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嵐の中を船出する文・新大統領

アメリカと中国の狭間で難しい舵取りを迫られる韓国

児玉克哉 社会貢献推進国際機構理事長、インドSSI大学国際平和創造研究センター所長

拡大開票センターに集まった支援者と握手する文在寅氏=5月9日、ソウル

 5月9日の韓国大統領選で、文在寅氏が第19代大統領に選出された。今回の選挙は、朴槿恵前大統領の罷免という異常事態を受けての選挙であり、国際的な注目度が高いものとなった。さらに、北朝鮮が核実験やミサイル発射などの挑発を続け、それにアメリカが圧力を加え、緊張が高まる中での選挙でもあり、今後の東アジアの情勢を占う意味でも重要なものとなった。

 中央選挙管理委員会の発表によれば、文氏は1342万3800票(得票率41.08%)、洪準杓氏は785万2849票(同24.03%)、安哲秀氏は699万8342票(同21.41%)であった。文氏が圧勝とみえるが、注目すべき点が2つある。まず文氏の得票率が50%を超えるかどうかがポイントの1つであった。選挙戦では文氏が序盤から他を圧倒しており、朴前大統領と同じく大統領選で過半数を制しての当選が期待された。韓国民の「分断」の危機も叫ばれただけに過半数以上の票を獲得し、圧倒的な支持のもとで当選をしたいところであった。5名の候補者がいたこともあったが、結果は4割の得票率にとどまった。文路線を快く思わない国民も多くいるということだ。韓国の政治情勢の変化によってはまた不安定化する可能性がある。

 もう1つのポイントは、保守系である洪氏の票の伸びだ。今回の選挙は、保守系の朴前大統領の罷免から行われただけに、保守系候補者は不利であった。朴前大統領への反発が強く、世論調査では洪氏の支持率は低迷したままであった。変化が生まれたのは選挙の直前だ。北朝鮮の挑発に対して、革新系の大統領に任せられないという保守層が、次善の策であった安氏から洪氏に移り、急激に支持を伸ばした。結局2位は安氏ではなく、洪氏となった。確かに文氏と洪氏との間に差は歴然とあるが、ダブルスコアとはならず、洪氏は文氏の約6割の票を獲得して、なんとか体裁を保つことができた。2位を確保できたことで、文氏の失策を狙う立場を得たことになる。韓国の政治状況は不安定なままの可能性が高い。それだけに2位につけていることは大きな意味を持つことになるかもしれない。

韓国経済にはネガティブな影響か

 文新大統領の誕生によって今後の韓国はどうなるだろうか。今の韓国においてプライオリティーの高い課題は、経済再生だ。韓国のここ15年間の経済成長はすさまじかった。1997年のアジア通貨危機を乗り越えた後は、経済は順調に発展していった。かつては日本企業と韓国企業との差は歴然としており、まともな勝負にはならないと考えられていた。しかし、活力を失う日本企業を尻目にサムソンは世界的企業に成長し、日本企業に追いつき、追い越した。韓国経済の世界における存在感は著しく強まった。中国との関係を強め、中国の驚異的な経済成長の恩恵も受けながら、驚異的発展を遂げたのである。しかし、ここ2年くらいの間に中国の経済成長が停滞するにつれ、韓国経済の発展にも陰りがみえてきた。

 追い打ちをかけるように、朴政権下での崔順実ゲート事件が勃発し、サムスンなどの大財閥も巻き込まれる事態となった。さらに朝鮮半島の緊張が高まり、THAAD配備問題がクローズアップされ、中国は様々な形で韓国叩きを行いつつある。韓国経済が受けるダメージは大きい。

 文大統領は、左翼政権を構成するわけで、韓国経済にはネガティブな影響があると予想される。文大統領は、財閥改革には積極的に取り組むだろう。これにはプラスの面もあるが、急速に行われるなら、財閥改革は韓国の競争力を削ぎ、景気の低迷の長期化に繋がる危険性が指摘されている。財閥改革はこのような経済危機の状況ではなく、 ・・・続きを読む
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筆者

児玉克哉

児玉克哉(こだま・かつや) 社会貢献推進国際機構理事長、インドSSI大学国際平和創造研究センター所長

三重大学副学長・人文学部教授などを歴任し現職。専門は国際平和論、市民社会論、NGO論など。国際平和研究学会の現事務局長でもあり、世界の平和研究の中核を担っている。グローバルな視点から社会科学の発展に寄与している。核兵器廃絶へ向けた「ヒロシマ・ナガサキプロセス」を提案し、世界的な運動を繰り広げている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。

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