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加計学園問題における前川喜平前次官の倫理的抵抗

公僕の志は、官僚制の歴史的退行を食い止められるか

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

前川喜平・前文部科学事務次官前川喜平・前文部科学事務次官の“告発”は、日本の官僚制のあり方を問い直してもいる

なぜ前川氏は証言したのか

 森友学園問題に続いて、加計学園の獣医学部新設計画についても政権による国家の私物化が指弾されている。「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」などと記されている内閣府からの文書の存在が報道され(朝日新聞、5月17日)、文部科学省の前事務次官・前川喜平氏が「あったものをなかったことにすることはできない」という名文句のもとに「本物」と証言し、伝えらえた意向に文科省はやむなく従って「行政がゆがめられた」と語ったのだ(朝日新聞、5月25日)。国の助成金は国民の税金から出るのだから、獣医学部新設には農水省や厚労省がその必要性を客観的に示す必要があるにもかかわらず、それなしに文科省は内閣府の圧力に押し切られたという。

 もし、それが事実だとしたら、国家戦略特区の事業において、規制緩和や「岩盤規制に穴をあける」という大義名分を掲げつつ、実は首相の親友のために内閣府審議官や首相補佐官が働いて巨大な便宜を提供したことになる。森友学園の場合は「瑞穂の國記念小學院」名誉校長となった昭恵首相夫人の働きかけが明るみに出たのに対し、加計学園理事長は首相自らの親友であり、便宜の金額的規模がはるかに大きい。森友学園について「籠池泰典氏の言う「神風」はいつ、どう吹いたか?――安保法強行採決と同時期に起きた森友学園問題に見る「国家の私物化」」(WEBRONZA)で指摘した通り、これらは典型的な縁故主義(ネポティズム)であり、政治的な腐敗である。簡単に言えば、身内や親しい人をえこひいきし、そのために便宜を計ったことになる。

 前川氏はなぜこのような証言を行ったのだろうか。

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