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[4]辺野古基地建設に法的根拠はあるのか?

まず基地設置法を作ることが必要だ

木村草太 首都大学東京教授(憲法学)

注)この立憲デモクラシー講座の原稿は、2016年11月18日に立教大学で行われたものをベースに、講演者が加筆修正したものです。

立憲デモクラシーの会ホームページ

http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/

 

講演する木村草太教授
 

 さて、きょうはだんだん、だんだん話が重要になっていくという構造をしておりまして、最後に辺野古訴訟であります。辺野古訴訟については専修大学の白藤先生が、前回の講座で、行政法的な観点からはかなり細かくお話をされたのではないかと思います。

高裁支部判決の最大の問題は審査の対象が間違っていること

 要点だけ述べますと、例の福岡高裁那覇支部の判決の最も重要な問題は、審査の対象が誤っているということだとされております。要するに「仲井真知事がやった埋め立て承認の適法性」ではなく、「翁長知事のやった取消処分の適法性」を検討しなければいけないにもかかわらず、それをやっていないということです。審査対象を誤っているので、少なくとも差し戻せとおっしゃっている行政法学者の方が多いということであります。

 憲法学者と行政法学者は、「公法学会」というところで一緒に報告を聞いたり、学会を運営したりしておりまして、仲がいいということに表向きなっておりますけれども、体質が全然違っております。行政法学者というのは細かいことをきっちりやるのが仕事。私たちのような憲法学者というか、私は、憲法の原理原則にしたがった大雑把な話をするのが仕事ということで、これからお話をさせていただきます。

沖縄タイムスで連載を持つにいたった経緯

 私は、この辺野古問題については、昨年の代執行訴訟で意見書を書かせていただいております。その意見書の前に現地の沖縄タイムスという新聞紙で連載を持っておりまして、そこで辺野古問題について書いたことがあります。何で私が沖縄タイムスで連載をということなんですが、私は別に沖縄出身でもありませんで、沖縄との縁というのは、ほぼ唯一、高校の修学旅行先が沖縄だったというだけであります。

 そのときの思い出をちょっと振り返りますと、修学旅行の二日目は生徒たちがそれぞれ好きなコースを選べるというものでありました。私はあまり深いことを考えずに、沖縄最北端・辺戸岬に行きますよというコースを見て、「最北端、それはすばらしい」とチェックを入れました。後々調べてみると、那覇というのは沖縄の一番南の方にある、ホテルは当然那覇であると。最北端まで行くということは、一日バスに乗っているというコースでありまして(会場・笑)、せっかく沖縄に来たのに、ずっとバスの中というコースで、最も満足度が低かったコースであったわけであります。この話は、沖縄の講演会でお話しすると、頷く人が多いのですが、現地の方にはよくわかるんだと思います。ただ、辺戸岬の景色は素晴らしいので、ぜひ、いらしてみて下さい。

 そんなことがあったんですが、何で沖縄タイムスで連載を持つようになったか。沖縄タイムスから、特定機密保護法が施行される前のタイミングで電話かかってきまして、「特定秘密保護法について取材をさせていただきたい」と。「ああ、そうですか」と、お話を30分したところ、「ついでなので一票の格差についてもお話をしていただきたい」。これで、30分お話ししまして、「ついでだから立憲主義について話を聞きたい」、また30分話をいたしました。合計1時間半しゃべりました。大体新聞の取材というのは、2時間しゃべって2行というのが相場なので、そんなもんだろうと思っていたら、沖縄タイムスは全部、結構な分量の記事にしてくれまして、おお、地方紙は充実している、と思ったんです。

 さらにその1週間後に、いきなりまた電話がかかってきて、また取材かなと思ったら、「連載を持ってくれませんか?」ということを言われまた。「私、沖縄には高校で行ったとき以来、全く行ってないんですがいいですか?」といった会話をして、「全く問題ございません」ということで、沖縄タイムスに連載を始めさせていただきました。

 沖縄タイムスで連載をするのであればということで、辺野古問題を第一号にしようということになりました。ちょっと沖縄の現地の新聞事情を言いますと、沖縄では全国紙、読売新聞とか朝日新聞を取っている人はほとんどいません。何でかというと、現地で刷っていないので、朝日も読売も朝刊が届くのは昼過ぎ、どこがどう朝刊なのかというものになるので(会場・笑)、現地で刷っているタイムスか琉球新報、経済界の方は日経新聞を取る人が多い。全国紙でも日経だけは現地で1500部ぐらい刷られているそうなんですが、琉球新報と沖縄タイムスが、それぞれ約15万部ずつというライバル関係にあって、しのぎを削っているというのが沖縄の新聞業界であります。

 「沖縄の新聞」と一くくりにされるんですけれども、両新聞は大変仲が悪いということで知られております。昨年、百田尚樹さんの「沖縄の新聞つぶせ」事件というのがあって、TBSラジオの「セッション22」という番組で、琉球新報の記者、島洋子さんと、タイムスの記者、宮城栄作さん、この方は私の担当者でもあるんですが、このお二方が出てきて、事件についてお話ししていました。ラジオを聴いていると、新報の島さんの、タイムスに対するライバル意識がすごくてですね、宮城さんは割と控えめな方なので、始終押し込まれっぱなし。百田尚樹さんの暴言についてしゃべっていたはずが、なぜか新報がタイムスに説教する番組になっていました(会場・笑)。沖縄タイムスにとって、百田尚樹さんの何倍も何倍も琉球新報のほうが怖いということがだんだんわかりまして(会場・笑)、私も「打倒、琉球新報」を掲げてですね、一生懸命書いています。

辺野古基地建設をだれがどうやって決めたのか?

講演する木村草太教授
 さて、そんな中で、辺野古問題を憲法学的に読み解かねばならない。どこから考え始めようかと考えたときに、国が何かをするにはその根拠法があるはずだ、ということで、辺野古に基地をつくることを、だれがどうやって決めたのかというところの検討から始めました。

 防衛庁のホームページにいきますと、「日米で協議して決めました」と書いてある。米軍基地なので、日本が勝手にここにつくるわけにはいかない。他方で、日本にある基地なので、アメリカ政府が勝手に決められるものではない。だから、日米の合意がありますと。ただ、これはあくまで国家と国家の約束、外交上の合意にすぎません。これとは別に、国内的な手続きがあるはずなんですが、小泉内閣と鳩山内閣が閣議決定したというのがどうも法的根拠らしいということが、説明からわかりました。

 「この場所が米軍基地になる」ということは、日米地位協定が適用されるので、その場所について、排他的管轄権を米軍が持つということです。つまり、その場所についての自治権が大きく制限されます。例えば、立教大学のある場所が丁度良いということで、ここが米軍基地になったとしたなら、東京都と、東京都豊島区の自治体としての権限がその場所に、ほぼ及ばなくなってしまうわけです。

米軍基地の設置は自治権を制限する

 例えば、自治体の持っている環境規制の権限も制限されます。立ち入ることができなくなるのはもちろんのこと、基地利用が終わって返還されるときにも、原状回復義務がないんですね。米軍が土地を返すときに、環境を汚染していたとしても、それをきれいにする義務はない。実際、沖縄で返ってきた基地を掘り返してみると、

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