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フランス大統領選が示した民主政治の変貌(上)

旧い保革対立は一掃され、新たな対立軸が生成された

吉田徹 北海道大学教授

終わらないポピュリズムの危機

 民主政治のあり方は大きく変化しつつあるのではないか――。今年の4月と5月に行われたフランス大統領選挙を通じて確認できたのは、先進国の社会を襲っている深い分断とそれに基づく政治の地殻変動だった。

 確かに、英EU離脱、米トランプ大統領の誕生に続く、グローバルなポピュリスト・ドミノは、フランス大統領選でのルペン敗退で打ち止めになったかのようにみえる。しかし、その一方でオーストリア大統領選ではやはり極右政治家が座を争い、ハンガリーでは自由主義の終わりを標榜する首相が国を率いている。ポピュリズムの危機は今後とも続くだろう。

 そうであれば、ポピュリズムを単に論難するのではなく、それが跋扈する理由を探ってみなければならない。そこで顔を覗かせているのは、旧い保革対立の一掃と個人リベラリズム対共同体主義的権威主義という、新たな対立軸の生成である。

フランス大統領選を見守るパリ市民拡大フランス大統領選を見守るパリ市民

反グローバル化の大波

 まず、フランス大統領選の結果を簡単に確認しておこう。

 4月23日に行われた第一回投票では、決選投票でも首位となるマクロン候補が24%、続いて極右・国民戦線(FN)のルペン候補が21%で2位となった。

 注目すべきは、両者を含む11名の候補者のうち、明確に親EU・自由貿易の立場をとったのはマクロンにとどまり、残る75%の票は反EU・反グローバルを唱える勢力に配分されたことだ。二大政党の一角を占め、長い与党経験のある共和派(PR)のフィヨン候補でさえ、欧州委員会を中心とした官僚支配を批判し、アメリカとの自由貿易協定(環大西洋貿易投資パートナーシップ、TTIP)を取りやめることを公約としていた。

 反EUと反グローバル化の立場は、ルペンのみならず、泡沫候補である極左のトロツキスト勢力候補者から社会党候補者としては過去最低の得票率に甘んじたアモン前国民教育相まで、あまねく共有されていたのである。

 厳密に言えば、反EUと反グローバリズムは重なる部分と重ならない部分がある。EUには親市場寄りの側面もあれば、市場を規制する側面もある。グローバリズムにも、資本の往来を可能にする経済的グローバリズムと、移民を含む人の自由移動と受け入れを進める文化的グローバリズムの両面がある。しかし、相対的に親EU派の候補者であってもEUを反グローバリズムの砦として再構築しなければならないと強調するなど、反グローバリズムが全般的な基調となったのは事実だ。

マクロンは勝利したのか?

 経済政策においても社会政策でも、個人の自己決定権と多様性を掲げるリベラリズムの旗手たるマクロンが決選投票で大統領に選出されたことで、反グローバリズムは敗北したとみることもできない。歴史的な低投票率と、1割を超えた無効票・白票が数えられた決選投票でのマクロンの絶対得票率は43%に過ぎない。しかも、選挙後の調査では、彼に投票した6割以上の有権者が他の選択肢がないため「止む無く」投票したと回答している。

 つまり、今回の選挙では、ルペンという未知数ではなく、結果的に既成政党の支持を獲得することに成功したマクロンという安心を選んだ結果に過ぎない。マクロンが大統領になって1ヶ月が経っても、有権者の6割が新大統領に「不安を覚える」と答えているのは象徴的だ。

ルペンが代表するもの

 マクロンの代表するリベラリズムの極に挑んだのが、ルペン候補が代表する権威主義の極である。マリーヌ・ルペンは2011年にFN党首に選出されてから、それまで党の特徴だった歴史修正主義や人種差別の姿勢を積極的に封印し、代わりにグローバル資本・大企業批判など、大きな政府路線を前面に掲げるようになった。

 折から、2010年のユーロ危機と過去最高水準の失業率を経験するなか、このポピュリズム路線が奏功し、2012年の大統領選でルペンは保革候補に次ぐ得票率3位(18%)につける。さらにその勢いをかって、FNは2014年の欧州議会選挙で第一党の座を確保した。

FNのマリーヌ・ルペン党首拡大FNのマリーヌ・ルペン党首

 彼女が大統領選で公約したのは、自由貿易協定の廃止やEU条約再交渉、移民受け入れの上限化、シェンゲン協定からの離脱などである。なかでも「フレングジット(フランスのEU離脱)」を可能にするユーロ圏離脱の国民投票は、目玉公約のひとつだった(もっとも選挙戦が進むにつれ、EUとの交渉を経てから国民投票を行うとイギリスのキャメロン政権と同様の立場へと修正した)。

 ポピュリストと化したルペンの主張の根底にあるのは国家主権の回復である。立候補を正式表明した2月の演説で彼女は、「自由で独立した民主的な国」でなければならないフランスは現在、金融グローバリズムとジハード(聖戦)グローバリズムによる危機に晒されており、それゆえ有形無形の国境の再建を可能にする主権の回復が実現されなければならないと訴えた。

 彼女はまた「グローバル化の陰で忘れられた人々」というフレーズを好んで使ったが、それは強いナショナルな権威のもと、大きな政府の保護主義によって弱い立場にある国民を守らなければならないという論理と結びついていた。

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筆者

吉田徹

吉田徹(よしだ・とおる) 北海道大学教授

1975年生まれ。慶応義塾大学卒。東京大学大学院総合文化研究家博士修了。学術博士。専門は比較政治、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、『「野党」論』(ちくま新書)、『ポピュリズムを考える』(日本放送出版協会)、共編著に『ヨーロッパ統合とフランス』(法律文化社)、『政権交代と民主主義』(東京大学出版会)など。