的に革(あらた)める一方で、相手を挑発しうる攻撃力のある兵器や軍事システムは徹底的に排除して行く試みだ。

 この理論の実践国であるスウェーデンの防衛政策を考察してみる。

A) 徴兵制
 スウェーデンの国防軍は、想像するよりもはるかに強大である。まず今回、話題となった徴兵制度がある。日本では徴兵制度=軍事化というイメージが定着しており、平和主義と徴兵制とは相いれないものである。以前は基本的に男性が対象であったが、今回の徴兵制の復活では、女性も「平等」に対象となっている。これも驚きだ。AFP通信などによると「1999年以降に生まれた18歳の男女の国民からアンケートの回答に基づいて1万3千人を選び、その中から毎年4千人に11カ月間の兵役を課す」という。

 スウェーデンでは、信仰などの理由で軍務に就くことを拒否することは可能だ。良心的兵役拒否制度と呼ばれるもので、兵役の代わりに、その他の公務(例えば病院での奉仕活動)に就くことができる。

徴兵制により「攻撃に強い」国民性を築く

 スウェーデンでは徴兵制によって、国民が防衛に関心を持ち、「攻撃に強い」国民性を築くことも、非攻撃的防衛において重要な要素と考えられている。職業軍人、つまりプロに任せっきりになることは、国民全体の「防衛力」「抵抗力」を下げることになるし、職業軍人が勝手に行動するリスクを高めることにもなる。軍のシビリアンコントロールにおいては国民全体が関わることも意味がある。

B) 非攻撃的防衛
 軍事費もかなりある。最近、スウェーデンの軍事費は減少傾向にあるが、それでも軍事費はGDPの1~2%で、他の西欧諸国なみに高い。しかし、ここで強調されるべき点は、スウェーデンの安全保障政策は防御を主体に計画されており、非攻撃的であることだ。

 第一に、先述のように、スウェーデンは厳格な非核政策をとり、化学兵器に対しても生物兵器に対してもはっきりとした反対の態度を表明している。隣国に決して脅威を与えないように軍備が配置され、軍隊も仮想敵国に攻撃された時に備えた防衛演習に徹底している。言い換えるならば、スウェーデンの安全保障政策は、徴兵制や比較的に大きい軍事費と世界でもトップクラスの軍事技術力にもかかわらず、すぐれて非攻撃的・挑発的なのだ。

 日本の自衛隊も一見、「専守防衛」のもと防衛のみに徹して、非攻撃的のようにみえるが、 ・・・続きを読む
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筆者

児玉克哉

児玉克哉(こだま・かつや) 社会貢献推進国際機構理事長、インドSSI大学国際平和創造研究センター所長

三重大学副学長・人文学部教授などを歴任し現職。専門は国際平和論、市民社会論、NGO論など。国際平和研究学会の現事務局長でもあり、世界の平和研究の中核を担っている。グローバルな視点から社会科学の発展に寄与している。核兵器廃絶へ向けた「ヒロシマ・ナガサキプロセス」を提案し、世界的な運動を繰り広げている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。

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