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[28]キューゲキの人ってわかりますか?

金平茂紀

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客席をバックに立つ野村萬斎=世田谷パブリックシアター 拡大世田谷パブリックシアターの芸術監督・野村萬斎=撮影・朝日新聞社

4月4日(火) 朝の地下鉄がめちゃくちゃに混んでいて乗客がはじき出されそうになっていた。僕はいつも荷物が多い人間なのでちょっと大変だった。『DAYS JAPAN』の最終校正。

 このところ感じるのだが、あらゆる会議は不毛である。取材をしていて実感するのだが、森友学園事件の幕引きが強引に進められている。政府サイドの動きが露骨だが、それにもましてマスメディアの追及が弱い。なかには幕引きに協力する社や局、記者たちも大勢いて、何だか末期的な様相だ。

 グループ現代の太田直子監督のドキュメンタリー映画『まなぶ 通信制中学 60年の空白を越えて』をみる。戦後の混乱期に何らかの事情で義務教育を放棄せざるを得なかった人々が、人生の晩年にさしかかった今、必死に学ぶ姿には心を揺すぶられる。それとともに、学校とは何のためにあるのか、生きることと学ぶことはどのような関係にあるのか、という根源的な問いに立ち返ることになる映画だ。グループ現代のKさんから頼まれていた映画館での上映後のポストトークを引き受けることにする。

 「共謀罪」についての何らかのアクションを考えなければならない。もう遅きに失しているのだが。

<聖なるもの>が宿った野村萬斎のボレロ

4月5日(水) スポーツクラブへ行きいつもの半分くらい泳ぐ。左ひざに鈍痛を覚える。筋力が弱ってきているのか。お昼、パリ在住のライターTさんに来ていただき、フランス大統領選挙の最新情勢を聞く。日下部正樹キャスター、Tディレクター同席。ルペンで1回目に決まるということは絶対にないと。

 僕の方は、世田谷パブリックシアター開場20周年の記念公演取材があって中座させていただく。三軒茶屋にある同劇場は本当に素晴らしいアートの発信の場だ。CSのTBSニュースバード「ニュースの視点」での放送のために直行。この枠で放送されている番組のなかには、正直に言えば、地上波の凡百の番組とは比較にならないくらいの非常にクオリティが高いものがある。

 今日の目玉は野村萬斎の舞うラヴェルのボレロだ。実物は一度だけ僕もみたことがあるけれど、今日の舞台は特別仕様のものだ。十数分のすさまじい緊張感とらせん状に増していく高揚感。間違いなく<聖なるもの>が舞いに宿っていた。ボレロはいくつもこれまで見てきた。これは自慢できるのだが、古くはジョルジュ・ドンの語り草となっている公演もみたし、その後のパトリック・デュポン、シルヴィー・ギエムのものもみてきた。モーリス・ベジャール演出による群舞はすばらしかった。西欧のダンスの歴史・伝統の延長上にあるそれらのボレロと、萬斎ボレロは根本が異なる。いわば<神事>としての舞いである。死と再生、そして飛翔。うーん、言葉ではうまく釣りあえない。とにかく素晴らしい舞台だった。

 その後の同劇場20周年記念のアフター・トークには萬斎さんのほか、池辺晋一郎氏や中井美穂さんが軽妙なお喋りを奏でていた。終演後に空っぽになった客席で、萬斎さんにインタビューした。なかなか面白かった。芸術監督に就任されてからの心に残る思い出、エピソードを何か披露していただけないか、と聞くと、「キューゲキの人って何のことか分かります?」と逆に問い返された。キューゲキ? 急激? 戸惑っていると萬斎さんから「新劇じゃない古い人たちっていう意味らしいですよ」と言われた。伝統芸能の狂言の継承者である萬斎さんは、芸術監督を引き受けてこれまでさまざまな脱領域の実験を試みてきた人物だが、その萬斎さんに向かって「キューゲキの人」と言った御人がかつていたらしい。笑ってしまった。新劇が一番古いし、反動的じゃないかと言いたくなる。世の中にはそういう固定観念から抜け出せない自称前衛がいるものだ。「週刊現代」のコラム、何とか書きあげてメール。

この国の教育は森友学園化しているのか

4月6日(木) いいお天気だ。桜もほころんでいる。熊本地震から1周年の特集取材準備にとりかかる。今週の『報道特集』で、教育勅語を学校で教えてもいいという閣議決定がなされたことを受けて、教育の戦前回帰を考える特集を組むことになり、その取材で教育学者の藤田昌士・元立教大学教授宅に取材に。とても興味深い話が聞けた。戦前の修身の授業で教育勅語がどのような位置づけにあり、どのように教えられたのか。また子どもたちにどのような影響を与えたのか。83歳の元教授は、戦後初めて使われた学習指導要領の実物(ボロボロになっていた)をまだ大切に保管していた。現在の学習指導要領とは全く異なり、下から教育内容をともに作り上げていこうという精神がみなぎる内容だった。

