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[2]誰かを助ければ自分も助かることになる

現場の支援を通して見えてきたものを、社会を変えることにつないでいく

松本一弥 朝日新聞WEBRONZA編集長

 この連載は、2017年3月19日に東京・渋谷のLOFT9で行われた、最低賃金の引き上げなどを求めるグループ「エキタス」(AEQUITAS)が主催したトークイベント「最低賃金1500円とfight for 15」(バーニーサンダースの活躍やオキュパイ・ウォールストリートを支えた、雲と草の根の架け橋)の内容を、加筆修正の上、3回にまとめたものです。

イベント風景拡大イベント風景

エキタス(AEQUITAS)について
「エキタス」(AEQUITAS)はラテン語で公正や正義の意味。ポスト3・11の路上の政治と労働問題/労働運動をつなげるため、エキタスは2015年9月からソーシャルメディアを中心にキャンペーンを開始。10月からは「最低賃金1500円」を訴えの軸としたデモを定期的に開催している。
「最低賃金1500円」は労働力のダンピングを食い止め、格差と貧困の広がりに抗する声であり、全世代的な生活の苦しさを告発する叫びだとエキタスはとらえている。エキタスはまた、不公正な立場に置かれている中小企業への政策的な支援もセットで訴えているほか、貧困たたきや月100時間残業法などの問題に対しても緊急に路上の抗議を組織し、人びとの怒りを世間に伝えている。30~40人ほどのネットワークがあり、エキタス京都、エキタス東海、様々な労働組合とも連絡を取りながら連携の方法を模索している。

■登壇者と略歴

◆小林俊一郎(こばやし・しゅんいちろう) 司会を担当。大学3年生。1996年生まれ。大学入学当初より市民運動に携わる傍ら、地域の労働組合に加盟するなどして労働運動にも関わり始める。エキタスのメンバー。

◆山崎憲(やまざき・けん) 独立行政法人労働政策研究・研修機構主任調査員。中央大学法学部兼任講師。1967年生まれ。在職中に明治大学大学院経営学研究科経営学専攻博士課程修了。博士(経営学)。2003年から2006年に外務省専門調査員として在デトロイト日本国総領事館に赴任。
著書に『働くことを問い直す』(岩波書店、2014年)、『デトロイトウェイの破綻―日米自動車産業の明暗』(旬報社、2010年)、『フレキシブル人事の失敗―日本とアメリカの経験』(黒田兼一との共著、旬報社、2012年)、『仕事と暮らしを取りもどす―社会正義のアメリカ』(遠藤公嗣、筒井美紀との共著、岩波書店、2012年)ほか。

◆大西連(おおにし・れん) 認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。1987年、東京生まれ。2010年ごろからホームレス支援、生活困窮者支援に携わり、2014年より現職。著書に『すぐそばにある「貧困」』(2015年ポプラ社)。

◆清水直子(しみず・なおこ) プレカリアートユニオン執行委員長 1973年生まれ。フリーライターを経て2012年4月、プレカリアートユニオンの設立に参加、書記長に。2015年9月より執行委員長。著書に『ブラック企業を許さない!』(かもがわ出版)、『知らないと損する パート&契約社員の労働法 Ver.3』(東洋経済新報社)、『自分らしく働きたい』(大日本図書)、『おしえて ぼくらが持ってる働く権利』(合同出版)など。

◆栗原耕平(くりはら・こうへい) 1995年生まれ。都留文科大学4年 大学で労働問題を勉強しながら、エキタスで活動を続けている。

◆藤川里恵(ふじかわ・りえ) 1992年生まれ。高校生の時に貧困を経験、大学生の時のアルバイトがきっかけで労働問題に関心を持つ。現在はエキタスメンバーとして活動中。

一人でも加入できる労働組合、プレカリアートユニオン

清水直子さん拡大清水直子さん

小林 山崎さんにお話していただきました。すごくインスパイアされたと思います。自分の住む町に根ざした運動って言うのはなかなか難しいと思うんですけど、実際にどういうことが行われているのかなっていうので、これから清水さんや大西さんにお話ししていただくという流れになります。それでは最初に清水さん、よろしくお願いいたします。

