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フランス大統領選が示した民主政治の変貌(下)

旧い保革対立は一掃され、新たな対立軸が生成された

吉田徹 北海道大学教授

先進国社会に和解不能の2つの世界

 ルペンとマクロンの対決を、英フィナンシャル・タイムズ紙は「国家主義者と国際主義者の典型的な戦い」と評した。実際、マクロンは選挙が「プログレッシブとナショナリズム」の戦いだといい、ルペンは「グローバル主義者と愛国者」の戦いだとした。2017年のフランス大統領選でみられたのは、「リベラル/グローバル/個人」の極と「権威/ナショナル/共同体」の極の対立であり、これに伴う政治的対立軸の編成の予兆である。

パリでは5月8日、マクロン大統領に反対するデモ隊が大通りを埋めた拡大パリでは5月8日、マクロン大統領に反対するデモ隊が大通りを埋めた

 大統領選の最中の興味深いエピソードがある。

 第一回投票が終わった後、マクロンは閉鎖の憂き目にあっている地元の家電メーカー工場に出向き、「グローバル化の連鎖から抜け出ることはできない。隣の工場は中国に輸出して雇用を守っている。労働者に必要とされるのは再訓練だ」と、ピケを張る労働者を説得した。一方、ルペンも同日、同じ工場に赴き、「工場閉鎖はグローバル化のせいだ。国家が補助金を出してまでも工場を守り、雇用を救わなければならない」とぶち上げた。

 ここにポスト工業社会における新たな政治的対立軸の萌芽をみることができるだろう。具体的には、グローバル経済を所与のものとし、個人のケイパビリティ(能力)や自己決定権を高めることによって豊かさを実現していくマクロン流の「個人リベラリズム」と、社会保障を含め様々な生活リスクを安全保障化(セキュリタイズ)していく強い共同体を良しとする「共同体主義的権威主義」の対立軸である。

 この方向性の違いは、マクロンの公約が経済政策や社会政策における人的資本への投資を、ルペンのそれが中小企業や家族の保護を強調している点にも現れている。

 政治で選択肢があることは好ましい。問題は、グローバル化時代における先進国社会において、この2つの政治的方向性が、相互和解が不可能な2つの「世界」を作り上げてしまっていることにある。

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筆者

吉田徹

吉田徹(よしだ・とおる) 北海道大学教授

1975年生まれ。慶応義塾大学卒。東京大学大学院総合文化研究家博士修了。学術博士。専門は比較政治、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、『「野党」論』(ちくま新書)、『ポピュリズムを考える』(日本放送出版協会)、共編著に『ヨーロッパ統合とフランス』(法律文化社)、『政権交代と民主主義』(東京大学出版会)など。