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パンから和菓子へ、教科書検定と「忖度」の危うさ

ベタな修正が「ニッポン・イデオロギー」に踏み込むまで

五野井郁夫

彼等は毎朝主人の食う麺麭〔パン〕の幾分に、砂糖をつけて食うのが例であるが、この日はちょうど砂糖壺が卓〔たく〕の上に置かれて匙〔さじ〕さえ添えてあった。(夏目漱石『吾輩は猫である』より)

あんぱん拡大あんぱんは明治天皇も食したのだが……
 近頃この国では、何かとパンが話題だ。毎年春の時期に製造各社がしかける春のキャンペーンのせいだけではない。初めての小学校道徳の教科書検定がつい先ごろ終わり、その検定過程で文科省側から「パン」という記述に注文が付いたためである。

 食べ物のことでとやかく言うとはまったく野暮な話だが、その注文とは「学習指導要領の示す内容に照らして、扱いが不適切」というものだった。出版社側は検定を通過するために記述を以下のように改めた。

▽「にちようびのさんぽみち」という教材で登場する「パン屋」を「和菓子屋」に(同、小1)
▽「大すき、わたしたちの町」と題して町を探検する話題で、アスレチックの遊具で遊ぶ公園を、和楽器を売る店に差し替え(学研教育みらい、小1)――。

 「パン屋」、「アスレチックの遊具で遊ぶ公園」、これらのいったい何がダメ出しをくらう理由となったのか。文科省側からは「パン屋がダメというわけではなく、教科書全体で指導要領にある『我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつ』という点が足りないため」と説明があったという。「アスレチック」も同様の指摘を受け、出版社側が自主的にベタに日本的なものに修正したのだった。

パンは帝国日本を支えていた

 この「事件」を受けて「まさかこの国で、パンを買うことが政治性を帯びる日が来ようとはね。いやあ、まいったな」と筆者がFacebookとtwitterに書いたところ、尊敬する先輩の保守主義者より、木村屋のあんぱんは明治大帝の御用達であったのに、とのご返事をいただいた。

 たしかに言われてみれば、むかし紀伊國屋ホールで観た井上ひさしの演劇『しみじみ日本・乃木大将』でも「あんぱんの中心にある桜は皇后発案」というシーンがある。

 してみると、パンというのは ・・・続きを読む
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筆者

五野井郁夫

五野井郁夫(ごのい・いくお) 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

高千穂大学経営学部教授/国際基督教大学社会科学研究所研究員。1979年、東京都生まれ。上智大学法学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。日本学術振興会特別研究員、立教大学法学部助教を経て現職。専門は政治学・国際関係論。おもに民主主義論を研究。著書に『「デモ」とは何か――変貌する直接民主主義』(NHKブックス)、共編著に『リベラル再起動のために』(毎日新聞出版)、共訳書にウィリアム・コノリー『プルーラリズム』(岩波書店)など。

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