メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

[1]辺野古争訟から見た立憲地方自治

より緩やかな関与手段を尽くさず代執行訴訟に及んだ国

白藤博行 専修大学法学部長・教授

注)この立憲デモクラシー講座の原稿は、2016年10月21日に立教大学で行われたものをベースに、講演者が加筆修正したものです。

立憲デモクラシーの会ホームページ

http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/

拡大講演する白藤博行教授
 

 専修大学の白藤です。きょうは1時間ほどお話しさせていただきます。まず、なぜこういう話をする機会を得たかという点ですが、私は昨年から「辺野古訴訟支援研究会」のメンバーとして、沖縄県の弁護団と一緒に活動してきました。弁護士さんの中でも行政法を得意とする人は少ないものですから、研究者も手助けしようというのが設置の趣旨です。正規のメンバー13人ですが、弁護団に行政法理論の側面で協力をしてきました。その結果、かなり深く関わることになってしまったわけです。

 きょうは「辺野古争訟から考える立憲地方自治」というテーマでお話をさせていただきます。ここが立憲デモクラシーの会だから「立憲地方自治」というふうに言ったわけではなくて、すでに2008年、ある学会で報告をしたときに、「立憲地方自治」をテーマに報告をしております。きょうは、それを辺野古訴訟と関係づけてお話をするということです。基本的にレジュメに沿っていきたいと思いますが、時間の関係もあり、あちこち話が飛ぶことをお許しください。

 最初に、「辺野古争訟から考える立憲地方自治」と書いてありますが、この「争訟」というのは、行政事件訴訟法に基づく行政事件訴訟のほか、行政不服審査法上の審査請求などの行政上の不服申立てを含むという意味です。

 また辺野古争訟から見た、あるいは考える立憲地方自治ということで、最初にこの訴訟の概要が書いてあります。これもできるだけ皆さんが、あとで検証しやすいように、詳しく書いています。時間がございませんので、この点について簡単にお話ししたいと思います。

 辺野古新基地建設に関しては以前からあれこれと問題が続いていたところなんですが、今回、直接のきっかけになったのは、仲井眞前知事が「埋め立てしてもいいよ」と埋立承認をした。それに対して、翁長現知事が検証の結果、何だか変なやり方をしている、法律的な瑕疵があるというので、2015年10月13日に取り消してしまいました。どんな状況だったかというのは、皆さん、大体の報道で聞いたことがあるかもしれませんが、こんな状況だったんですね。ただ、仲井眞前知事も、辺野古新基地建設については、「自分は反対だ」というので選挙も勝ち抜いてきた方ですし、政策的にもずっとその通りやってきた方なんですね。

仲井眞前知事が一転、埋め立てを承認

 ところが2013年12月25日に安倍総理と面談するんですが、面談後の最後のコメントで、「概算要求を上回る予算をつけていただいて、本当にありがとうございました」。「安倍総理にご回答いただきました、やっていただいたことをきちっと胸の中に受け止めて、これからは基礎にしながら、これから先の普天間飛行場の代替移設建設の建設にかかる埋め立ての承認、不承認、我々も2日以内に最終的に決めたいと思います」というふうに、ころっと変わっちゃうんですね。それで、12月27日、仲井眞前知事は、埋立承認をすることになります。

 ほんとにその直前まで、いろいろ問題があって、「辺野古新基地は無理だよ」と言っていたんですね。証拠もいっぱいあります。ところが安倍さんと会った途端、予算がついた途端、これですから。何かおかしいよねって思うのは当然ですよね。もちろん沖縄県民も「おかしいじゃないか」と。「私たちが支持したのは辺野古新基地をつくらせないぞということだったのに」ということで、反対運動が高まります。翁長氏が、辺野古新基地はつくらせないぞという公約のもとに、次の知事選で勝利することになりました。埋立承認の適法性を検証する第三者委員会(正式には、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認手続に関する第三者委員会」)を設置して、半年にわたるいろいろな検証をした結果、やはり法的な瑕疵があるという結論に至り、埋立承認を取り消すということになったわけです。