清水 初めまして。プレカリアートユニオンの執行委員長の清水と申します。

(プレカリアートユニオンのウェブとブログは以下)

http://www.precariat-union.or.jp/

http://d.hatena.ne.jp/kumonoami/

 プレカリアートというのは、不安定な労働者という意味の造語なんですけども、正規か非正規かということにかかわらず、比較的若い世代の、職場でつながりがつくりにくい、仲間がつくりにくいという立場で働いている人が、あえて、それでも今いる職場で何とか頑張って仲間やつながりをつくることで、今よりは少しでも、1ミリでもいい労働条件を実現しようということを目指してちょうど5年前につくった個人加盟の労働組合です。どんなことをしているかっていうのを見ていただくようなPR動画をつくっていますので、少しご覧下さい。(動画再生)

https://www.youtube.com/watch?v=SN5nX3-_Pcc

 私たちの活動で最近よく知られているのは、ブラック企業として有名になったアリさんマークの引越社と激しく闘っているという点です。中小の下請けで、企業内組合がないブラックな運送会社で働いている仲間が、結果的に今多くなっています。運送会社の場合、非常に長時間の重労働で過酷な働き方をしている組合員が多いんです。

 今見ていただいたこの動画もそうですが、問題に立ち向かっている当事者がどんなことをやっていくのかをできるだけ目に見えやすい形で伝えながら、その会社と組合員という労使関係の当事者だけではなく、インターネットも活用して広く関心を持っていただいて、様々な方の協力を得ながら社会的に会社を包囲していくという闘い方をよくやっています。

 個人加盟の労働組合ですから、職場ごとの組合員数が少ないことも多く、ストライキの効果が非常に限定的だということがあるんです。静かに団体交渉をしていても、問題は解決しづらい。裁判では裁判のペースに合わせてしか物事が解決していかないというところがあり、金と力のある側は引き延ばしをしようとする。そこで裁判をやるとしてもそれだけでなく戦略を立て、力技で様々な取り組みを同時にするというようなことをやりながら解決水準を引き上げたり、解決のスピードを上げたりしています。

山崎さんからアメリカの手法を学んで

(左から)山崎憲さん、清水直子さん、大西連さん、藤川里恵さん拡大(左から)山崎憲さん、清水直子さん、大西連さん、藤川里恵さん

清水 実は私たちの組合がこういう取り組みを意識してするようになったのは、先ほどお話をされた山崎憲さんに3年ほど前にお目にかかったのがきっかけです。アメリカのAFL-CIOという、ナショナルセンター、日本で言えば連合のようなところが労働運動を活性化するのに「コミュニティー・オーガナイジング」という手法を活用しているということを、山崎さんがいくつかの媒体で紹介し始められたころでした。

 それを拝見して、「これこそまさに日本にも必要なんじゃないか」というふうに直感的に思って、山崎さんをお呼びするようなイベントをしながらお話を聞かせていただいたという流れがあります。また、日本労働弁護団が発行している「季刊・労働者の権利」(2016年7月号Vol.315)にそのあたりのことを書いてあります。

当事者を闘える人に育てあげる

清水直子さん拡大清水直子さん

清水 先ほど、この最低賃金引き上げ運動を、地域の問題と結びつけて取り組むにはどうしたらいいかという課題がありました。プレカリアートユニオンはまだ、地域の課題と結びつけ、地域でのオーガナイジングができているというか成功しているわけではありません。このコミュニティー・オーガナイジングの手法を採り入れながら、かかわる人と細かい戦略を立てつつ、また、かかわる人たちの力を高めるような働きかけをしながら「勝利を手につかむ」ということを意識して、組合内外の組織化に生かしているという段階です。

 ただこれをやることによって、働いている問題にたまたま直面した当事者、長時間労働で倒れそうだとか、長時間労働なのに残業代が払われていないとか、会社の指揮命令のもとに仕事をしていて引っ越し荷物にキズをつけたとか、事故で車にキズをつけたとかいった場合に多い人だと何百万円も借金を背負わされるという目にあった当事者の力を高めることができます。

