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続・『わが闘争』の教材使用を政府が容認した底意

現れつつある「戦後民主制」と「戦前回帰」とのハイブリッド

小林正弥 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

議会で演説をするアドルフ・ヒトラー=1939年拡大議会で演説をするアドルフ・ヒトラー=1939年

新生・森友学園の声明と新旧教育基本法

 一連の問題で批判を浴びてきた森友学園は、『わが闘争』の教材使用を容認した政府とは正反対の方向を宣言した。籠池泰典氏の理事長辞任後に、その娘である籠池町浪・森友学園新理事長は、新体制に関して次のような声明を出したのである。

(森友学園が運営している塚本幼稚園のカリキュラムが)「「愛国教育」、「国粋主義」と捉えられ、具体的には「教育勅語を暗唱させる幼稚園」、「自衛隊行事に参加する幼稚園」とのご指摘を受け、社会問題化するに至りました。これらは全て、教育基本法が平成18(2006)年に改正された際に新たに設定された「我が国と郷土を愛する態度を養う」との教育目標を、幼児教育の現場で生かそうとした前理事長なりの努力と工夫の結果であると理解しております。/しかしながら今般、新年度より新体制にて再出発するにあたり、平成18(2006)年改正の教育基本法に基づく前理事長の教育理念と方針及び指導法を批判的に総括し、……我々の教育内容を再検討いたしました。……今後は、教育基本法が昭和32(1947)年〈ママ *編集部注:昭和22年公布・施行〉に制定された際に示された「われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。」との指針を常に念頭におきつつ、内容・カリキュラムを柔軟に見直して参ります。」

 つまり、これまでの愛国主義的教育は新・教育基本法(2006年)に基づくものだったが、批判を浴びたので見直し、これからは旧・教育基本法(1947年)の理念に立ち返って教育内容を刷新するというのだ。これ自体はきわめて論理的で、清新な印象を与える声明である。

 前稿(「『わが闘争』の教材使用を政府が容認した底意――「民族主義」は「不適切」でも、「国家主義」や「反民主主義」は否定せず」)でも触れたように、教育基本法を改定したのは第1次安倍内閣だから、安倍政権の志向する教育と訣別して、もともとの教育基本法の理念に基づく教育を再選択すると宣言したことになる。

 ここから読み取れることは、以前の森友学園の教育は新・教育基本法の理念に即したものだったと当事者によって認識されていることだ。つまり、その国粋主義的教育は風変わりな一理事長(当時)の奇矯な試みではなく、逆に安倍政権が推進する路線に即した「前理事長なりの努力と工夫の結果」である。それを極めて忠実に行ったからこそ、以前は安倍首相がその教育に共感し、その夫人が瑞穂の國記念小學院の名誉校長を引き受けたのではないだろうか。

 これを踏まえて考えてみれば、今の教育基本法に即していれば『わが闘争』の教材使用を政府が容認したのも当然に思えてくる。――もともと新・教育基本法は国家主義的な教育を可能にするように改定されたのだから、そのもとで『わが闘争』を愛国教育の目的のために用いることは可能なのである!

蘇る日独の戦前――新権威主義的教育

 それでは『わが闘争』の柱の一つたる「反民主主義」についてはどうだろうか。この本は民主主義や議会主義を否定しているから、その教材使用は今の教育基本法と矛盾すると思うかもしれないが、そう単純ではない。 ・・・続きを読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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