慎重な検証をしたうえで、翁長知事が埋立承認を取り消し

拡大講演する白藤博行教授
 この前知事がやった埋立承認処分を現知事が取り消すというのは、実は大変なことは大変なことなんです。私なんか、「いいから早くやっちゃえ」と言ってたんですが(笑)、やっぱり、そんな性急にやらなくてよかったなと思います。約半年間かけて慎重な検証をした意味はあったと思います。なぜかというと、たとえば、私たち国民がいったん営業許可をもらって、その後に「あれ間違ってたからごめんね。取り消し」と言われたら、せっかく用意しているレストランの準備も全部パーになっちゃいますよね。国民に対して、免許を与える、許可を与える、承認を与える、そういう行政の行為を行政処分というんですが、行政処分(とくに相手方に利益を与える授益処分)を行った場合には、そう簡単には取り消せないという行政法上の法理(取消制限の法理)は確かにあるんですね。今回、翁長知事も慎重になったのは、確かにこれは法律的な瑕疵があるから取り消さなければいけないということの精査をしなければというので、ていねいにやられたんだろうと思います。

国は突然、代執行訴訟を提起

 その上に立って取り消したわけですから、その第三者委員会検証結果を読んでも、大変ていねいにあれこれと議論しております。証拠資料もしっかり吟味されています。それにもかかわらず、これに対して、国交大臣は、代執行訴訟という国の関与を突然行ってきたんです。

 本件は、まさに翁長知事が埋立承認を取り消したことに直接の契機があります。国にすれば、埋立承認を取り消されては、さあたいへん、辺野古の埋め立て工事が進まないことになります。すぐにでも埋立承認取消処分を取り消さないといけません。そこで、国は突然ですが、「翁長さんよ、あなたは承認取り消しをしちゃったけれども、それは違法だから取り消しなさい。なぜなら、仲井眞前知事がやった承認処分は適法な処分なんだから、適法な処分を取り消したあなたの処分は違法でしょ」というわけです。それ以外の論理はありません。適法だった処分を取り消したら違法に決まっている、それ一点張りできたわけです。この代執行訴訟というのは、地方自治法第245条の8で定められた代執行等関与の手続に基づいて行われました。まず、「あなたがやった処分は違法ですよ。だから取り消しなさいね」という「勧告」を行いました。この「勧告」に従わないため、「指示」を行いました。「指示」にも従わないため、福岡高裁那覇支部に代執行訴訟を提起することになったわけです。(実は、この代執行訴訟の前に、沖縄防衛局が不服申立人となって、翁長知事の承認取消処分の審査請求と執行停止の申立てを行っています。国交大臣は、直ちに執行停止決定を行い工事の再開を可能としましてが、審査請求については裁決せずに放置しました。この問題は、沖縄防衛局の「私人なりすまし」問題として重要ですが、時間の関係でカットします。)

 さて、そもそも代執行訴訟って何かというと、国の大臣が、裁判所に対して、都道府県知事の行った処分が違法なので、「代執行してもいいかい?」と尋ねて、裁判所が「いいよ」ということになれば、大臣は知事に代わって処分を行えるという制度です。本件でいえば、国交大臣は、代執行訴訟に勝利すれば、翁長知事が行った埋立承認処分の取消処分を、翁長知事に代わって取り消すことができるということになります。法律で与えられている知事の行政機関の権限を大臣が代わって行うというのは、大変なことです。卑近な例でいえば、自分が約束していた彼女とのデートを、友達が代わってやってしまう、つまり代執行してしまうということなので(会場・笑)、これはとんでもない話ですよね。屈辱的な話です。ですから代執行訴訟というのは、都道府県知事にとっては、最も屈辱的な訴訟なんです。

