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[2]地方自治の精神に反する裁判所の判断

沖縄県は「国防・外交の必要性」について国の判断を尊重すべきとする判決は大いに疑問

白藤博行 専修大学法学部長・教授

注)この立憲デモクラシー講座の原稿は、2016年10月21日に立教大学で行われたものをベースに、講演者が加筆修正したものです。

立憲デモクラシーの会ホームページ

http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/

拡大講演する白藤博行教授

国地方係争処理委員会の結論は「是正の指示の違法性は判断せず」

 国地方係争処理委員会の審理は時間がかかり、6月17日、委員会は、「是正の指示にまで立ち至った一連の過程は、国と地方のあるべき関係からみて望ましくないものであり、国と沖縄県は、普天間飛行場の返還という共通の目標に向けて真摯に協議し、双方がそれぞれ納得できる結果を導き出す努力をすることが、問題の解決に向けての最善の道であるとの見解に到達した」との結論に至りました。すなわち、委員会が、是正の指示が適法か違法かということを決めたとしても、それで問題は根本的には解決しない。国と沖縄県は普天間基地の危険を除去するという共通の目標は持っているが、辺野古新基地建設にあたって意見が異なるから、もう一度真摯な協議をしなさいというものでした。

 国地方係争処理委員会決定の評価はなかなか難しいところですが、たしかに地方自治法の法文は、委員会が、是正の指示が違法だったか、適法だったかということを判断することを前提に書かれていますので、素直に読めば、むしろ委員会の判断そのものに地方自治法違反の可能性があるかもしれません。

 しかし、おそらく委員会の委員長である小早川光郎教授はそのことは十分承知の上で、かなりご苦労されたうえで、それにもかかわらず「違法だとか、適法だとか言っても根本的解決にならないから、あなたたち、ちゃんと話し合いなさい。まじめに話し合いなさい」という見解を示したものと思われます。これは、地方自治法の国地方係争処理制度の趣旨を踏まえたものであり、あるべき国と地方公共団体の関係の構築にとって重要な配慮であると考えます。

沖縄県は協議を申し入れ、国は無視して不作為の違法確認訴訟を提起

拡大講演する白藤博行教授
 沖縄県は、国地方係争処理員会の決定を尊重して、内閣総理大臣、官房長官、防衛大臣、国土交通大臣らに対して、直ちに協議の申し入れを行いました。国は、見事に無視しました。そして国は、沖縄県が委員会決定に不服があれば出訴することができる30日間はダンマリを続け、その30日間の経過を待って、不作為の違法確認訴訟を提起したということになります。

 さて、この不作為の違法確認訴訟はどのような制度でしょうか。地方自治法第251条の7を見てください。いろいろ難しい用語が並んでいるのですが、簡単に言うと、たとえば、国の大臣が「是正の指示」を行ったにもかかわらず、関与の相手方の地方公共団体がそれを無視した場合、「高等裁判所に対し、当該是正の要求又は指示を受けた普通地方公共団体の不作為(是正の要求又は指示を普通地方公共団体の行政庁が、相当の期間内に是正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を講じなければならないにもかかわらず、これを講じないことをいう)」について、違法であるという確認訴訟を提起できるというものです。

 本件を例にやや具体的に説明すると、国交大臣が沖縄県知事に対して是正の指示をしました。沖縄県は、これに対して国地方係争処理委員会に審査の申出を行いました。委員会の決定が出ました。ただし、委員会は、たしかに両者で協議をしなさいとの決定はしましたが、是正の指示が違法であるとの決定まではしませんでした。沖縄県は、是正の指示が違法であるとの審査の申出をしていたのだから、この委員会の決定に不服がありませんか。もし不服があったら、委員会の決定後30日間であれば取消訴訟が提起できますよ。もし30日間を経過しても取消訴訟も提起せず、また、国交大臣の是正の指示に応じた改善措置も講じないということであれば、それは是正の指示に対する「不作為」であり、違法ですから、国は、これに対して不作為の違法確認訴訟という訴訟を提起できますよというものです。

 ちょっと複雑でわかりにくいかもわかりませんが、すべて翁長知事に対する是正の指示が発端になっています。翁長知事の埋立承認取消処分が違法だから取り消しなさいと言ったのに、これに従わないで何もしないあなたたちの行為が違法なんだから、この違法を違法だよねと裁判所で確認してもらうというのが、不作為の違法確認訴訟ということです。

 では、福岡高裁那覇支部は、どのような判決をくだしたのでしょうか。高裁判決の要旨を添付させていただきましたのでご覧ください。本当は200ページぐらいの長い判決なんですが、最近は、裁判所自身が、判決の要旨というのを配布してくれるので、便宜的にそれを添付させていただきました。

なぜ翁長知事の処分については審査せず、仲井眞前知事の処分だけを審査したのか

 時間の関係で、判決の中で、どうしても読んでおいてほしいところだけ、みなさんと一緒に読んでおきたいと思います。

 不作為の違法確認訴訟において、裁判所が何を審査すべきかといえば、翁長知事の埋立承認の取消処分の適法性とそれに対する是正の指示の適法性のはずです。なぜなら裁判所は、まずは、翁長知事の埋立承認の取消処分が適法だったか、違法だったかということを審査しなければ、これに対する是正の指示の適法・違法も判断できるはずがありません。そして、もし翁長知事の取消処分が違法であれば、是正の指示の適法性も推定可能ですが、逆に、もし翁長知事の取消処分が適法であれば、これに対する是正の指示が違法となり、翁長知事は、違法な是正の指示に従う必要は当然ないことになります。そうすれば、是正の指示に対して何もしないことが不作為の違法といわれるいわれがないことになります。

 したがって、裁判所の審査対象は、翁長知事の埋立承認の取消処分の適法性と是正の指示の適法性なのです。国からの不作為の違法確認訴訟は、国の関与の適法性を担保する地方自治保障制度の一環であり、 ・・・続きを読む
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筆者

白藤博行

白藤博行(しらふじ・ひろゆき) 専修大学法学部長・教授

名古屋大学法学部卒。日本地方自治学会理事長、日本公法学会理事、実務公法学会理事、民主主義科学者協会法律部会理事。著書に『新しい時代の地方自治像の探究』(自治体研究社)、『辺野古訴訟と民主主義』(日本評論社)など。

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