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[2]憲法で主権の濫用を防止する、立憲主義

自民党改憲草案は泡沫候補らしい扱いをすべきだ

木村草太 首都大学東京教授(憲法学)

注)この立憲デモクラシー講座の原稿は、2016年11月18日に立教大学で行われたものをベースに、講演者が加筆修正したものです。

立憲デモクラシーの会ホームページ

http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/

拡大講演する木村草太教授

 さて、これはどういうことかというと、ちょっとわかりにくいかと思うので補助線を入れてみたいと思います。「クローンの出会い」という物語を入れると、この物語の気持ち悪さがよくわかるんです。AとBは絶対的関係で結ばれたんですが、いろいろあってBは死亡しています。絶望したAは、AとBのクローン、A´とB´をつくり、自殺する。その後、A´とB´は出会って、AとBが絶対的関係を成就させたかのような外観が形成された。さてこの物語において、最後に出会ったA´とB´はAとBでしょうか? 答えは否ですね。全く別人が出会っているということで、単なるむなしい出会いがあったというだけであります。

 私が見た映画のあらすじというのは、つまりこういう映画でありまして、2013年にタイムスリップするというのは、そこまで生きてきた人を全部いなくして、2013年時点のクローンを一度つくり直して、そしてそこから新しい未来をやり直すという、そういう世界観であります。ということは、2013年にタイムスリップしたBはどのような罪状か。すなわちこれは大量虐殺であります(会場・笑)。2016年に生きていた人をすべて巻き添えにして、自分も死んで、そしてその人たちのクローンをつくり出すということをやったということであります。

 私はこの映画を見ながら何を考えていたかというと、私がこの映画の中に入れたら、2013年にさかのぼろうという主人公のBくんの行動を絶対に殴って止めるなというふうに思いました。止めないと、全員が死亡してしまいます。確かにAさんが死んだことは悲しいかもしれない。しかし、あなたがそれをやろうとしていたら、いま生きている人をもっと大量に虐殺することになるんだぞということであります。

 ただですね、私はこういう話でないと論理的におかしいし、そう解釈するしかないはずなんですが、こういう気持ち悪い話だということがあまり理解されていないというのが大変残念であります。

作者の意図はどうだったのか

拡大講演する木村草太教授
 受け手が気持ち悪さを感じなかったとしても、まぁいいんですが、作者がどういう意図だったのかというのは、大変気になるところであります。作者はSFにも大変造詣が深い方なので、私がいま言ったことぐらいわからないはずがないわけです。

 この作者の方に、「報道ステーション」という番組がインタビューをしておりまして、そこで小川アナウンサーが「この物語で一番伝えたいことは何ですか?」というふうに聞いております。AさんとBさんは高校生でありますから、もしもこのようなタイムパラドックスのことをこの監督が意識していないのであれば、「青春にさかのぼって」とか「青春の気持ちを思い出して」とかと答えるはずだと思ったんですが、その監督の方はそうは答えませんでした。どう答えたかというと、「やはり若い人たちが頑張っている姿というのを応援したくなるでしょう。それがテーマです」という趣旨のことを答えていました。

 つまり「青春に戻りたい」ということではなくて、「青春に生きる人たちを応援したい」。主語は大人です。応援するとは何か。すなわち「自分も命を差し出します」ということですね(会場・笑)。Bさんの大量虐殺を受け入れるということですから。なので、私は「これは完全に監督はわかっていてやっている」と、そのインタビューを聞いて理解しました。そしてまた、その監督の意図とは全く違う形で理解されている方が非常に多いということがわかったわけであります。

人は自分がやっている行動の意味を把握できないことがある

 さて、何でこの話をしたのか。いまの話の教訓というのは、<人々は、いま自分がやっている行動の意味というのを実は正確に把握できないこともしょっちゅうある>ということであります。

 私が最近、これを踏まえた上で、確かにそうだと思った出来事がありまして、それが最近の護憲派の集会のあり方であります。

自民党草案の悪口大会になっている最近の護憲派集会

 最近、私は護憲派の方々から講演の依頼を頂くことも多いのですが、「自民党草案の悪口大会をやりたいので来てください」というのがずいぶんあります。それが本当に正しい方向なのか。確かに、一見すると自民党草案は立憲主義の本質も踏まえていない。「同人誌的なもの」と私は言っておりますが、要するに特殊な趣味嗜好がある方が集まって、楽しむためにつくったもので、国民に改憲を訴えたりとか、あるいは日本をよくしたりするようなものでは全然ないんです。

 自民党草案の悪口を言う、これは出版でも ・・・続きを読む
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筆者

木村草太

木村草太(きむら・そうた) 首都大学東京教授(憲法学)

1980年生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学助手、首都大学東京准教授を経て現職。専門は憲法学。著書に『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)、『憲法の急所』(羽鳥書店)、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)、『憲法の創造力』(NHK新書)、『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)、最新刊に『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』(晶文社)、共著に『未完の憲法』(潮出版社)、『憲法の条件――戦後70年から考える』(NHK出版新書)、『検証・安保法案――どこが憲法違反か』(有斐閣)など。趣味は音楽鑑賞と将棋観戦。棋譜並べの際には、菱湖書・竹風作の彫埋駒を使用。

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