代執行訴訟は最強の権力的な国の関与

 代執行訴訟は「屈辱的」と表現するとあまり法律学的ではないので、正確には「権力的」と言ったほうがいいでしょうか。代執行等関与は、国の関与のうち最強の権力的な国の行政的関与ということになり、したがって地方自治・分権の観点からは、原則、あってはならない国の関与といっていいものです。このように最強の権力的な国の関与ですから、地方自治法第245条の8には、代執行訴訟以外の関与の手段があれば、代執行訴訟をする前にそれらの手を尽くしなさいということが書いてあります。代執行の要件を定めた同条第1項の「本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」というところです。

 地方自治法の関係条文を資料に挙げさせてもらいましたが、その第245条に、国の関与の種類が列挙されています。これは、国の関与の限定的列挙で、これ以外の種類の国の関与はできないよという意味です。この中の「ト 代執行」の要件と効果を具体化したものが第245条の8の代執行等関与の規定ということになります。

 ちなみに、地方自治法第245条は、代執行のほか、「助言又は勧告」、「資料の提出の要求」、「是正の要求」、「同意」、「許可、認可又は承認」および「指示」といった国の関与を列挙しています。さらに、地方自治法は、第245条の4から第245条の8までにおいて、「技術的な助言及び勧告並びに資料の提出の要求」、「是正の要求」、「是正の勧告」、「是正の指示」および「代執行等」について、直接、要件と効果を定めています。つまり、誰が、どんなとき、どのような関与ができるかが定められています。

 ちょっとややこしい話になって恐縮ですが、本件で問題になっている公有水面埋立法という法律に定められた埋立承認という事務(権限)は、「法定受託事務」という事務であり、この法定受託事務については、「自治事務」より広範な関与が可能となっています。より具体的に言うと、法定受託事務としての知事の埋立承認処分や、その取消処分については、代執行等関与以外に「是正の指示」といった地方自治法上の関与が可能となっているのです。これはどういう意味かというと、公有水面埋立法の所管大臣である国交大臣は、「翁長さんよ、あなたの埋立承認の取消処分は違法だから取り消しなさないよ」という「是正の指示」ができるということを意味します。結論を先取りしていうと、国交大臣は、この是正の指示をしないで、唐突に代執行訴訟をやっちゃったわけですね。

 なぜ「唐突」なのかということですが、地方自治法第245条の3は、「国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。」といった「関与の最小限原則」も定めているところ、代執行よりもより非権力的な、より権力性の弱い関与である「是正の指示」を尽くさないまま、端から代執行訴訟をやってきたからです。私たちは、この「関与の最小限原則」と前述の代執行訴訟の要件を充たさないことを指摘し、代執行訴訟の違法性を論じました。

 そうしたら多見谷寿郎裁判長裁判官は、たいへん興味を示してくれたようです。そのとき、私たちは錯覚してしまいました。この裁判官、ひょっとしたら話を聞いてくれるかもしれないと。あとから考えれば、そんなはずなかったんですよね。甘かったなと反省しています。

 ところが、2016年1月29日の第3回口頭弁論の期日に、多見谷裁判官は、「代執行訴訟和解勧告文」なるものを提示してきました。それによれば、この問題はいまや沖縄対日本政府という対立構図になっており、その原因についてどちらかの善悪を言う前に、このことは、平成11年(1999年)の地方自治法の改正の趣旨である国と地方公共団体との対等・協力関係の原則や両者の役割分担の原則に反し、地方自治法改正の精神に反すると喝破していました。ここだけ聞いていたら、本当にこの人、地方自治を尊重してくれるかもしれないと「誤解する」のやむをえないと思いませんか?(会場・笑)