 例えて言えば、けがをして、プレカリアートユニオンのような個人加盟の労働組合は労働現場の野戦病院みたいな前線にいるようなところなので、そういうところにケガをしてやってきた人が抱える問題解決を通じて、その人を「闘える人」に育て上げていったり、自分たちがいるとりでを守る担い手としてその人を育てていったりしながら、さらにいい状態を自分たちの手でつかむようなことをやっています。

「もやい」とは何か

大西連さん拡大大西連さん

小林 はい。ありがとうございました。続いて大西さんから、もやいの活動の簡単な紹介をお願いします。

大西 みなさん、こんにちは。あれ、なんか元気ないですね。みなさん、ここは渋谷ですよ、日曜ですよ(会場・笑)。ちょっと何かテンション低くないですか? 渋谷ロフトのイベントって、もっと何か観客からブーイングが来るぐらいの勢いかと思ってたんで、ちょっとテンション上げていきたいなと思います。

 ただいまご紹介にあずかりました、「もやい」という団体で理事長をしています大西と申します。「もやい」っていう言葉は、渋谷のモヤイ像とはまったく関係ありません。民進党の代表の蓮舫さんの「舫」という字です。しかしもちろん彼女ともまったく関係がない、寄付をもらったこともないんですけれども。

 この「もやい」という言葉、少し聞きなじみのない言葉かもしれないですけど、このロゴマークの上にある結び目、もやい結びという結び方なんですね。これ、ちなみに結べる方いますか?  「もやい結び結べるよー」っていう人。あっ、すばらしい、何人かいらっしゃいましたね。

 たぶんボーイスカウトやってたとか、実は漁師さんだとか、実は山登りが趣味だとか、レンジャー部隊にいたとか、そういう人だともしかしたら習ったりすることがあるかもしれないんですが、主に一番使われるのは船を岸に結びつけるときに、この結び方を使います。ご覧いただければわかるように、非常にゆるい結び方なんですが、とても強くてですね、なかなか簡単にほどけないと。ただある方法を使うと、簡単にするっとほどける。

 最近よく言われるのが人間関係の絆(きずな)とか、かたいつながりとかって言われるんですが、それって場合によっては、とてもきつーく縄同士を固結びすると、なかなかほどけなくなるんですね。ほどきたい時にどうするかっていうと、まあしがらみになってしまって、要するに断ち切ってしまうと。断ち切らないと自由になれない。ただ断ち切ってしまうと綱の形が変わっちゃうよね。だったら、綱の形が変わらないようにすむように簡単に結べて、簡単にほどける、でもとてもしなやかな、そういうつながりを社会のなかにつくっていきたいということでこの名前を使っています。もともとは水俣病の患者さんたちのグループがこの言葉を使っていたというふうにも聞いていますが。

貧困問題を社会的に解決する

(左から)山崎憲さん、清水直子さん、大西連さん拡大(左から)山崎憲さん、清水直子さん、大西連さん

大西 じゃあその社会のつながりって何? っていうか、何をやってるかっていうことなんですけど、我々のミッション、ミッションっていうか取り組んでいることは何かっていうと、日本の貧困問題です。日本の貧困問題を社会的に解決するというのがミッションです。ちなみに手元に資料は配ってるんですけど、全部読んじゃうと僕がしゃべる意味がなくなっちゃうんで、ぜひ前を見てもらえたらうれしいなと思うのですが、ミッションは日本の貧困問題を社会的に解決するって、何かすごいふわっとしてるじゃないですか。貧困ってそもそも何じゃ? とか、どうやって解決するのかと。

 それをもうちょっとブレークダウンというか、実際にやってる事業は何をやってるかっていうと、主に四つやってます。一つは困ってる人、経済的に困っている人を支援につなげる。そんな支援団体なんですけど、じゃあ我々が毎月、15万とか20万とかお金の支援できるかっていうと、そんなお金があったらこういうロフトでしゃべってないので、残念ながらそれはできません。なので、主に生活保護などの制度につなぐことがとても多いです。公的な支援につなぐ。年間だいたい4千件ぐらいの相談っていうのを受けています。たぶん全国でも最も多い部類だというふうに思います。