教育勅語には「いいこと」が書いてある?(WEBRONZA)

 その後、東京の北区滝野川の小学校入学式の取材に。学校の近所は桜が多く満開前で美しかった。それにしても、道徳教科書の検定で、郷土愛が足りないとか文句をつけられた結果、パン屋を和菓子屋に書き換えて検定が合格になったとかいう笑い話のような笑えない現実を目の当たりにして、いよいよこの国の教育は森友学園化してきているのかという思いが一瞬頭をよぎった。夕方、早稲田大学の新入生の面談。

4月7日(金) 昼、新宿の映画館K's Cinemaへ。場所が分かりにくく迷ってしまった。危うく遅刻するところだった。『まなぶ 通信制中学 60年の空白を越えて』上映後のトーク。太田直子監督とともに。客席に目をやったが、平日の朝10時半からの上映によくも足を運んでくださったものだと思う。あっという間の20分。その後、新宿あたりに来て昼飯時を迎えた時には必ず行く紀伊国屋ビル地下・モンスナックでカレーを食べる。独特のスープカレー。

 18時30分から文京シビックセンターの小ホールで開かれている日本ペンクラブ主催の「共謀罪」反対の集会「共謀罪は私たちの表現を奪う」にスピーカーとして出席。と言っても19時30分までしかいられない用事があり、4番目にステージに上がって発言した。客席を見渡すと、8割くらいの席が埋まっていた。300人くらいか。絵本作家の内田麟太郎さんのお話が脱力感という力(?)がみなぎっていて面白かった。その後、平河町へ。

4月8日(土) いつもより30分早い『報道特集』の放送。教育の戦前回帰化現象と、軍学協同ネタ。学問と軍事の関係をめぐる問題は実に根源的な論点を含む。防衛省からの研究資金を受け取る大学研究者が増えている。額も飛躍的に増えている。それで一体何が悪いんだ? という学者がうようよいる世の中になってしまった。もちろん軍事研究反対の声をあげている学者・研究者たちもいる。日本学術会議内で戦後2度にわたって出された、戦争のための学問研究への反対声明を緩める動きがあったことから、これまで紆余曲折があったようだ。結果的には過去の声明の精神を継承すると謳われるようだが、現実はもっと深刻な事態に至っている。デュアル・ユースという次元をはるかに超えた「安全のための研究」が各所で行われている。アメリカ軍の資金も入っている。

 この件でいつも思い出すのは、元東大全共闘の在野の学者・山本義隆の本『私の1960年代』という本だ。軍学協同という学問研究のありかたに鋭くNOを突き付けたのは当時の東大の少壮研究者たちであり、彼らが学生時代につくったビラなどが同書には収録されている。どのような思いで反対の声をあげたのか。今読んでも考えさせられるところ大だ。特に福島第一原発事故の問題をこの視座を踏まえて考察する姿勢は誠実そのものである。

再考――山本義隆と1960年代(WEBRONZA)

 オンエア終了後に、ワシントン支局時代にまだほんの小さな子供だった森カメラマンのご長男弦矢君が局に挨拶にやってきてくれた。大学に入学したのだ。時の流れの速さを思う。17年ゼミの大発生というのが当時ワシントンであって、弦矢君がリポートしたことがあった。次の17年ゼミの発生の時も立ち会いたいもんだね、と話をする。オヤジよりも背が高かった。

 そのまま羽田から最終便で福岡へ。福岡市内の本屋さんブックスキューブリックさんでの講演会のため。小さな市民グループのお招き。武満徹の音楽愛好者グループでもある。

4月9日(日) 福岡のけやき通りという場所はなかなか雰囲気のある場所だ。宿舎として用意していただいたマンションの部屋はほとんど何もない空間で、公演の準備と他の原稿書きで時間を費やした。14時に会場の本屋さんに到着。郊外にあるちょっと洒落た個性的な本屋さんだ。本の品ぞろえもいい。50人ほどの人々に来ていただいた。筑紫哲也と武満徹、石川セリのかつての対談を肴にいろいろな話を。さらには主催者のKさんらが武満音楽を歌い、奏でた。その後、空港でRKB毎日放送のNさんと歓談。しりあがり寿さんから待ちに待ったものが届いた! すばらしすぎて涙が出る。嬉しい。

4月10日(月) 今日から早稲田大学の春学期の授業が始まる。と言っても春はゼミナールだけ。今日は学生たちへのオリエンテーション。何をやろうか。いろいろなオプションがあったが、結局、僕が最近みたなかでとても面白いと思ったものを見せてディスカッションすることにした。アフガンやイラクなどで難民への支援活動を行っているNPO法人JENの人たちが、啓蒙活動をしている難民自身による自主制作ドキュメンタリーを3本みた。『生きる』『正義のマッチョ』『15歳の花嫁』。6人きたゼミ参加希望者たちと腹を割って話し合った。希望がまだ残っている。


筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

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