それぞれの思惑があり、国と沖縄県は和解

 しかし、この「和解勧告文」の具体の内容については、国も沖縄県も合意できる内容ではありませんでした。その後も、水面下で和解については交渉があったのでしょうが、口頭弁論の最終期日(2月29日)に、和解案がまたまた出されました。その内容は1月29日のそれとは大分違う中身なんですが、結局、国と沖縄県は、双方それぞれの思惑があって和解をすることになりました。国は、勝訴できる確信がなかったのでしょう。代執行訴訟の和解というのは、国にとっては屈辱的であったろうと推測します。しかし、国は代執行訴訟をそのままやっていたら、代執行訴訟で敗訴したかもしれません。背に腹は代えられなかったということでしょう。「是正の指示」からやり直したら、もう一回審査してあげるからということで、裁判所は、もう一回やり直すチャンスを与えたともいえます。国は、裁判所に助けてもらったということでしょう。

 沖縄県は沖縄県で、代執行訴訟の行方はともかく、沖縄県民の民意をおもんばかって、とにもかくにも埋め立てに関する工事を止めたいという強い思いがあったのでしょう。両者は、和解に合意しました。正式には、2016年3月4日、和解が成立しました。

協議をせずに、是正の指示をしてきた国

 「和解条項」の内容は、①国は、沖縄県知事の埋立承認取消処分に対する是正の指示を行うことができる。②沖縄県知事は、この是正の指示に不服がある場合、是正の指示があった日から1週間以内に、国地方係争処理委員会へ審査の申出を行うことができる。③沖縄県知事は、委員会が是正の指示を違法でないと判断した場合、審査結果の通知があった日から1週間以内に、是正の指示の取消訴訟を提起することができる。④沖縄県知事は、委員会が是正の指示を違法であると勧告したにもかかわらず、国が勧告に応じた措置をとらないときは、その期間が経過した日から1週間以内に、是正の指示の取消訴訟を提起することができる、というものでした。

 そこで国は、早くも3月7日、是正の指示をやってきました。3月4日に和解が成立し、土日をはさんで7日ですから、協議する気なんかさらさらなかったことがわかります。是正の指示からやり直せというのが和解条項の中にある限り、それは当然のことかもしれませんが、同時に両者の「円満解決に向けた協議」も求められていたところからすれば、国の態度はどうなのでしょう。私には、片方の手にもったハンマー(是正の指示)で相手の頭をたたきながら、もう片方の手で握手(協議)を求めようとしても、なかなか問題解決は難しかろうと思います。しかも、この「是正の指示」には理由が付されていなかったため、地方自治法上の国の関与の手続規定に反する違法なものでした。沖縄県の指摘に従い、恥ずかしくも、3月16日、是正の指示をやり直す始末です。法務省の訟務局長が代表する国の訴訟代理人が行う手続とは、とうてい思えない代物です。法科大学院の学生や学部学生にも教えられない不始末です。

沖縄県は、国地方係争処理委員会に「審査の申出」

 沖縄県は、この3月16日付の「審査の申出」に対して、3月23日、国地方係争処理委員会に「審査の申出」をすることになりました。国地方係争処理委員会による係争処理の制度は、1999年地方自治法改正にあたって、国と地方公共団体との法的紛争については、すぐに裁判所にいかないで、国地方係争処理委員会という行政権の中に設置された公正中立な独立の第三者機関でいったん審査しましょうという制度です。いわば、改正地方自治法の目玉とされた制度であるといってもいいものです。

 それなりの「権威」を備えた紛争処理機関というのが一般的な評価でしょうから、委員会の判断は、それなりに尊重されるべきであると考えられます。

(写真撮影:吉永考宏)


筆者

白藤博行

白藤博行(しらふじ・ひろゆき) 専修大学法学部長・教授

名古屋大学法学部卒。日本地方自治学会理事長、日本公法学会理事、実務公法学会理事、民主主義科学者協会法律部会理事。著書に『新しい時代の地方自治像の探究』(自治体研究社)、『辺野古訴訟と民主主義』(日本評論社)など。

白藤博行の新着記事

もっと見る