 制度につながってそのあとどうするの? っていう話なんですけど、主にホームレス状態の方や住まいを失っている方の支援っていうのをやってることも多いですね。彼らがアパートに入る際の連帯保証人や緊急連絡先になるという活動をやってます。合わせてだいたい約3千世帯。保証人ってけっこう重くてですね、家賃を滞納されると、代わりに払わなきゃいけない。非常に重い請求が来るものなんですが、まあそういった活動をやってます。

 それはなぜかというと、単純にアパート借りたいけど仕事はしてるとか、仕事が見つかったとか、初期費用を払えるだけの資金はあるけれども保証人を頼める家族がいないとか、家族が困窮してるとか、それはホームレスの方もそうですし、例えばDV被害、配偶者等からの暴力を受けて逃げてこられた人や、児童養護施設出身の若者や、それから精神障害などがあってそれこそ長く入院してたりとか、そういう人が退院してアパート入る際に保証人がいないということが起こります。その時に「じゃあ引き受けよう」ということで、そういった人たちのアパート入居につなぐという活動をやっています。

 それから公的な支援につながって、あるいはお仕事につながって、アパートに入りました、じゃあそれで我々の活動終わりかっていうとそうではありません。そもそも、我々が相談を受けたり、保証人をする状況に陥ってるっていうことは、コミュニケーションであったりとか、人間関係のつながりを失ったりしている方がとても多いということです。だから居場所づくりの活動であったり、それから一部、ご希望があればそれこそ身寄りがだれもいない方だと無縁仏になってしまうということもあるので、お墓を紹介したりもします。つまりはコミュニケーションの場、関係性につなぐということもやっているということですね。

 それからこの上の三つはどちらかというと現場の支援、対人援助、目の前の困っている人をそれぞれのフェーズで支援するということなんですが、そこから見えてきたものを社会に向けて発信をしたり、民間団体のネットワークをつくったり、政策をつくると。要は社会につなぐという活動をしています。

 だからもやいの結び目が何を結ぶかっていうと、制度だったり、アパートだったり、コミュニケーションだったり、それから最終的には社会のあり方とか、社会の仕組みにつなぐ。そしてそれを変えていくということを活動としてやっています。

失ったものを自分自身の手で取り戻す

大西連さん拡大大西連さん

大西 コンセプトというか、大事にしてるのは何かというと、これは清水さんのところとたぶん一緒なんですけど、失ったものを自分自身で取り戻すということですね。アパート生活だったり、仕事だったり、生活だったり、コミュニケーションだったり、人間関係だったり、そういった断絶されたものを、我々がサービスを提供するんではなくて、自分自身の手で、自分の力でそれを取り戻す。端的に言ってしまうと、つまりは権利を奪い返すっていうことです。それを我々がお手伝いするということを主にやっています。基本、我々が何か提供するということだけではもちろんなくて、一緒につくっていく。一緒に、互助的な、互いに助け合うような仕組みづくりをすることによって実現していくということを意識的にやっている団体です。

啓蒙をしながら社会活動をしていく

大西 あと同時に、少し社会的なところに関していうと、今の説明だけ聞くと、何か目の前に困ってる人がいて、その人と一緒にその人の力を取り戻すような活動をやっているということで、非常にローカライズされた、いわゆる地域的な活動かなというふうに思われるかもしれないんですが、我々のミッションは問題を社会的に解決することなんですね。

 これも後半でのお話に出てくると思うんですけど、例えば我々、事務所は新宿区なんですけど、新宿区がすごいいい支援をして、いい制度をつくって、新宿区の我々が支援をして、いろんな事業所ができて、新宿区で困窮した人がいなくなればいいかっていうと、いやいや、隣の文京区とか、豊島区とか、中野区とか、そこも同じ課題があるわけですね。そこが我々のミッションで、社会的に、じゃあそういった実践をどのように広げていくかがカギです。

 例えば生活保護の申請のやり方について。これはリーマンショックの少し前ぐらいですかね、我々のところに全国からすごく相談が来たんですね。じゃあどうしたかっていうと、全国の相談をすべて受けつけることはできません。じゃあどうするかっていうと、「全国で相談を受けられる人を増やす」という考え方をするんですね。北海道の相談が来て、我々か行けるかっていうと行けないわけです。

