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[3]国と自治体が「対等」であるべきことの意味

あってはならない裁判所の訴訟指揮が行われた?

白藤博行 専修大学法学部長・教授

注)この立憲デモクラシー講座の原稿は、2016年10月21日に立教大学で行われたものをベースに、講演者が加筆修正したものです。

立憲デモクラシーの会ホームページ

http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/

 

拡大講演する白藤博行教授

 時間の関係で少し飛んで、「本件新施設等建設の法律上の根拠および自治権の侵害の有無」を見ていただけますでしょうか。その中でも「自治権の侵害の有無」だとか、あるいは「知事が本件指示に従わないことは違法と言えるか」というところです。先程、地方自治法第251条の7の不作為の違法確認訴訟の条文を読ませていただきました。本件でのポイントは、国の是正の指示に対する翁長知事の不服従=「不作為」であり、この「不作為」が違法状態にあるということでした。翁長知事は、是正の指示に従わないで、何もしないで無駄に時を過ごしている。だから埋立工事が進まないじゃないかということで、国にとって不都合な翁長知事の行為を違法だとして不作為の違法確認訴訟で決着をつけようとしたわけです。

協議を求める国地方係争処理委員会の結論を無視した国

 不作為の違法確認訴訟でも、当然ながら、要件問題があります。不作為の存在の有無は最重要の要件です。それでは不作為の法的定義を再確認しましょう。地方自治法は、「是正の要求又は指示を普通地方公共団体の行政庁が、相当の期間内に是正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を講じなければならないにもかかわらず、これを講じないこと」(第251条の7第1項)と定めています。

 沖縄県の場合はどうでしょうか。翁長知事は、是正の指示があったのに対して、違法な是正の指示であると判断して、国地方係争処理委員会に審査の申出をしました。委員会は、適法・違法の判断をせず、国と沖縄県のあるべき関係を構築するため、両者の共通の基盤づくりのために真摯な協議をすることが最善の道であるという決定を行いました。沖縄県は、まさにこの決定に従い、直ちに国に協議の申し入れをしています。委員会決定を無視して何もしないでいたのは国です。私は、もし「不作為」が問題になるとすれば、「国の協議の不作為」であると考えています。みなさんはどう思われますか。国は、自らの「協議の不作為」を顧みず、国地方係争処理委員会における議論をないものとし、是正の指示から「相当の期間」が経過したとして、沖縄県の「不作為」の違法を問うていますが、みなさんは、この国の対応をどう思われますか。

 国地方係争処理委員会の無視・軽視に関連して、資料「(2)不作為の違法の意義について」をご覧ください。とくに「さらに」以下のところです。「被告は、国地方係争処理委員会の本件指示の適法性について判断せずに協議すべきであるとの決定を尊重して、国の関与の取消訴訟を提起しなかったものであり、被告の不作為が違法とはならないと主張する。しかし、本件指示の適法性について判断しなかったことについては、国地方係争処理委員会は行政内部における地方公共団体のための簡易迅速な救済手続でありその勧告にも拘束力が認められていないことから、是正の指示の適法性を判断しても、双方共にそれに従う意思がないのであれば、それを判断しても紛争を解決できない立場である。また、国や地方公共団体に対し訴訟によらずに協議により解決するよう求める決定をする権限はなく、もちろん国や地方公共団体にそれに従う義務もない。代執行訴訟での和解では国地方係争処理委員会の決定が被告に有利であろうと不利であろうと被告において本件指示の取消訴訟を提起し、両者間の協議はこれと並行して行うものとされたところ、国地方係争処理委員会の決定は和解において具体的には想定しない内容であったとはいえ、元々和解において決定内容には意味がないものとしており、実際の決定内容も少なくとも是正の指示の効力が維持されるというものに他ならないのであるから、被告は本件指示の取消訴訟を提起すべきであったのであり、それをしないために国が提起することとなった本件訴訟にも同和解の効力が及び、協議はこれと並行して行うべきものと解するのが相当である。なお、同和解は代執行訴訟において被告が不作為の違法確認訴訟の確定判決に従うと表明したことが前提とされているところ、被告は本件においてもその確定判決に従う旨を述べており、被告にも国にも錯誤はなく、同和解は有効に成立した」(傍点は講演者)としています。

 これは、裁判所による国地方係争処理委員会の存在意義の否定を宣言するものであり、あまりに地方自治法に無理解な酷い判決です。しかも、そもそも代執行訴訟の「和解条項」で想定しない内容まで持ち出し、しかも、委員会決定の「内容については意味がない」(前述の傍点部分)との合意が沖縄県との間であったかのような表現までしています。この点、沖縄県あるいは沖縄県弁護団の名誉のために申し上げておきますが、このような事実はありません。裁判所による事実の「ねつ造」、それが言い過ぎだとすれば、「思い込み」とでもいうべき判断内容です。国地方係争処理委員会の存在意義を否定し、「和解条項」が想定していない内容について踏み込んだ内容の判決ではないかと考えます。

国地方係争処理委員会に審査の申出をさせないようにもくろんだ裁判官

拡大講演する白藤博行教授
 このような誤った判決内容のもとになっている考え方と思われるのが、「代執行及び国の関与取消訴訟和解案について」(2016年2月29日の和解期日まで当事者限りとされている文書)を読むと明らかです。「和解案」では、国(原告)と沖縄県(被告)に対して、地方自治法第250条の13第1項に基づく国地方係争処理員会への審査の申出を行わないことの合意を求め、国が行う是正の指示から30日経過後は、国は不作為の違法確認訴訟を提起することができると記されています。あわせて、同判決が確定したのち、当該判決に従うことの確約も求めています。

 しかも、「国地方係争処理委員会への審査申出を行わないことについて」と題した「和解案」の「補足説明」があるのですが、「双方とも国地方係争処理委員会の通知や勧告に従う意思はないものと思われる。そのような状況で、深く、複雑なかつ幅広い、困難な争点を有する本件の審理・判断を同委員会に求めることは、同じ紛争処理機関として、適切であるとは考えない」とあり、原告・被告の考え方についての裁判所の憶測と、国地方係争処理委員会の存在意義そのものの否定ともいえる内容が書かれています。

 さすがにこの「和解案」は、地方自治法における国地方係争処理員会制度の存在理由、そして何よりも地方自治法が保障する地方公共団体の「審査の申出」権の行使や、それに続く国に対する訴訟の提起権ともかかわる問題を含んでおり、弁護団はこれを拒否し、正式な「和解条項」の合意に至ったものと解されます。しかし、どうも多見谷裁判官の頭の中には、正式な「和解条項」ではなく、いまだにこの「和解案」や「補足説明」が残存しているのでしょうか。これらに基づくとんでもない判決内容です。

「確定判決には従いますよね」と何度も確認してきた裁判所

 そういえば多見谷裁判官は、代執行訴訟の最中には、口を開けば、「和解」「和解」と言っていたようであり、 ・・・続きを読む
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筆者

白藤博行

白藤博行(しらふじ・ひろゆき) 専修大学法学部長・教授

名古屋大学法学部卒。日本地方自治学会理事長、日本公法学会理事、実務公法学会理事、民主主義科学者協会法律部会理事。著書に『新しい時代の地方自治像の探究』(自治体研究社)、『辺野古訴訟と民主主義』(日本評論社)など。

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