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安倍首相の防衛大卒業式訓示と軍人勅諭の理念

語るべきは「文民統制の危うさ」だった

谷田邦一 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

「私の目であり耳であります」

防衛大の卒業式で訓示をする安倍晋三首相=19日午前、神奈川県横須賀市20170319拡大防衛大学の卒業式で訓示をする安倍晋三首相=2017年3月19日
 ふつうの首相なら、ことさら目くじらを立てるほどではないかも知れない。

 しかし国会で自衛隊を「わが軍」と呼び、安全保障法制の議論を「不安をあおろうとする無責任な言説が繰り返された」などと切り捨てた安倍晋三首相の訓示となれば話は別だ。

 自衛隊の幹部候補生に何を語りかけたかったのか。その真意を勘ぐりたくなってしまう。3月19日に防衛大学校(神奈川県横須賀市)であった卒業式で、安倍晋三首相が行った訓示の中身のことである。

 約350人の卒業生を前に登壇した安倍氏は冒頭、北朝鮮の核・ミサイル開発や外国(中国)の軍用機による領空接近などを挙げて、日本周辺の脅威の高まりに言及した。

 引き続き「我が国自身の防衛力を強化し、自らが果たしうる役割の拡大を図っていかなければなりません」と防衛力強化の必要を説き、最前線で活動する数多くの自衛官の奮闘に思いをはせながら、こう述べた。

 「警戒監視や情報収集に当たる部隊は、私の目であり耳であります……最前線の現場にあって指揮をとる諸君と、最高指揮官である私との意思疎通の円滑さ、紐帯(ちゅうたい)の強さが、我が国の安全に直結する。日本の国益につながっています」

皇軍教育になぞらえた?

 筆者も新聞社に在籍しながら防衛大学校で大学院教育を受け、16年前に卒業生の1人として森喜朗首相(当時)の訓示を聞いた経験がある。多くの首相は、日本を取り巻く安全保障情勢への認識をもとに、将来の自衛隊幹部へのはなむけとして、防衛任務という重責につく心構えや使命感、国民からの信頼の大切さなどを説くものだ。安倍氏も昨年(2016年)まではそうだったが、なぜか今年はちょっと違った。

 訓示の後半にはこんな呼びかけもあった。

 「将来、諸君の中から最高指揮官たる内閣総理大臣の片腕となって、その重要な意思決定を支える人材が出てきてくれる日を楽しみにしています」

 「最高指揮官である私」「私の目であり耳」「私との紐帯の強さ」……。なぜ「国民」ではなくて「私」なのだろう。

中学校の校庭で軍人勅諭を朗唱する生徒たち=44年2月、東京都内で拡大中学校の校庭で軍人勅諭を朗唱する生徒たち=1944年2月、東京都内で
 安倍氏は、文民統制(シビリアン・コントロール)の大切さを強調したかっただけかも知れない。文民統制とは、軍の暴走を防ぐため、軍に対する政治の優位を定めた近代民主国家の原則のことである。そう聞き流せなくもないが、やはりどこか聞き覚えのあるいくつかのフレーズが引っかかる。戦前・戦中の軍人の精神的支柱となった軍人勅諭にある文言に似ているからだ。

 勅諭は、陸軍卿だった山県有朋が発意し明治天皇が陸海両軍の軍人に下したもので、天皇への絶対的忠誠を説き軍人が守るべき徳目として忠節、礼儀、武勇、信義、質素の5カ条を挙げている。

 安倍氏の訓示と二重写しになりそうなくだりがある。 ・・・続きを読む
(残り:約2004文字/本文:約3182文字)

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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

1959年生まれ。1990年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て2013年4月から社会部専門記者(防衛問題担当)。主要国の防衛政策から最新兵器、軍用技術まで軍事全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識が、現実の紛争地でどのくらい役立つのか検証取材するのが夢。

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