 じゃあ北海道で我々が支社をつくって、もやい北海道支部をつくって活動するかっていうと、まあ民間企業は確かにその形で特許取ったり、ノウハウを守るでしょうけど、我々が目指してるのは自分たちの団体の規模を大きくすることじゃないので、何をするかというと、現地で支援できる人や法律家だったりとかですね、そういったグループに我々のリソースを提供したりとか、それはスケールアウトっていう言い方をします。まあ裨益効果をより拡大していくためにそういったことをやっていたりとかして、そういった活動というのも重視して行っています。まあざっくり一言で言っちゃうと、啓蒙しながら社会運動しているというのが我々の活動になります。

<休憩をはさんで>

アメリカには様々な「民主主義の学校」がある

山崎憲さん拡大山崎憲さん

小林 それでは再開をしたいと思います。みなさんには質問を書いていただきました。一つ一つていねいに読むっていうのは残念ながら時間の都合でできないんですけど、いくつかちょっとまとまっているので聞きたいかなというふうに思います。

 最初に山崎さんあてで一番多かった質問がありまして。「民主主義の学校」という言葉があったっていう話も出たんです。「アメリカではどのように政府に働きかけるのか」っていうことを学ぶ場所があるんですよという話があったんですけど、だれがそういうことをやっているのかとか、例えば講習会みたいなのがあるのであればどれぐらいの頻度で何回ぐらいやってるのかとか、それをどんな人たちがやってるんですかといったあたりについて、要はもうちょっとくわしく知りたいっていう内容ですね。

山崎 民主主義を学ぶための学校には、いろんな種類があって、分野ごとに分かれています。例えば財務や実務、手続きや組織化といったNPOの運営や、NPOを立ち上げるアントレプレナー(起業家)の教育だったり、社会を変えていく方法だったりと様々にあります。大学の学部でも学べます。アメリカではハーバード大学だったり、カナダではトロント大学などがそうしたものになります。

ミッドウエスト・アカデミーについて

山崎 僕が紹介したミッドウェスト・アカデミーは、初任者向け研修を3カ月ごとにやっています。本部はシカゴですが、全米各地でも開催しています

http://www.midwestacademy.com/training/organizing-social-change/

 費用は、会場が協会施設の場合、宿泊費込みで5日間、850ドル、日本円で9万円ほどです。朝8時から夜9時までびっしりと参加型の研修メニューがつくられています。

 ミッドウェスト・アカデミーのトレーニングは、短縮版を日本で受けることもできます。法政大学のなかにある連帯社会研究交流センターが、3年ほど前から、夏休みに日本向けにアレンジしたプログラムを実施しています。トレーニングの講師はアメリカからミッドウェスト・アカデミーの代表が来日しています。

様々な運動の担い手たちが学ぶ「民主主義の学校」

山崎憲さん拡大山崎憲さん

山崎 そもそも、こうした「民主主義の学校」は、1920年代から30年代にかけて、アメリカの労働組合が立ち上げたことからはじまりました。こうした学校で民主主義の実践を学んだ人たちが、労働運動だけでなく、公民権運動や環境保護の運動に身を投じていきました。公民権運動のきっかけとなったモンゴメリー・バス・ボイコット事件のローザ・パークスや、「I Have a Dream」で知られるキング牧師もみなくした学校で学んだのです。

 ミッドウェスト・アカデミーのトレーニングには3年ほど前に参加したことがありますが、そこに来ていたのは環境保護NPOの関係者が多く、全体の6割ぐらいでした。残り4割ぐらいが就業、就学支援などの子供の貧困対策にかかわるNPOの人たちでした。労働組合関係者は1割ぐらいだったと思います。

 男女比は、女性が8割で男性は2割ぐらい。年齢は、20代から30代半ばぐらいの人がほとんどでした。アメリカ人はもともと議論や自己主張がうまいという先入観がありましたが、トレーニングに参加してみると、実際にはそんなことはなくて、5日間の日程が進むにつれて徐々にうまくなっていくということを目の当たりにしました。ここで、僕ははじめて、民主主義は生まれつきに備わっているのではなくて、学んで身に着けていかなければいけないものだと実感したのです。

長時間労働が一般化しているような業界でも労働組合は戦える?

