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私が学者の「一線」を超えて民進党を支援するわけ

民主主義の本質は選択肢の豊富さ。「この道しかない」ではない。

井手英策

東京都内でひらかれた民進党大会=2017年3月12日拡大東京都内でひらかれた民進党大会=2017年3月12日

キング牧師をイメージした民進党大会の挨拶

  私には夢がある(I have a dream)――。3月12日、民進党の党大会の来賓として壇上に立った僕は、公民権運動の旗手として知られるキング牧師の、あの有名な演説をイメージしていました。

 型どおりの挨拶にはしたくありませんでしたし、できませんでした。キング牧師がかつてそうしたように、居並ぶ民進党のみなさんに、自らの思いを率直に語りかけ、この国をよりよい国に導いてもらえるよう全身全霊で「説得」しよう、と考えていたからです。

 「普遍的な真理を追い求める学者が、特定の政党を応援する場に来る。これはとても勇気のいること、いや、むしろ恥ずべきことでさえあります」
 「学者としての命をかけるならここだ、そういう覚悟でこの場に立っています」
 「自己責任の恐怖におびえる国から、生まれてよかったと心底思える国に変えてほしい」

 12分間の演説はあっという間でした。会場は静まり返っていました。僕の心臓はドキドキしていましたが、観客席から息遣いが聞こえたような気がしました。そして最後には大きな拍手。ネットにもアップされ、あちこちから激励のメッセージをいただきました。

 学者の道を外れているという非難は承知の上です。友人たちからは、落ち目の民進党に肩入れしてどうするのか、という批判的な忠告ももらいました。

 どうして僕は学者生命をかけてまで、民進党にメッセージを送ろうと思ったのか。政治に関与して、一体、何をしたいのか。悩みと葛藤、そして希望を、語りたいと思います。

人口減少期は歴史の「転換点」

 大きな話から始めましょう。歴史には「転換点」があります。特に人口が減少する時代には、転換を促す大きな力があります。人が減ると人と人との関係が変わり、それまでの社会システムが維持できなくなるからです。

 たとえば19世紀の後半、スウェーデンでは人口が激減しました。社会秩序が揺らぐなか、生きていくために人々は互いに助け合う道を探りました。その結果生まれたのが、社会民主主義モデルです。助け合いの方法は一つではありません。戦前の日本の「一君万民」的なファシズムだってそうだし、ケインズ主義、共産主義や社会主義もそうでした。

 さて、日本ではいま、人口の減少が止まりません。明らかに「転換点」です。経済成長のあり方や社会システムは大きく変わりつつあります。最たるものは、戦後日本を支えてきた「自己責任モデル」の破綻です。

 ハッキリ言えば、経済が成長する、所得が増える、貯金で住宅購入費や教育費、医療費に充てる――というモデルが成り立たなくなった。なんとか経済を成長させて所得を増やし、貯蓄できる状態をつくろうと躍起になっているアベノミクス、そして、成長の競い合いに夢中になる野党は、僕には時代に対する「誤れる抵抗」にしか見えません。

目の前のことに対応する政治を補う

 潜在成長率はゼロ%半ば程度、アベノミクスにオリンピック需要が加わっても、リーマン危機以前の設備投資すら回復できない。物価はあがらず、実質成長率も1%。自己責任モデルではもうもたない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの後、「祭りの後」の空気のなかで思想的、政治的な空白状態が生まれる前に、新しいモデルを見つけないといけません。そのために、誰かが発言し、提案し、行動しなければならないのです。

 政治家に期待したいのですが、彼らは目の前のことに対応することが役割。中長期的な課題を考える余裕はありません。だとすれば、いまこそ、中長期的にものを考えられる立場にある人、つまり、僕たち学者が発言しなければならないのではないか、と思いました。

 平時であれば、学者は真理の探求にふけるべきです。しかし、転換期にはそれでいいのか。そこで発言しなくて、何のための社会科学なのか。新しいモデルづくりに向け、自分のこれまでの研究をいかして政治に関わろうと決意したのは、そんな思いからでした。その意味で、10年前でも10年後でも、いまの僕はいないと思います。

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筆者

井手英策

井手英策(いで・えいさく) 慶応義塾大学教授

1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専門は財政社会学、財政政策史、地方財政論。著書に『経済の時代の終焉』(岩波書店・大佛次郎論壇賞)、『分断社会を終わらせる』(共著、筑摩書房)、『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)など多数。