小林 ありがとうございました。次に清水さんへの質問です。団体交渉をしたいらしいのですが、長時間労働であるとか、職場の環境を改善したい。それをなるべく経営者側と対立しないようにしてやりたいんだけど、気がかりになるのは、自分のいる業種がそういう労働の仕方、させ方が一般的になってしまっている中で、はたして自分の職場は改善できるのだろうかっていうことです。

清水 大雑把な質問なので、大雑把に言えば、改善はできます。どんな会社で、どんな業界で、具体的にそこの会社では何人人が働いていて、そこの経営者はどういう人で、だれが意思決定をするのか、その人にイエスと言わせるためにはどういうアプローチをしていけばいいのかということを、戦略チャートのようなものを考えて分析をして、戦略を立てて実行していくことになります。

 やりようによって結果は変わるし、相手がどんな経営者なのか、どんな会社なのか、支払い能力があるのかないのか、自分たちはどのくらい仲間をつくれるのかつくれないのか、自分はそれなりに腹を決めてやるのか、といった要素で、結果が変わっていきます。具体的にということであれば具体的にご相談いただければと思います。

変えることに対する恐怖心

(左から)山崎憲さん、清水直子さん、大西連さん、藤川里恵さん拡大(左から)山崎憲さん、清水直子さん、大西連さん、藤川里恵さん

小林 そうですね。だから実際に相談してみるのはすごい大事ですよね。何かやっぱり社会的な認識としては、けっこう、労働組合ってつきあいづらいじゃないですか。

清水 あえて、そうなんですか? と聞いてみます。

小林 うん。何かやっぱりね、僕も一応労働組合のメンバーとしてやってるんですけど、話をすると、相手はまず労働組合のことを知らないし。説明するんだけど、何かすごいひどいこと言われたな、一回。「それって合法なの?」みたいな。

 何か、制度の外側に出てそれを変えるっていうことに対する恐怖心みたいなものは、たぶん社会的に、一般的にすごく強いと思うんですよ。だからそういう中ででも労働組合とかが「いや、こういうことできますよ」って言ってもらえることがやっぱりエンパワーメントにつながるかなというふうに思います。

 それからあとは、ご家族の方がですね、長時間労働で大変らしいのですが、福岡らしいんですけど、プレカリアートユニオンに加入することは可能なんでしょうか? という質問です。

清水 手続き的には可能ですが、どういう対応が必要か、どんな組織化の可能性があるのかによって加入していただいた方がよいかどうかを考えます。アドバイスやサポートはいくらでもできるんですが、毎回福岡に行って団交ができるのかとか、いや、本社が東京にあるからできるとか、だったらむしろ福岡の信頼できるユニオンを紹介したほうがいいのかとか、弁護士さんを紹介したほうがいいのかっていうのもあるので、ちょっと相談を具体的にしていただかないことには何とも言えませんが、でもいろんな工夫はありえると思います。

小林 地元っていうか、自分が住んでるところでどういう動きがあるのかっていうのを、どういう助けてくれる労働組合とか制度があるのかっていうのももっと明らかになるといいですよね。やっぱり自分でもなかなか調べづらいし。エキタスもそういうことで何かやっていけたらいいのかなっていうふうにたまに思ったりするんですけど。やりたいんですけどね。

「シェア」や「リツイート」だって大きな支援

小林 次は大西さんあての質問なんですけど、なかなか運動する時間がないんですけどサポートしたいんです、と。どうやったらサポートできますか? っていうあたりで。

大西 まあいろんなやり方があるんですけど、たしかに働いてたりするとね、どういうお手伝いができるかなっていうことを思われると思うんです。まあ、いろんな寄付の仕方があるんですが、それが一番助かるとか。支援団体が一番助かるのは寄付ですね、端的に言っちゃうと。ただそれ以外にもボランティアだったり、例えば物、食料品を募集している団体があればそれだったりとか。

 ただ僕、それ以上に簡単にできることは何かっていうと、ツイッターとかフェイブックとかで、こういった貧困問題に関する記事をただシェアしてくれるとか、リツイートしてくれるとか、それだけでもすごく大きな支援になるというふうには思っています。それはお金かからないでできますし、3秒でできますし、そういうことからもできることはあるとは思いますね。

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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞WEBRONZA編集長

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、月刊「論座」副編集長、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務めた。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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